ROE投資シミュレーション(後編)
前回のおさらい。
<前提>
「高ROE社」 ROE : 20%
「低ROE社」 ROE : 5%
両社とも
・PERは常に20倍。
・ROEは変動しない。
・現有の有形無形資産による(=利益を再投資しない場合の)成長率はゼロ。
<結果>
①利益を配当もしくは自社株買いで全額株主還元する場合、投資家のリターンはPERのみに依存し、高ROE株と低ROE株のリターンは変わらない。
②利益を全額再投資する場合、ROEの差がそのまま複利効果の差となり、高ROE株のリターンは低ROE株に優越する。
このシミュレーション結果を単純に受け取ってはならない。ROE否定派からはすぐさま次の疑問が飛んでくる。
【疑問点1】
とても大事な点なので、まず、この疑問の意味をより具体的に説明したい。
高ROE社の目覚ましいリターンは、投資時点の事業・資産によるものではなく、将来の投資効率によってもたらされたものである。なぜならば、前提条件で両社のROEをそれぞれ20%と5%に固定したため、再投資効率も自動的に20%・5%に設定されてしまう。ゆえに、本来不確定であるはずの将来成長率に違いが生じてしまっている。しかし、高ROE社の新規投資効率が低ROE社のそれを上回る保証などない。したがって、このシミュレーション結果は、PERが同じであれば成長率が高いほうがリターンが良いという当たり前の結論を示しているに過ぎず、投資時点のROEの高低は投資成績と関係がないことを逆説的に証明しているのではないか。
反論は困難だ。たしかにシミュレーションは将来成長率を所与の数値としてしまっている。
それでも、再投資のみで高ROEを維持し続けられれば、ROEは投資家に素晴らしいリターンをもたらすことは事実なのだ。再投資のみで、ということは、利益の絶対額が急速に増え続けるということだ。果たしてそんなことが可能か。そしてそのような企業を投資家は事前に見極められるのか。
これについては答えを出すことができない。ただ、その企業の過去の資本政策とROEは、上述の見極めに大きく役立つとこのブログは繰り返し主張してきた。少なくとも、私はアヒル(低ROE企業)が白鳥(高ROE企業)になることを期待するより、白鳥が白鳥のままであることを予測するほうが性に合っている。もちろん、私の期待とは無関係に、美しい白鳥はいとも簡単に傷つき倒れる。だから、私は特定の白鳥にベットせず、白鳥飼育業者となるべく、日々、ポートフォリオを拡充している。
そして改めて思う。配当や自社株買いを期待しない前提でのROE重視の投資は、つまりグロース株投資と同義なのだと。そこには理屈で語れないロマンがある。株式投資は科学ではないのだ。
シミュレーション結果はYesと回答している。疑問点1で露わになったが、結局のところ卓越したリターンをもたらす高ROE投資とは成長株投資でもあり、成長機会のない高ROE株など、それなりに納得感のあるリターンしかもたらすことのないキャッシュ・カウに過ぎない。
しかしまあ、と投資家は考え直す。キャッシュ・カウだって悪くない。年率で見ればもの足りなく見えるリターンだとしても、複利効果を味方につければ巨万の富を形成することは可能だ。成長性に頼らない投資というのはとても心地よく、ポートフォリオのオアシスになってくれるだろう。利益を全額、配当や自社株買いで還元する。素晴らしいことじゃないか。株式会社の本来の使命は、その利益を現金として投資家に還元することだと教科書で読んだことがある。それに私には当面の生活資金だって必要だし…
ただ待てよ。現時点でどうせ同じリターンのキャッシュ・カウなら、既に高ROEの企業より、ROE向上の余地が残されている低ROE株の方が良いではないか?
そこの投資家さん、落ち着いて考えてみよう。成長性のない低ROE企業が置かれている状況として真っ先に想像されるものは何だろう。それは利益を稼いでも、内部留保として現金をブタ積みにしている姿だ。投資先がないのに配当も自社株買いもしないから自己資本が膨れ上がって、毎年同じ利益を稼いでもROEは徐々に低下していくそんな姿だ。もちろん、わずかな例外も存在する。
逆に成長性のない高ROE企業を想像してみよう。思い浮かぶのはシミュレーション前提と同じような高還元企業の姿だ。低成長企業が高ROEを維持しようとすれば、株主還元に積極的にならざるを得ない。ROEの分子が成長しないのだから、お風呂の栓を開けっ放しにして蛇口から出てくる水を放出し、分母を一定に保たないとならない。つまり、高ROE・低成長・低株主還元は併存しない。これには例外がない。
低ROE・高還元株は高ROE・高還元株と同じ程度に素晴らしい。問題は、前者の条件を満たす企業の圧倒的不足にある。この事実を前にして、私たちは高ROE株を積極的に選好しているわけでなく、高ROE株を選ばされていることに気付くのだ。
<前提>
「高ROE社」 ROE : 20%
「低ROE社」 ROE : 5%
両社とも
・PERは常に20倍。
・ROEは変動しない。
・現有の有形無形資産による(=利益を再投資しない場合の)成長率はゼロ。
<結果>
①利益を配当もしくは自社株買いで全額株主還元する場合、投資家のリターンはPERのみに依存し、高ROE株と低ROE株のリターンは変わらない。
②利益を全額再投資する場合、ROEの差がそのまま複利効果の差となり、高ROE株のリターンは低ROE株に優越する。
このシミュレーション結果を単純に受け取ってはならない。ROE否定派からはすぐさま次の疑問が飛んでくる。
【疑問点1】
結果②について物申す。高ROE社への投資リターンが優越する結果となったのは、単に再投資の投資効率の違いが反映されたものに過ぎないのではないか。
とても大事な点なので、まず、この疑問の意味をより具体的に説明したい。
高ROE社の目覚ましいリターンは、投資時点の事業・資産によるものではなく、将来の投資効率によってもたらされたものである。なぜならば、前提条件で両社のROEをそれぞれ20%と5%に固定したため、再投資効率も自動的に20%・5%に設定されてしまう。ゆえに、本来不確定であるはずの将来成長率に違いが生じてしまっている。しかし、高ROE社の新規投資効率が低ROE社のそれを上回る保証などない。したがって、このシミュレーション結果は、PERが同じであれば成長率が高いほうがリターンが良いという当たり前の結論を示しているに過ぎず、投資時点のROEの高低は投資成績と関係がないことを逆説的に証明しているのではないか。
反論は困難だ。たしかにシミュレーションは将来成長率を所与の数値としてしまっている。
それでも、再投資のみで高ROEを維持し続けられれば、ROEは投資家に素晴らしいリターンをもたらすことは事実なのだ。再投資のみで、ということは、利益の絶対額が急速に増え続けるということだ。果たしてそんなことが可能か。そしてそのような企業を投資家は事前に見極められるのか。
これについては答えを出すことができない。ただ、その企業の過去の資本政策とROEは、上述の見極めに大きく役立つとこのブログは繰り返し主張してきた。少なくとも、私はアヒル(低ROE企業)が白鳥(高ROE企業)になることを期待するより、白鳥が白鳥のままであることを予測するほうが性に合っている。もちろん、私の期待とは無関係に、美しい白鳥はいとも簡単に傷つき倒れる。だから、私は特定の白鳥にベットせず、白鳥飼育業者となるべく、日々、ポートフォリオを拡充している。
そして改めて思う。配当や自社株買いを期待しない前提でのROE重視の投資は、つまりグロース株投資と同義なのだと。そこには理屈で語れないロマンがある。株式投資は科学ではないのだ。
【疑問点2】
成長機会のない高株主還元株への投資にあたっては、ROEを一切考慮する必要がないのか?
シミュレーション結果はYesと回答している。疑問点1で露わになったが、結局のところ卓越したリターンをもたらす高ROE投資とは成長株投資でもあり、成長機会のない高ROE株など、それなりに納得感のあるリターンしかもたらすことのないキャッシュ・カウに過ぎない。
しかしまあ、と投資家は考え直す。キャッシュ・カウだって悪くない。年率で見ればもの足りなく見えるリターンだとしても、複利効果を味方につければ巨万の富を形成することは可能だ。成長性に頼らない投資というのはとても心地よく、ポートフォリオのオアシスになってくれるだろう。利益を全額、配当や自社株買いで還元する。素晴らしいことじゃないか。株式会社の本来の使命は、その利益を現金として投資家に還元することだと教科書で読んだことがある。それに私には当面の生活資金だって必要だし…
ただ待てよ。現時点でどうせ同じリターンのキャッシュ・カウなら、既に高ROEの企業より、ROE向上の余地が残されている低ROE株の方が良いではないか?
そこの投資家さん、落ち着いて考えてみよう。成長性のない低ROE企業が置かれている状況として真っ先に想像されるものは何だろう。それは利益を稼いでも、内部留保として現金をブタ積みにしている姿だ。投資先がないのに配当も自社株買いもしないから自己資本が膨れ上がって、毎年同じ利益を稼いでもROEは徐々に低下していくそんな姿だ。もちろん、わずかな例外も存在する。
逆に成長性のない高ROE企業を想像してみよう。思い浮かぶのはシミュレーション前提と同じような高還元企業の姿だ。低成長企業が高ROEを維持しようとすれば、株主還元に積極的にならざるを得ない。ROEの分子が成長しないのだから、お風呂の栓を開けっ放しにして蛇口から出てくる水を放出し、分母を一定に保たないとならない。つまり、高ROE・低成長・低株主還元は併存しない。これには例外がない。
低ROE・高還元株は高ROE・高還元株と同じ程度に素晴らしい。問題は、前者の条件を満たす企業の圧倒的不足にある。この事実を前にして、私たちは高ROE株を積極的に選好しているわけでなく、高ROE株を選ばされていることに気付くのだ。
ブレノン氏のブログ発見!
返信削除応援してるのでやめないでね(^o^)v
今回は簡単な事を難しく書いている印象を受けました。
返信削除配当を再投資に回した時の福利の変動を、低ROEと高ROEで比較してみるところまでやると読者からは面白かったかな、と思います。
(文中にも少しこの事は書かれていますが、ちょっとインパクトが薄いかなという印象を受けました)
えらそうな事を言ってすみません。
これからも一読者として、引き続き読ませて頂きます。
>>キミマロさん
返信削除2ちゃんねるで私の投稿を読まれた方でしょうか。とにかくありがとうございます。
継続によって私自身と読者の方の勉強になるようなサイトを目指しています。
>>MEANINGさん
ご指摘、ありがとうございます。
私自身、答えを持たないままシミュレーションを開始し、案外普通の結論しか出てこなかったものなので、やや小難しく表現することにより"盛って"しまった面はあるかもしれません。
ちなみに、配当再投資による複利効果は自社株買いのそれと同じになるので、やはり高ROEと低ROEの違いは生じないものと思われます。
ROEに集中した連載は新機軸を思いつくまでは小休止とし、しばらくは他の話題に移ろうかと思っています。
配当再投資はその通りなんですが、その先に自社株買い(償却)との比較をして、同じという意見まで出すと分かり易いです。
削除(細かい税金2重課税の話を入れるかどうかはさて置くとして)
信じられないかもしれませんが、全部分かった上で長期的な観点からすると違うと言う見解を言う人も居ます。
でも、そこまで話を広げると少し話が分かり難いので、単純に自社株買い(償却)は配当と同じというところまでに留めておいて、ちょっと説明すると分かり易いかなと思いました。
高PBR銘柄の自社株買い(償却)は配当出すのと同じ効果があるかどうか、良く分かっていない人が多いです。これは意外にバリュー投資家さんに多い印象を受けます。
高ROEを維持する為の手法として、自社株買い(償却)や配当と言う手法がある。どちらもしないで高ROE銘柄が目的もなく自己資本比率を上昇させる場合は、とても大きな説明責任がある。という流れに持っていければ面白いかなと思いました。
ROEはネタが尽きないです。
新機軸のネタを探しているなら、このブログなんかオススメですよ。
http://kanrikaikei.blog.fc2.com/
ご紹介いただいたブログ、私の本業とも深く関連しているので、大変興味深いです。内容もさることながら、会計に疎い方にも理解できるよう、説明の手順も相当練られており、そのサービス精神に脱帽せざるを得ません。
削除早速ブックマークしました。時間をかけて読み進めさせていただきます。