2015年3月24日火曜日

重要でないけど重要な損益分岐点

 私の仕事は経理、しかも管理会計畑が長いので、損益分岐点分析というのを目にする機会が多いのだが、実務でこれを持ち出されると、その無益さにほとほとうんざりさせられる。
 損益分岐点の計算式やグラフなどは、ググってみればとても分かりやすいサイ トがいくらでもあるので詳しくはそちらをご参照いただきたい。要するにいくら売上を上げれば黒字になりますよ、という分岐点を算出することがその最終目標だ。
 要となるデータは「限界利益」と「固定費」。
 限界利益とは売上高から変動費を引いた利益で、こいつで固定費を回収していきましょう、するとある地点で比例的に増加する限界利益線と横一線の固定費線の交点が出来るのでここが損益分岐点売上高なのです、という感じ。

 理屈としては正しそうに見えるが、現実のビジネスにこれを当てはめようとするとかなり無理があることがすぐにわかる。
 まず、限界利益率はちょっとのことですぐ変動する。販売価格が下がればその分ドカッと下がるし、品種によって限界利益率は全く違うので、販売銘柄構成にもかなりの影響を受ける。コスト面からみても、原油価格の変動なんかで原材料費が変われば変動費率が変わるのでこれも限界利益変動要因だし、歩留まりだって一定とは限らない。そもそもおたくが定義した固定費は本当に売上に全く連動しない固定的な費用ですかって問いたいところもある。例えば電気料金は固定料金と従量料金に分かれているが、勘定科目で機械的に変動固定分解を行っていれば、固定料金含めて変動費扱いとなっている可能性があり前提が崩れますよねとか、人件費だって基本給と残業代をきっちり分けて分解しているのかとか疑問があるし、いや分けてるよと言われたところで生産量が倍になっても本当に人員増をせずに対応できるんだなとか、同じことが償却費にも言えて、やっぱりある程度の閾値を超えると設備増強投資が必要になるので、償却費だって完全な固定費とは言えないんじゃないのとか、突っ込みどころは本当にいくらだって存在する。つまり、損益分岐点の教科書に載っているような中学生仕様の単純な計算式では、とてもではないが現実を反映することが出来ない。限界利益が売上高に比例して増加することなどありえない。

 しかし、それでも損益分岐点はその概念において重要なのである。特にスタートアップ企業、景気敏感株や装置産業株を主戦場にされている投資家にとって、企業の業績を分析するにあたり限界利益と固定費の概念理解は必須だ。
 別に深く勉強する必要などない。少なくとも、固定費を含む営業利益は売上高に対し比例的に増減しないことが理屈としてわかればよいのではないかと思う。一歩進んで、過去の財務データの推移を見て、売上高の変動に対する営業利益の感応度を推測できるようになることを目指そう。
 信じがたいかもしれないが、事業損益の責任を担っている会社の偉い人や、アナリストにさえ、このレベルのことが理解できない人が大勢いる。売上が半減して営業利益も半減で済むと考えているようなレベルだ。

 投資においては、こういう基礎的なことを一つ一つ理解していって、致命的な読み・分析誤りを減らすことが肝要なように思う。管理会計・財務会計・ポートフォリオ理論の基礎を網羅している投資家は想像以上に少ない。これらを体得するのにそれほど時間はかからないので、自分の知識を差別化する費用対効果としてはかなり優れていると思う。
 それが投資成績につながるかは保証しないが、少なくとも、投資の楽しみがより増すこと請け合いだ。

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