PBRはストックを表さない

 いきなりの流用となってしまうが、昨日、私が2ちゃんねる株式板「バリュー投資 part6」スレに投稿した文章を流用させていただきたい。
 以下、スレに現れた高ROE投資批判の論客(プロフェッサー氏)に対する反論という流れでスタートする。


________________________________________________

いくつか反論してみたい。
そのためには、そもそもPBRとは何かということから始めなければならないだろう。

もしPBR「株価/簿価純資産」という認識だけであれば、それはあなたが株式投資の本質を理解できていないことを意味する。

期待リターン-以下、私はこの言葉を株式益回りと同義で使う-が同一であるなら、低PBR銘柄はもれなく低ROEであり、その観点からすると、プロフェッサー氏が繰り返し高ROEをディスり、低PBRを持ち上げるロジックは一貫している。
言い方を変えれば、低PBR投資を優先すると、必然的に低ROE投資とならざるを得ない。

なぜか。
形式的な回答をするのであれば、「PBR = ROE × PER」 だからだとなる。
期待リターンが一定であれば、低PBRの等式を成り立たせるには低ROEでなければならない。

問題は、上記の等式が本質的に何を意味するのかだ。


小学生でも理解できることと思うが、株式は元本がゼロにもなりうるリスクのある投資対象だ。
そして中学生でも理解できると思うが、リスクがある以上、銀行預金と同じ期待リターンでは誰も資金を投じない。

プロフェッサー氏は「簿価をベースとした指標であるROEには何の意味もない」という趣旨の書き込みをしていたと記憶する。
妥当な指摘だと思う。
ROEは確かに株主資本に対する効率性を図る指標だが、致命的な欠点はそれが簿価をベースにしたものであり、市場では誰も株式を簿価で取引などしない。
だから投資家は自らの期待リターンを満たすため、価格を調整する。


より具体的に説明しよう。
一般的な投資家が株式投資に求める期待リターンは一桁台後半%と言われている。
これはTOPIXやらS&P500やらの過去の平均PERが15~20倍程度で推移してきたこととも整合的だ。
期待リターンはPERの逆数なので、PER15倍なら1/15で7%、20倍なら5%というわけだ。

そのような前提のもと、仮に一般的な投資家がもし簿価純資産での株式売買を強要されればどうなるか。

低ROE(つまりROEが一桁台前半)の銘柄を買う人間がいなくなってしまう。
なぜなら、簿価取引ではROE=株主利益と直結してしまうから。
実際にはそんなことは起こらず、だれも簿価で買わないことで価格が下がり、時価ベースでのROEが一桁台後半となる水準、即ち低PBR状態でようやく価格が均衡する。

何を言いたいのかというと、PBRは本質的にROEの合わせ鏡であり、低いから良いとか、高いから悪いとか、その数値だけを取り出してうんぬんするのはナンセンスだということだ。

JT以外の外国たばこ上場会社はアグレッシブな自社株買いで過小資本もしくは債務超過となっており、そのレバレッジ効果で高ROE=高PBRとなっている。

この状態は善か悪か。

答えは「何とも言えない。少なくともPERを見てみるまでは」。

あなた方が何を期待してその企業を買っているのか私は知らないし、特に知りたいとも思わないが、少なくとも清算前提で買っているわけではないだろう。
ならば、資産価値からのアプローチでPBRに着目する意味はない。
PBRは期待リターン一定の前提のなかでのROEの結果が反映されたものであり、本質的にはストックではなくフローを表していることに自覚的であるべきだと思う。

そしてもうお分かりだと思うが、私はPERこそがほぼすべての投資家にとって有用な指標であると考えている。

低PER銘柄への分散投資は、ほぼ確実に低PBR投資を凌駕すると断言できる。
理由は上記で述べたつもりだ。

さらに、私は低PERかつ高ROEならばもっと見どころがあると確信している。
つまり「高ROEの割には低PBR」な銘柄への投資だ。

プロフェッサー氏はPBR1倍以下なら低PBR銘柄に該当すると考えているように見受けられるが、やや近視眼的な見方であるように思う。

ROE20%をコンスタントに叩き出す企業のPBRが1.5倍程度ならば、これは間違いなく「低PBR」銘柄である。

低PERであることが前提での「安定高ROE」銘柄が望ましい理由はいくつかある。

一つは安定的に高ROEを出す会社は、投資の当てがないのに無駄に内部留保をため込む可能性が極めて低いこと。
高水準の利益によって株主資本が膨れ上がれば資本効率が落ちて低ROEになってしまうし、仮に利益を吐き出さなくても、低PBR銘柄になってくれる。

二つ目はプロフェッサー氏が言っていた「天井」の関係だ。
高ROEということは少ない資本で効率よく稼げることを意味するので、私は上方余地が多いと考える。
事業が劣化してROEが低下するリスクは、低PERと分散投資が吸収する。
低PBR低ROE銘柄は、例外なく愚鈍な会社ばかりなので、そのような会社が目を見張るほど高収益に変身して天井を突き破る可能性はほとんどない。

私がプロフェッサー氏の主張におぼえる違和感の正体は、彼がご高説をぶっても、結局は刹那的な値上がり益に期待をかけているようにしか見えないからだ。
「居酒屋などのローテクは天井が知れている」という発言にそれは端的に表れている。

しかし、それでいいのかと言いたい。
株式に限らず、投資のメリットは複利効果にあると私は信じる。
愚直に、一歩ずつ、一桁台後半の利回りを丁寧に積み上げていく。
これだけで簡単に億万長者になれるのが株式投資だ。
出店した分しか利益が増えない? それで十分じゃないか。


さらに、社会的な観点からも低ROEを許容すべきでないと感じる。

ROEが簿価ベースの指標であろうが、その中身は紛れもなく投資家の出資金というリアルなマネーがベースとなっている。
低ROEでPBRが1倍未満ということは、資本主義社会が株式会社に求める役割を果たしていないと思う。

途中参加の投資家は低PBRでその銘柄を買えるので満足できる期待リターンを享受できるかもしれないが、最初の出資者はどうだ?
会社は株価が下がることで低収益であることの罰を受けているというかもしれないが、会社は株主の物であるので、結局罰を受けているのは株主だ。

つまり、低PBRは最初の出資者が罰を受けた結果を表しているともいえる。
与えられた役割を果たせない会社ばかりが世に蔓延すると、資本主義社会が根幹から崩壊する。
資本主義が嫌いならそれでいいのかもしれないが。

_____________________________________________________________________
以上、流用終わり。
わざわざ匿名掲示板への投稿を流用する気になったのは、日ごろ考えていたPBRとROEに関する考えが、反論という形にうまく合致したことと、色々と反響があって気を良くしたためである。

コメント