DCF法による適正株価の不思議

 あなたは年率何%のリターンを期待して株式投資をしているだろう。
 私がよくブログを拝見しているような卓越した個人投資家は、年率20%のリターンを長期的な目標としていると豪語していて、実際にそれに近い成績を叩き出している人もいるようだ。

 ただ、よくよく考えてみると長期的な複利リターンが20%というのはまさにウォーレン・バフェットの投資成績に匹敵するものであり、現物株のみでこの水準を目指すというのは、いささか現実的ではない。というより、私としては不可能のように思える。バフェットが上記リターンを出せたのは、個人の才覚ももちろんあるに違いないが、傘下の保険会社が生み出すフロート-すぐに支払う必要のない保険準備金-という、銀行でいえば預金のようなレバレッジ効果あってのことだ。つまり、個人が信用取引なしで同じ成績を出すには、彼以上の運と実力が求められることになる。
 改めて聞きますが、あなたは年率何%で満足ですか?

 さて、前置きが長くなった。
 今回の疑問はディスカウンテッド・キャッシュフロー法(DCF法)における適正株価について。
 私の中で、あなたの求める期待リターン、即ちDCF法における割引率は私のネガティブな情報によってあなたは現実を直視し、20%ではなく一桁台後半%(面倒なので8%としてしまう)に下方修正されたことになっているので、それを前提に話を進めさせていただこう。

 ある企業のEPS(一株当たり当期純利益)が100円とする。
 この企業のEPS成長率はゼロである。
 あなたの期待リターンは8%である。

 この時、あなたにとってこの企業の適正株価は
  「EPS100円÷期待リターン8%=1,250円」
 となる。
 確かにそうだ。1,250円の8%は100円で、100円というのは配当という形でであれ内部留保という形であれ、すべてあなたに帰属するリターンなので、まさに1,250円は適正株価。
 DCF法的な視点から解釈すれば、無限の将来にわたる100円の利益を8%の割引率で現在価値に置きなおせば、1,250円となる。まあ、わかりやすい。

 今回の疑問はここからだ。
 上記の計算はEPSがゼロ成長であることが前提だったが、年率20%のリターンが現実的でないのと同様、これも現実的な前提とは言えない。「普通の企業」は長期的に数%の成長をするものだ。その場合、適正株価の計算はどのようになるのだろう。

 答えは下記の算式だ。
 「株価=EPS÷(期待リターン-成長率)」

 期待リターンから成長率を引く意味が分からなければ、エクセルで計算してみるといい(私も最初、意味が分からなかったので実際に計算した)
 感覚的な説明をすると、上記数式の中でEPSは規則正しく成長していくので、期待リターンから成長率を減算することでその効果をリセットし、最初のゼロ成長と同じ前提に揃えているようなイメージか。

 ここで思い出してみよう。あなたの期待リターンは8%だった。
 ならば、年率8%以上のEPS成長率がある企業の適正株価は、この数式が適用できないのではなかろうか。
(EPS100円、成長率10%の企業の適正株価は、「100円÷(8%-10%)=-5,000円」??)

 適用できないということは、おそらくあなたの期待リターンを超える成長率が永久に見込まれる企業は、少なくとももあなたにとって何億円積んでも元が取れる投資対象となることを意味する。
 かなり違和感のある結論と思わないだろうか。私は少し詐欺にあっているような気分になる。理論的には完璧であるはずのこの結論が、これほどまでに強烈な違和感を発する原因についていくつか考えてみたが、おおむね下記の様な理由になるのではなかろうか。

①一般的な投資家の期待リターンを超える成長率を永久に成し遂げる企業など存在しない。(前提全否定系)

②そのような企業が実は存在することを知っているが、現実世界において無限大の株価などは形成されようがなく、どんなに素晴らしい企業の株価もそれなりに納得感のある株価に収まっているので、信じることができない。(見たことないものは信じられないよ系)

③そんな企業があれば実際に何億円積んでも投資したいが、そもそもそんなお金は持っていないし、寿命にも限りがあることを考慮する必要がある。(信じるけれども現実的じゃないよね系)

 私は①と③ですかね。

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