配当と自社株買い

以前の記事で、MEANINGさんに
「配当と自社株買いのリターンが同じであることを示した方が良い。両者が同じ結果をもたらすことを理解していない投資家が意外と多い」
とのご指摘を頂いたので、今回はなぜ配当と自社株買いが同じ結果をもたらすのかということを、数字を交えて示したい。


ある投資家が、とある企業の株を1株 100 で購入する前提とし、企業は利益の全部を配当か自社株買いに回すこととする。


【配当再投資の場合】



トータルリターンは61。
配当で株を買い増していくので、株数がスタートの1.0から売却時は1.6に増加している。
持分比率は保有株式数増加に伴い、2.0% → 3.2%に。
また、複利効果により受取配当額が増えていくのが確認できる。


【自社株買いの場合】



トータルリターンは61。配当再投資と同じ結果となる。
持分比率に注目していただきたい。
投資家の保有株式は同じ1株でも、企業自身が自社株買いによって流通株式数を減らしていくことで、持分比率が配当再投資の場合と同じペースで増加していくのが確認できる。
この現象が両者のリターンを同じにしていると言えよう。



結局のところ、配当再投資と自社株買いには、お金の流れが「企業→投資家→企業の株」なのか、「企業→企業の株」なのかの違いしかなく、最終的な投資先が「企業の株」であることに変わりがない。
同じ金を同じ対象に投資すれば同じ結果になるのは考えてみれば自明だ。


実際には配当には源泉税が課せられ、税の前払いが起こるので、複利効果が一部減殺される。
また、小口の売買では手数料も嵩むため、複利効果をフルに享受できる自社株買いの方が長期では有利に働くと思う。
(イギリスなど、配当源泉税がかからない国も存在する)

一方、配当の方が投資家が自由に使途を選べるメリットがあるのではという意見もあろうが、これについては自社株買いで値上がりした株式を投資家は自由に売却してキャッシュにすることができる点で、比較論としてのメリットとはならない。


高配当銘柄というと安定感のある聞こえだが、投資家はインカムゲインとキャピタルゲインを分けて考えるべきではない。両者は本質的に同じものだ。

コメント

  1. 最後の1文が秀逸ですね。
    インカムゲインとキャピタルゲインを分けて考えるべきではない、というのは長期投資の視点ですね。

    僕は中期投資家なので違う視点を持っていますが、本来会社の利益は株主の利益で分配しても内部留保しても同じです。
    ROEの変動がなければ。
    (簡略化するため、本来大切なファクターである自社株消却の有無と二重課税問題は別にしておくことにします)

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  2. 配当の二重課税問題について、昔は「法人税支払い後、もう一回源泉徴収されるのはおかしい!」と憤っていた時期もあったのですが、キャピタルゲインは源泉されてもなんとも思わないのに、インカムゲインの源泉に対しては憤るというのは、この記事の最後の一文のようなことを言っておきながら矛盾しているんじゃないのかと思い直し、「まあ、政府の立場からは当然の対応かもしれないね」という境地に達しました。
    色々なことを諦めながら生きているというか、妥協など朝飯前の人生なので、このままでは解脱してしまいそうな勢いです。

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  3. 投資家から見た自社株買い(強化)のデメリットは、ただでさえ米国株式市場の最大の買い手は個人投資家でもヘッジファンドでも資産運用会社でもなく企業(自社)なので、野放図にやるとPERがあっという間に高騰して高PER高値掴みになりshares outstandingの減少効果=EPS上昇効果が落ちる事です。配当(配当重視)、配当再投資のメリットは逆で、全ての投資家がDRIPや同一銘柄への再投資を行うわけでなく、消費やリタイアしていて生活費に使う投資家等も多いので、PER上昇圧力が低い事です。

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    1. 配当の場合、即時課税されるのは甚大なデメリットですが、それでも自社株買いよりも配当を出している企業のほうが信用できリターンが明らかに高いのはジェレミー・シーゲル著「株式投資の未来」“第9章ショー・ミー・ザ・マネー―配当とリターンと企業統治”に詳しいです。

      ちなみに、なぜか日本では自社株買いで企業が買った金庫株(treasury stock)を消却するか否かを重視する意味不明な風潮がありますが、消却しようがしまいがEPS、BPSなど株主に帰属する一株あたりの利益や資産は社外株数で決まるので、本来どうでもいいいいことです。米国企業と違って、日本企業は金庫株の再放出(殆ど増資と同じ意味)する懸念があるので消却するまでは信用ならんという事なら分かりますが。

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    2. 自社株買いが需給バランスを崩して実力値以上の価格で株を買ってしまうという仮説ですね。そこんとこどうなんでしょうね。板がスカスカの小型株ならありそうですが、米国大型株クラスだと流動性も高いですから、自社株買い圧力で非合理的な価格まで上がる前に、裁定的な売りが湧いてきて価格を適切に保ってくれる気もしますが。

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    3. ただでさえ、普段の日々の需給において圧倒的に最大の買い手が自社の米国市場ですから、仮に配当性向40%、総還元性向80%(自社株買い性向40%)でなんとかPER十台後半を保っている企業が、配当をやめて配当性向0%、自社株買い80%にして、PER高騰を招かず2倍の自社株買いプログラム予算を消化して同等のPER水準を維持するのは困難というか、殆ど不可能です。

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    4. エビデンスがないとなんとも議論のしようがありませんが、例えば営業キャッシュフローの全てを毎年自社株買いに回している企業にESRXがありますが、この株のPERは15倍程度。同じPER水準で全額配当に回したら利回り6.6%ですが、私にはどちらかというと配当に回した方が配当目当ての買いが集まり高PERになるように思えてなりません。配当には多くのプレミアムを喜んで支払う人が多いからです。

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  4. 実際、米国では少なくない企業が高値(高PER)で自社株を巨額予算で買って、(高PERゆえに)たいして社外株数も減らせずに高値の自社株買いで株価、バリュエーションばかり吊り上げてしまい、その後暴落して、株主に結果的に損をさせている事例が問題になっています。

    http://jp.wsj.com/layout/set/article/content/view/full/379892
    > その一方で、景気が良く、株価が割高な時に自社株を買い戻し、景気が悪くなってから嘆くというパターンもよく目にする。
    >小売り大手のシアーズ・ホールディングス(SHLD)、イーストマン・コダック(EKDKQ)、ニューヨーク・タイムズ(NYT)、
    >シスコシステムズ、ゴールドマン・サックス(GS)などは、高値で自社株をつかまされた。
    >ウォーレン・バフェット氏は、自社株買い戻しは株価が本質的価値に対して大幅に割安になっている時に限るべきだと忠告している。

    少し古い記事ですが、こちらをご覧ください。
    http://www.tdasset.co.jp/column/kamiyatakashi/vol17/
    米国市場は(大型株は特に)圧倒的に自社が最大の買い手なんです。
    ですから、自社株買いが禁止されている決算期前のブラックアウトと言われる期間は、買いが減り明らかに株式市場が軟調になる事で有名です。
    https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/opinion/fx/ishihara/0392.html
    それほど、需給に与える影響が大きくなっています。

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  5. 大量の自社株買いを行いながら低PERを保っている株として、GILDやIBMやESRXやTRVなどがありますが、これらは特許切れ、減収、減益、政治的理由、無成長など、嫌気されて不人気で売り込まれる(少し株価が上がるとすぐに売られる)理由があるからです。こういった何らかの理由により株価が上がりにくい銘柄では自社株買いはひじょうに有効です。

    市場で嫌われ実力以上に悲観され過小評価されていれば、PER高騰を招かず(PERが不人気銘柄にそぐわない水準に上がればすぐに利益確定の売りが入る)安い株価で大量の自社株買い戻しができるので、衰退や利益減少率以上に、shares outstandingの減少率が高くなり、EPS成長率において市場平均を大幅にアウトパフォームしハイリターンになることは過去にも多くの事例があります。

    しかしそうではない普通のブルーチップ銘柄(業績が順調でオーガニック成長率も低くない銘柄)が、配当をやめてその分で年間の自社株買い性向を倍増させるようなことをすればPER高騰を招き高PERによる高値掴みが常態化します。一例を上げると、CLなどは(無配ではありませんが)自社株買いのやりにすぎにより低い成長率のわりにPERが業種平均や競合銘柄よりも常に高い銘柄として有名です。

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    1. 自社株買いであれ日銀買いであれベビーブーマー退職後の換金売りであれ需給バランスの歪さは株価を実力以上に歪めるか。通説では確かにイエスのようです。証明は難しそうですが、楽しそうな検証課題ですね。

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