2015年5月5日火曜日

[ 業界分析 ] タバコ産業

一般にネガティブ要因と思われることのすべてがポジティブに働く不思議な業界。

●たばこ税の増税
 増税によって喫煙者は確かに減少する。
 しかし、必ず同時に行われる本体価格の値上げによりマージン率が上昇し、増税は常にたばこ会社の利益増加に繋がってきた。

 増税のタイミングで本体価格を必ず値上げしていることが確認できる。
 喫煙者減少による需要減と、値上げによるマージン増。この二つは利益とキャッシュフローに対し大きなプラスとなる。
 高マージン商材の販売による莫大なキャッシュフローが継続的に生まれるかたわら、需要減により新規設備投資の必要性がなくなる。そのため、有り余るお金は行き場を失う。タバコ会社の多くが配当と自社株買いに余念がないのはそのためだ。
 ロリラードやフィリップ・モリス・インターナショナルに至っては、自社株買いのしすぎで債務超過となっている。したがって、ROEは測定不能だ。
 ちなみに、日本では会社法の規制により、剰余金の範囲内でしか配当や自社株買いを行えない。バランス・シートの安全弁を一律に法律で確保するという有り難い心遣いによるものだが、私には余計なお世話としか思えない。



●テレビ広告など大々的な宣伝の禁止
 新規参入業者のブランド構築を不可能にするため、参入障壁を高める結果になっている。そればかりか、広告費をかけずにシェアが維持できるので、規制によってタバコ会社の利益はますます増えた。


●絵柄の禁止やロゴの統一など、プレーン・パッケージ化規制
 パッケージでの製品差別化を不可能にするため、広告禁止規制と同様、参入障壁を高める結果となる。


 究極のリスク要因である、タバコ販売の全面禁止という事態は起こるのか。様々な要因から、それはあり得ない。
 まず、各国政府にとってタバコ税収は貴重な歳入源だ。日本の場合、国税と地方税合わせて2.3兆円。相続税1.5兆円、酒税1.3兆円よりも多い。
 一方で喫煙は肺がんなどの疾病リスクを上げるため、政府の医療費負担がタバコ税収を上回るのではないかという懐疑論も存在する。これについては、喫煙者は非喫煙者に比べて平均寿命が短いので、むしろ生涯医療費は少ないのだという主張もあったりもするが、信頼できるデータが整備されていないのが実情だ。後者の主張が正しい場合、政府はタバコ税収を失い、医療費負担も増加するというダブルパンチを食らうことになり、迂闊に販売禁止措置を取ることが出来ない。


 次に、闇マーケットの観点から。アメリカの禁酒法時代にマフィアがどれだけ力をつけたかを考えてみるとわかりやすい。皆が望むものを無理やり法律で禁止すると、反社会勢力がそれらを闇マーケットで取り扱うようになり、暴利を貪る。マフィアややくざが暗躍するよりは、タバコ会社の方がマシというのはどの政府も同じ感覚だろう。コロラド州におけるマリファナ合法化など、どうせ根絶できないのなら、この際オープンにしてしっかり税金を納めてもらおうというのが時代の流れとなっている。


 それより投資家が気にすべきは電子タバコの台頭にある。電子タバコとはニコチン溶液を蒸発させ、その蒸気を吸う製品なのだが、これが今、アメリカで急成長している。既存のタバコ会社はこの流れに乗り遅れており、現時点では中小企業がメインプレイヤーとなっている。電子タバコが更なる成長を遂げ、従来の紙巻きタバコのシェアを侵食するようになれば、大手タバコ会社の経営にダメージを与える可能性は否定できない。


 タバコ。それは全世界に多数のロイヤルカスタマー(意地の悪い人は中毒者とも呼ぶ)を抱え、安定的なキャッシュフローをもたらしてくれる商材。そして、外資タバコ会社の財務戦略は、PBRとはもしかしたら投資家にとって何の意味もないのではないかという深い疑問を投げかけてくれる格好の教材となると考えている。少なくとも、私は債務超過のB/Sを見た時、深い衝撃を受けたものだ。

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