2015年5月29日金曜日

[ 業界分析 ] 総合商社

 総合商社の仕事はいつの時代もビジネスマンの羨望を集める。社員は一流大学出身者や優良オーナー企業の子弟で固められ、外国語を駆使しながら世界を股にかけてデッカイ仕事をこなしていく。何となく、国益にも役立っている気がする。新卒の就職希望者にとって、この業界への入社は紛れもなく狭き門だ。

 しかし、一般的には高収益を謳歌しているようなイメージが流布しているものの、私のようなROE重視の投資家にとっては必ずしもそうではない。ROEは10%弱をうろちょろと平凡な水準。資源価格次第で業績が大きく振れるという認識が定着してなのか、PERは大半の期間にわたって一桁台と万年割安状態。そのコンビネーションの結果として、PBRは1倍を割っている。今や事業投資会社のような側面を持つ総合商社にとって、投資の非効率を証明するPBR1倍割れは屈辱的な評価だろう。社員には優秀な人間が複数存在しているはずなのに、果たしてその能力と高水準の給与は「株主に利益をもたらす」という観点において最大限活用されていると言えるのか。

 総合商社の事業形態を考えると、そのビジネス遂行に求められる能力は、突き詰めればゴールドマン・サックスなどのバンカーに求められるそれより圧倒的に高度なものになる。バンカーに最先端の知識や技術など高い専門性が求められることに疑いはないが、それは一部の領域に限った話だ。
 総合商社が目指すところは単なる投資会社ではないため、投資先に対する目利き力だけでなく、原材料調達から製造・加工、マーケティングまで、バリューチェーン全体にわたる専門性が要求される。また、新興国のインフラ構築などにも切り込んでいくために、現地政府へのロビー活動能力も重要であろう。事業ポートフォリオには資源価格や地政学的なリスクが相当のしかかっているので、リスク回避のためにも諜報機関のようなインテリジェンス機能をも磨き上げねばならない。
 人間、いくら優秀と言っても、一人でカバーできる範囲には限界がある。チームになったところで同じだ。総合商社の事業領域は、一企業が効率的に対応しきるにはあまりにも広範すぎる。そのため、資本と人材が効率的に対応しきれず、コングロマリットの典型的な弊害が起きている可能性がかなり高い。
 だから、私は巷で言われる中抜き推進とは違う意味で「総合商社不要論」に賛同する。原料調達もロビー活動もインテリジェンスも、それぞれその道を極めたプロが行う方が効率性は高い。(顧客の立場からすると、「総合商社に頼めば最初から最後まですべてやってくれる」というワンストップ・バリューが存在するかもしれない。ただ、それは投資家にとっては直接的には関係のない話だし、仮にそんなバリューが存在するために総合商社が非効率さを内包しながら業務を獲得しているとするなら、その非効率は日本企業全体に広がっていることになり尚更不幸だ)

 しかし、以上に述べたことは、これから総合商社に投資する投資家のリターンを抑えることを意味しない。何でもやろうとすることの非効率は、既に株価に織り込まれているのだから。
 投資家が大きなリターンを得るための必要条件であるROEのランクアップは期待薄と考えて良い。総合商社の社員が突然、人智を超えた万能性を身に付け、あらゆる業務を完璧にこなせるようになるとは考えにくい。また、最近は自社株買いにも熱が入り始めたようではあるが、この業界は90年代後半から、積極的にD/Eレシオを低下させ、財務基盤を強固にすることを良しとしてきた。グローバルな仕事をしている割には、同業他社の右へ倣え体質が顕著で、いかにも日本企業といった体質も色濃い。その習慣が一朝一夕で変わることはあるまい。つまり、ROEの分子も分母も劇的な改善は見込めない。

 そして話はPERに戻る。総合商社が投資家のホットな視線を集める最大の要因は、収益性や成長性ではなく、極端に低いそのPERにある。この低PER状態が不当なものであれば、ROEが平凡なままであろうとも、投資家は悪くないリターンを得られるはずだ。
 皮算用をしてみたい。


【前提】
・予想PER 12倍
・ROE 7% (一定)
・総還元性向 50%


【リターン試算】

①ゼロ成長ベースの期待リターン
 1/12 = 8.3%

② 永久成長率
 ROE×(1-総還元性向) = 7% × 0.5
                                  = 3.5%
 株主還元分は成長原資とならないため、成長率にとってはマイナス要因。

③ 資源価格依存によるボラティリティ・ディスカウント
 10% (既に低PERに織り込まれているので、控えめにみた)

(① + ②) × (1 - ③) = 10.6%


やはり、成長力の源泉であるROEが改善されない限り、それほど旨味のない投資になりそうな気がする。
しかしまあ、10%の期待リターンで大満足という投資家だってたくさんいるはずだし、私もどちらかというとそのクチなので、時機を見て総合商社株へ参入することがあるかもしれない。あくまで消去法的な選択として。

3 件のコメント:

  1.  いつも楽しみにブログを読ませて頂いております。今後も楽しいブログを継続してほしいので、久しぶりに投稿しようと思いました。

     私の勝手なイメージだと商社はかなり財務レバレッジをかけているイメージだったのでROEは20%台だと勝手に思っていましたが、10%前後とは情けないですね。きっとあまりにも広い領域に投資しすぎて選択と集中が全くなされていない結果でしょうね。
     そういったヌルい商社業態の中では中国リスクを取って№1を目指した伊藤忠商事は応援しています。投資会社なのだから、資源リスク一辺倒でなくこういった思い切りのよい投資をするような会社に商社はなってほしいですね

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    1. 本当に読み続けてくださり、ありがとうございます。

      伊藤忠の中国中信への投資について、私としては正直なところ首をかしげざるを得ない点がありました。というのも、時価総額の2割近い金額を投入して取得する持ち分比率はたったの10%であり、これで本当に大株主として旨みを得られるのかと疑問を感じるためです。シナジーがなければただの株式投資で終わってしまうのですが、自らの企業規模と比べてここまで規模の大きい株式投資はソフトバンクにもバークシャーにも許されないような気がします(ソフトバンクのアリババ投資は、アリババの急成長によって結果として同じような規模間になってしまいましたが)

      とはいえ、総合商社のレバレッジはまだまだ足りないと思っていたところ、全額借入で投資を決断したところは流石といった感じで、ぺんぎんさんが思い切りの良さを応援される気持ちもよくわかります。
      まさに「野武士集団」の面目躍如ですね。

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    2.  返信ありがとうございます。

      持分比率の話ですが、中国ビジネスを成功させるには政府関係者との付き合いがとても大事であり、組んだ相手として中国政府に近い中信グループとタイの華僑で中国進出をして30年以上のCPグループを選んだのは長期的な目線で見るととても良い投資だと考えたためです。今回の投資話は国有企業の民間資本導入(混合所有制)を国是にかかがた共産党の成長戦略に沿った動きと私は考えていますが、中国政府がいきなり外国資本に過半数を握らせるような出資は考えづらく、そこを待っているといつまでも中国ビジネスに踏み出せないと伊藤忠商事は考えて今回の出資案件を思い切って決めたのだと思います。

       中国ビジネスは日本国内では批判がとても多くてどの企業も大きく踏み出せない環境の中で、ここまで思い切った決断をした伊藤忠商事はたしかに「野武士集団」ですね。

       本日のコングロマリットディスカウントの話も興味深く読ませて頂きました。明日以降も楽しみにしております

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