2015年9月13日日曜日

[ 業界分析 ] 銀行業

【ビジネスモデルの根幹】

価値貯蔵や決済などの便利な機能を持つ預金システムというインフラを広く利用者に開放し、代わりに非常に低い利率で大量の資金をかき集める。銀行のビジネスモデルの粋は、全てこの安価な資金調達法に詰まっている。事業運営の主要資産はお金そのものであり、銀行の主要事業である貸出業務において、お金が生み出す収益は貸出利率以上には高くなり得ない。そのため、銀行のROICもしくはROAは非常に低くなる。ROIC(投下資本収益率)の高低判断において異業種比較は無意味であり、WACC(加重平均資本コスト)と比べられて初めて意味がある。WACCは借入コストと株主資本コストの加重平均となる。銀行は先述のように預金という借入依存率が非常に高く、しかもそれが低コストであるがゆえに、WACCは他業種より低い。「ROIC-WACC」つまり投下資本収益から投下資本コストを差し引いたものを残余利益と呼ぶが、銀行はROICの低さをWACCの低さで補い、残余利益を確保している。


【金利上昇の影響】

金利上昇は国債価格下落を通じて銀行の財務を痛めつけ、貸出先不足で国債依存が高い邦銀は窮地に陥るというイメージが一部で流布しているものの、国債のキャッシュ・フローは購入時点で金利と償還価格が確定しているので固定化している。そのため、国債評価損は「今、そのお金を新規発行国債に投資していたら、もっと高い金利がもらえたのに」という機会損失を表していると理解したい。不良債権問題などと違い、国債評価損は資金繰りに不確実な悪影響を及ぼすわけではない。では他に、金利上昇は銀行に何をもたらすか。その本質的な影響は、純金利マージンの増加による事業利益の拡大だ。調達コストである預金金利の金利感応度は非常に低く、金利上昇は貸出金利と預金金利のスプレッドを広げる。純金利マージンとはこのスプレッドのことを言う。別の側面から見れば、われわれ預金者は金利上昇のメリットを銀行に吸い取られることになる。


【コスト管理】

伝統的な銀行業における最重要コストとは何か。人件費やシステム維持費、支店経費などはもちろん考慮に値する。ただ、銀行の健全な経営は与信関係費用の適正化にかかっている。与信関係費用とは、貸倒率とほぼ同義と考えて良い。不況時には通常この貸倒率が上昇し、銀行の収益を圧迫する。バブル崩壊後に長らく銀行を苦しめたのも、不良債権問題だった。期待利回りがあり得ないほど低い不動産投資に対し、地価が永久に上昇し続ける前提で銀行は気前よくお金を貸しまくった。その後、誰もが知るように地価は暴落し、大量の貸付金が焦げ付いた。2007年から2008年にかけて起こった、米国の住宅バブル崩壊に伴う金融危機と同じことが、日本ではそのおよそ20年前に起こっていたことになる。もっとも、米国発の住宅ローンバブルは、ローン自体が証券化されて世界中の投資家に拡散されていたのに比べ、日本の土地バブルは日本国内で完結していた。
さて、景気後退期の話に戻ろう。景気後退期には与信関係費用が膨らむ一方、銀行が保有している国債は景気サイクルと逆相関の価格変動を見せるため(不況が金利を低下させ国債価格を上昇させる)、その運用益が与信コストの増加を相殺する。国債依存も悪いことばかりではないのだ。


【銀行株への投資をどう考えるか】

低コストでかき集めた他人資本を自由に運用できる銀行は、高リターンを追い求めなくても資本コストの回収を行える。そのため、地味で堅実な運用を徹底する限りにおいて、ほとんど未来永劫盤石な経営を約束されている。そこで勝敗を左右するのは頭の良し悪しではなく、いかにリスクを取らないか、だ。野心ではなく、規律と合理性がものをいう。だからこそ、JPモルガンなどのバンカーに比べて社員が二流扱いされている規律正しいウェルズ・ファーゴが、時価総額にして世界一の銀行になれる。昔ながらの銀行員にお堅くてつまらないイメージがついているのは、偶然ではない。というわけで、成長株投資家にとってはつまらないと感じるかもしれないが、銀行株は検討に値する投資案件と考える。低コストの他人資本を運用に回せるという点では、大量の預かり保険料を保持する保険業も同様の特徴を持つが、私は保険が大嫌いで、それゆえそのビジネスモデルに全幅の信頼を寄せることができない。このようなアレルギーがなければ、保険業界もどうぞ検討の仲間に入れてくださいな。


<参考記事>
「投資家にとってのROA (後編)」
「金利と債券価格、為替の関係」

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