ROE再礼讃 -国策指数JPX400を支持する-

ROEを主要選定基準とするJPX日経インデックス400は、政府と東証が日本企業に「資本効率を重視せよ」というメッセージを伝えるのに十分な役割を果たしているが、予想通り、一部の投資家がROEと投資リターンの非相関性を示す過去データ等を持ち出して、生まれたばかりの同指数が将来的に残念なパフォーマンスしか残せないだろうと訳知り顔で予言するのを何度か目にした。
 酷いのになると、どさくさに紛れてROEという指標自体が本来的に無意味であり、企業はそんなものを気にする必要はないというような意見まであった。(あまりにも荒唐無稽な内容であったため、その主張の根拠はすっかり失念してしまったが)

 そういう無理解や無見識に対し、私はそいつの首根っこを摑まえて、ROEの本質を何度でも大声で説明することを厭わないつもりだ。PERとか成長モデルだけに注目した投資で高リターンを上げることは当然ながら可能だが、ROEが投資家にとって無意味な指標だというのなら、少なくとも私の定義においてあなたは予想屋であって投資家ではない。
 投資企業のROEが低くても問題ないという発言は、「私は自分の部下が無能であることを既に十分承知しているので、チームでのビジネス遂行には何ら不確定要素はなく、問題はない」と言うことと同じだ。一マネージャーとしての意見であればもっともな話だが、会社というシステムはコストだけかかってパフォーマンスをもたらさない無能な社員を許容するようにできてはいない。

 ROEは株価指標とは完全に切り離されているので直接的には投資家パフォーマンスとの相関が断たれているように見える。しかし、その優れているところは、業種や成長性に左右されず、理論上、全ての企業を同一の土俵で比較できる点にある。他のあらゆる条件を無視できるということは、ROEが少なくとも定量的な観点からは企業の実力評価においての万能指標であることを意味する。優れた企業が優れたままであり続ければ、投資家に莫大な利益をもたらす。

 まず、ROAについて。「投資家にとってのROA (後編)」で既に指摘したように、ROAの高低はビジネスモデルによって大きく左右されるため、業種間比較は無意味である。しかし、ROAが低くならざるを得ないビジネスモデルであれば、レバレッジによってROEを高めればよい。
 また、成長性がある企業は利益増加によってROEを高めればよいし、成長性がない企業は利益を株主還元して自己資本を適正に保つことでROEを高めればよい。
 PERは割安・割高の判断にとても有用ではあるものの、所詮はただの株価指標であるため、企業の実力評価には何の役にも立たない。

 ROEが低い理由を分析すれば、たちどころにその企業の劣っている面が露わになる。売上高利益率が低いのか、資産回転率が低いのか、自己資本が過剰なのか。
 また、会社の出資者が出したお金がどういう流れで世の中に行き渡って経済を活性化させるかを考えれば、ROEが低いことが資本主義社会にとってどれだけ有害であるかがすぐにわかる。日本企業が今まで低ROEに甘んじてきたツケは、低成長や非効率な場所への資金滞留という現象を通じて、経済全体の弱体化として顕在化している。そもそも、数十年にわたって海外平均より著しく低いROEが常態化していたのも、「そんな業績指標なんて投資成績には関係ない」と投資家が合唱してROEを無視してきたからだ。経営者はその風潮に甘えた。さあ、投資家にはROE軽視の空気を醸成した責任を痛感してもらおうか。

 最後に、日本の高ROE企業が徐々に平凡なROEになっていき、高ROE銘柄のリターンが低ROEに劣後する原因となっている「ROEの平均回帰性」についても、今後はその傾向が薄まっていくであろうと予測しておきたい。その状況証拠として、積極的な株主還元で知られる米国では、日本ほど顕著な平均回帰性が確認されないことが挙げられる。

(出典:三菱UFJ信託銀行「投資指標としてのROE」)

 このデータは、おそらくROEの維持に分母を肥大化させないような財務政策が有効であることを示唆している。Google分析で確認したように、いくら高収益企業であろうとも、株主還元が不十分だと凡庸なROEになっていくのと同じ構図ということだ。
 既にその萌芽が至るところに見えるが、日本企業がROEを意識することによって必然的に株主還元が積極化していく。これが日本の米国化を促進し、ROEの平均回帰性が薄まると予測する根拠だ。
 今後、高ROE企業が高ROEを維持し続ける可能性の向上により、ROEは投資リターンに素直に相関していくことだろう。従って、私はJPX400の対TOPIXパフォーマンスに強気のスタンスを採る。企業には同指数への採用を目指してもっともっと貪欲にROE向上を意識してもらいたい。

コメント

  1. 株価=EPS*PER
    ESP=ROE*BSP
    ROEの向上なくして株価の上昇はありえません
    あなたの意見は正しいです

    返信削除
  2. 日本企業のROEに平均回帰性がある原因については、もっと深く分析してみる必要があるように感じています。この記事では株主還元の薄さにその理由を見つけようとしていますが、設備投資のタイミングの見誤りにこそ原因があるという見解もあるようです。本気で分析しようとすると、骨が折れそうです。

    返信削除
  3. こんなに同意できるROEについての話を、僕は今までただの1回も読んだことがありません。
    本当に読んでいて気持ちが良かった。ありがとう。ありがとう。本当にありがとう。

    前回もそうでしたが、今回の投稿文章もよく推敲されている素晴らしい文章でした。本当に感心します。

    返信削除
    返信
    1. ROE重視が一過性のブームで終わらないよう、こういうマイナーなブログで繰り返しその有効性を連呼し続ける草の根活動も、きっと無駄にはならないだろうという気持ちでいます。
      いつもご期待に沿えるような出来の投稿ばかりではないと思いますが、今後ともお読みいただければ幸いです。

      削除
  4. 株価云々関係なく、資本コストを上回るリターンを企業が投資家に確実に提示できない時点でそりゃゴミ売りつけてるもんです。
    高いごみか安いごみはどっちもごみですもん。
    にしても井出洋介さんが書いた株式投資入門に書いてあったようにROEが採用されたのが2000年代とか。なんだかんだ言って15年も経ってるのにまだ巷はそんなレベルなんですね~。

    返信削除
  5. 井手 正介だ、洋介だとプロ雀士だorz

    返信削除
    返信
    1. 確かに、日本でROEという言葉が聞こえ始めたのは今世紀になってからかもしれませんね。
      これほどまでにROEがないがしろにされ続けてきたのは、日本が銀行を頂点とした間接金融文化で発展してきたことが最も強く作用していると思います。金などいくらでも銀行が貸してくれる,そんな状況で株主資本を有り難がる気持ちが薄らぐのも理解出来ないではありません。
      そういえば、ROEの分解式であるデュポンシステムは、1919年に考案されたみたいですね。株主資本主義の日米の歴史に彼我の差を感じますが、100年の歴史は本気になれば5年あれば追いつけると信じています。

      削除

コメントを投稿