検証:コングロマリット・ディスカウント

都市伝説のような現象であるコングロマリット・ディスカウントの存在を検証する前に、まずはコングロマリットの定義をはっきりさせておこう。

Wikipediaによれば、
「業務の内容において直接の関係を持っていない企業の買収などによって、全く異なる業種に参入し企業グループとする企業形態の一つがコングロマリットである。 」
とある。
なかなかわかりやすいのでこれを採用する。まあ、検証の役に立つかはわからないけど。


【検証方法1】
思いつく代表的コングロマリット銘柄のPERを市場平均と比較する


コングロマリット・ディスカウントが存在するなら、サンプル企業の予想PERは市場平均を下回るであろう。

 ・ゼネラル・エレクトリック : 21倍
 ・3M : 20倍
 ・ユナイテッド・テクノロジーズ : 17倍
 ・日立 : 16倍


日米とも市場平均の予想PERは10倍台後半なので、上記企業に顕著なディスカウントの兆候は見受けられない。
ただ、サンプル数があまりにも少なすぎてまともな検証は出来ない。あと10やそこらを追加してみたところで、何の確信も得られないだろうから、さっさと次の検証方法に移ろう。



【検証方法2】
スピンオフ企業のリターンを市場平均と比較する

スピンオフとは米国企業が良く行う手法で、日本語では会社分離となる。
コングロマリット・ディスカウントが存在するなら、複合事業から分離されたスピンオフ企業のパフォーマンスは、ディスカウントから解き放たれて市場平均に打ち勝つはずである。
そしてETF大国のアメリカには、スピンオフ企業だけで構成されたスピンオフETFというものが存在するので、これとS&P500を比較してみる。
ただし、この方法で検証すると、冒頭における狭義のコングロマリットに該当しない企業が含まれることになる。この際、細かいところには目をつぶろう。

(参考)スピンオフの例
 医薬品・医療器具のアボット・ラボラトリーズが製薬部門をスピンオフしてアッヴィーが誕生。
 石油開発・精製のコノコ・フィリップスが精製部門をスピンオフしてフィリップス66が誕生。
 出版・娯楽のニューズが出版部門をスピンオフして新生ニューズが誕生。
 食品・スナックのクラフト・フーズが北米食品部門をスピンオフして新生クラフトが誕生。


スピンオフ指数とS&P500のリターン比較グラフ


青い線がスピンオフETF。赤い線がS&P500。
スピンオフETFのパフォーマンスがS&P500を上回っている。

この結果はコングロマリット・ディスカウントの存在を証明している可能性がある。

しかし、スピンオフETFの好パフォーマンスもコングロマリット・ディスカウントから解放されたことが理由ではない可能性も当然ながら残されている。
例えば、大型株より中小型株の方が長期的にリターンが良いことは過去のデータから実証されているが、スピンオフされて規模が小さくなったことが高リターンの要因かもしれない。
また、スピンオフETFの構成銘柄はたったの39だけなので、特定株式のパフォーマンスがETF全体の平均を押し上げている可能性もある。


以上、「コングロマリット・ディスカウントは何となく存在しそうだが、最終的には私の力では解明することはできそうもないね」ということがわかった。おとなしく、都市伝説のままでいてもらうことにしようか。

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