2015年11月22日日曜日

[ 業界分析 ] 不動産業

減少する人口などを考慮外に置いたとしても、不動産投資による期待収益率は株式よりも低い。上場不動産投資信託であるJ-REITは、税制上の恩典を受けるために利益のほぼ全額を配当する必要があるため誰も成長性など期待していないにもかかわらず、PERは20倍もある。しかし、株式と同じ基準で計ったら割高と言うほかないこのPER水準を、REIT投資家の多くは割高と思ってはいない。彼らはそのキャッシュフローの安定性にこそ価値を見出し、株式に対してよりも多くのプレミアムを支払っている。そして表現を変える必要がある。不動産投資家にとっては、PER20倍ではなく、利回り5%だ。

そんなわけで、REITに限らず不動産投資家は株式投資家に比べて「安定」を求め、期待運用利回りは低めでも受け入れる。個別に見れば「将来新幹線の駅が出来ることを私だけが知っている」などのインサイダー情報を基に大きく儲けることも可能なのだろうが、大規模に事業を展開する大手不動産会社にとっては、そういう個別事情は全体の中に埋もれ、至って平均的な不動産収益率に収斂する。不動産投資の平均的な収益率とは、REITの利回りが示す通り一桁台前半だ。投資資金を自己資本だけで賄おうとすると、とてもではないが株式投資家が期待する一桁台後半と言われる株主資本コストを回収することは出来ないことになる。

一方、不動産投資には、容易に借入枠がつくという大きな利点がある。なぜなら、貸す側の銀行にとってみれば、得体のしれないAさんだとか、X会社の新規事業にではなく、事実上、彼らが投資する不動産物件に直接お金を貸すのと同義になるので、複雑な査定が必要ないからだ。株式投資のために銀行がお金を貸してくれることなどないことを考えれば、非常に対照的といえる。よって、不動産会社は大いに借り入れに頼り、相対的に低めの期待収益率をレバレッジによってカバーし、ROEを上げることが出来る。

では、個々の不動産会社の競争力の違いはどこから生じるのだろうか。とんでもない僻地にアウトレットモールを建設して無から価値を生み出すような開発力? 将来的な土地の値上がりや空室率改善を見通す目利き力? 六本木ヒルズのようにビルそのものをプラットフォームと変貌させる運営能力?
地場の小規模な不動産業者ならいざ知らず、上場している企業において、短期的には上記のような要素は誤差の範囲に過ぎない。

悲しいかな、不動産会社の将来性、健全性は既に保有しているポートフォリオの(簿価に対する)収益性、言い換えれば過去の遺産によって決定されている。華やかな丸の内再開発で今のところ不動産業界のトップに君臨すると言っていいかもしれない三菱地所は、その多額の土地含み益にもかかわらず情けないROEしか計上できていない。このように実態は世間のイメージほど高収益というわけではないのだが、それでもその丸の内資産が生み出すキャッシュフローの絶対額は凄まじく、バブル期のロックフェラーセンター買収や、簿外のSPC(特別目的会社)における様々な損失など、あらゆる失敗を吸収するほどの安定感を生み出している。過去の遺産万歳。
不動産業者の命綱は資金繰りで、資金繰りの肝はキャッシュフローの安定性だ。仮に三菱地所の新規開発能力が他のどんな不動産会社より劣っていようとも、丸の内ATMの存在は歴史の浅い新興業者に対する圧倒的優位となって立ちはだかる。

だから、不動産業を営んでいると慢心が生まれやすい。俺には日本橋が、日比谷が、丸の内がある。そう思った時点で、保有する土地含み益は本来の力を最大限発揮できず、ROE一桁というひどく凡庸な結果に落ち着く。大手不動産会社の社員は世間がうらやむ高給を得ているが、果たしてそんな資格があるのだろうか。私には疑問に思えてならない。多分、難しい就職試験を突破してきたご褒美代、それくらいの意味しかない。

そんなわけで、私は基本的に不動産会社へ投資しない。不動産投資もしない。低空飛行の安定だけが取り柄なんて、つまらないじゃない。

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