ウォーレン・バフェット批判

 IBMやウェルズ・ファーゴがポートフォリオの上位に並んでいたりするのを見て、私の投資方針にウォーレン・バフェットの色濃い影響を読み取られる方も多いかもしれない。告白すると、その推測は正しい。しかし同時に、そうした推測をする方の予想を遥かに超える強さで、私はバフェットに批判的だ。その批判の根拠は、彼の自己顕示欲にある。バークシャー・ハサウェイの株主施策にはウォーレン・バフェットの自己顕示欲が反映されており、しかもそれは株主利益の犠牲の上に成り立っていると思われてならない。なぜか。そのために、まずはバークシャーの基本戦略を確認していこう。


①買収を繰り返す
 バークシャーをバフェットが運営する投資会社のように考えるのは、もはや間違いだ。
 当社は豊富なキャッシュフローを武器に買収を繰り返して規模を大きくし続けている。今やバークシャーは傘下に保険、電力、鉄道、食品・菓子、自動車販売、金属部品製造ほか、おびただしい数の企業を抱える世界一のコングロマリットと化した。しかも、バークシャー株を購入すれば、その内のいくらかは誰でも購入できるIBMやコカ・コーラなどの退屈な上場株が漏れなく包含されることになる。俺はコカ・コーラなんてツマラナイ株は欲しくないと思ったところで、そんなのお構いなし。

②株主還元をしない
 規模の増大と不可分の要素ではあるが、バークシャーは株が割安になった時の自社株買いの可能性を示唆しているものの、少なくとも今まで配当も自社株買いも行ってきていない。だからキャッシュが溜まり、買収に使われることになる。一方で、バフェットは投資先企業の割安時の自社株買いには非常に好意的だ。

③株式分割をしない
 株式分割を拒み続けた結果、クラスAの株価は20万ドルを超えている。今でこそ小口投資家は1株$140のクラスB株に投資できるが、それだってクラスA株に連動する小口の投資信託が登場したことを受けてバフェットがしぶしぶ設定したものだ。基本的に、バークシャーへの投資の門戸は金持ち以外には閉ざされていた。


 これらの施策は全て、株主のためというよりは、自らの神格化のために役立っているように思える。
 株主還元も株式分割もしなければ当然株価は上がり続けるが、日本円に換算して1株2千万円以上もするその株価自体が、誰もが一目でわかるバークシャーとバフェットの歴史を物語り、「なんて偉大な企業なんだ」と皆が感心するためのシンボルとなる。
 バークシャーの金の使い方が株主のそれより遥かに効率が良いというのならそれもいいだろう。思う存分金を溜めこみ、再投資するといい。しかし、バフェットはバークシャーの大きすぎる規模が障害となって、かつてのような高成長は望めないことを既に認めている。ならば、なぜ再びフットワークを軽くしようと検討する素振りすらみせないのか。今後は普通の鈍重な巨大コングロマリットとしての道を突き進むことで構わないとでも言うのか。当社が保有する非上場株や上場株を全て分割して株主に株式配当を行い、バークシャー自身は改めて小ぶりな投資会社に戻ったとしたら、現在のバークシャー株主に計り知れない利益が舞い込むことは想像に難くない。口では集中投資を是とするバフェットが、過剰な分散に走るのは矛盾しているのではないか。

 ただ、バークシャーが資本主義の歴史において特異な存在であることには疑う余地がない。コングロマリットは数あれど、純粋な投資として何の関連性もない企業を買い集め、時価総額で世界トップレベルの企業に一代で育て上げることが可能だとは、ほとんど誰も考えもつかないことだったし、バフェットが実践しなければ今でも誰も信じられなかっただろう。
 私はバークシャーには決して投資しない。しかしバークシャーの存在は、投資の奥深さと潜在力を世界中の投資家に知らしめている。だから、その政策に違和感を覚えつつ、感謝の念を忘れないようにしたい。バークシャーは壮大な社会実験の結果でもある。私はそう捉えている。

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