中国株暴落の影響を考察する

何せ、特段成長機会があるわけではないペトロチャイナの時価総額がエクソンモービルを超え、アップルに次ぐ世界2位に達していたことに象徴されるように、中国株は今までがバブルであっただけで今回の暴落は驚くにはあたらないのだが、さて、この影響は今後、世界の投資家に本格的に波及するのだろうかという点に次の関心が集まってくるだろう。何より恐ろしいのは暴落そのものではなく、その影響を過大もしくは過小評価してしまうことだ。


日本株に対する影響としてまず真っ先に思い浮かぶのは、インバウンド効果の剥落かもしれない。株価上昇による資産効果が観光客の消費行動に影響を与えていたことは想像に難くない。

2015年5月の訪日外国人数は164万人(前年同月比50%増)で、その内、中国人観光客は39万人(全体の1/4)。観光客一人当たりの消費支出額は15万円だった。
以上より、訪日観光客全体の消費額は約3兆円/年、中国人観光客に限定すると7,500億円/年くらいと推測できる。
IMF予測によれば日本の2015年名目GDPは500兆円なので、訪日観光客の消費需要は、全体でGDPの0.6%、中国人観光客で0.15%を占めるに過ぎない。

5年前の外国人観光客数は足元の半分だったということなので、中国人観光客の総支出額が半減すると仮定しても、15年の名目成長率予測+2.6%が+2.5%に0.1ポイント下方修正されるに過ぎない。観光産業従事者の懐が寂しくなることによる乗数効果を勘案しても、インバウンド需要の減退はホテルや家電量販店など一部の特需銘柄以外に大きな影響はないと考えていいだろう。


次に検討すべきは、中国国内の景況感悪化だ。
今回の株価暴落は確かにバブルの是正という側面が強いとしても、実体経済は既に減速の兆しがそこかしこに見えていた。例えば鉱山機械。

コマツ社長:中国市場の悪化は想定以上(bloomberg)
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NQP6EJ6K50XZ01.html

私が勤めている会社でも中国市場で多くの製品を売っているが、15年4月以降、販売が激減したという実感はコマツと同じだ。特に耐久消費財の需要は、鈍化というより転落と表現した方が適切なくらい突然落ち込んでおり、数か月先のフォーキャストも悲観的な数字が並んでいる。

では、対中輸出額から確認していこう。
2014年度の日本から中国への輸出総額は13兆4,000億円だった。その内、半導体等電子部品が7%を占めていることからもわかる通り、フォックスコンなどのアセンブリ企業へ出荷され、その後、世界中へ最終製品として再輸出されるものも多く含まれているので、純粋な中国需要向けの輸出額がいくらあるかは推し量ることが出来ない。しかし、保守的に輸出額全体が中国景気減速の影響を受けると仮定すると、その母数はGDPの2.7%となる。小さくはない。が、仮にこれが半減したとしても日本経済にとって壊滅的な影響とまではいかないだろう。輸出企業の成長期待がしぼむことで株価は大打撃を受けるかもしれないが。


もっとも懸念すべきは単なる景気減速ではなく、金融危機の発生だ。中国国内の過剰投資に仕組み債や過大なレバレッジが用いられていて、実体経済の悪化を引き金としてそれらが一斉にデフォルトするようなデリバティブ・バブル崩壊が顕在化すれば(すなわち、ただの景気悪化とは別次元の金融危機が起これば)、今起こりつつあるパニックが微笑ましいものに思えるほどの信用収縮を巻き起こし、全世界に恐慌を拡散させる可能性があると考える。
その可能性は、シャドーバンキング問題と関連付けられることになろう。「投資家→影の銀行→高利貸付」という流れで、人の住む当てのない高層ビルや債務超過状態の自治体における公共事業投資に多額の資金が流入していた。借り手は資産価格が上がるから金を借り、さらに価格が上がるから追加で借り、というようなことで、シャドーバンキングからどんどん調達し、いまや総額300兆円のマーケットとも言われている。今まで出てきた数兆円などという数字とは桁が2つ違う。これらの貸付金が資産価格下落をトリガーとして一斉に焦げ付けばサブプライムローン問題の再現となり、投資家は2008年を思い出すことになるかもしれない。


では、私の投資方針はどうなるのか。
金融危機が起こるとはっきりするまでは特に変わらない。暴落したならしたで、日本SHLのような値動きの少ない貯金箱銘柄を売却して、売られすぎた優良銘柄に資金を移したりするだろう。ただ、フルインベストメント状態で暴落をどの程度のマイナスで乗り切れるかは試してみたい気もする。そんなときはブログの方針を転換して、パフォーマンスを公開することがあるかもしれない。

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