ヘルスケア・プロバイダー株に明るい光は差し込まない。少なくとも今は


 アンセム(ANTM)、シグナ(CI)、ユナイテッドヘルス(UNH)。我がポートフォリオの17%を占める医療保険株が最近、政策的な懸念からいくら痛めつけられているからといって、安易に飛びつくのはお勧めできない。

 株価が軟調な理由はいくつか存在すると思うが、その中でも最大の要因は民主党が提出した法案「メディケア・フォー・オール」と考えてまず間違いない。
 米国医療保険事情を簡単におさらいしておこう。かの国では公的保険は高齢者・身体障碍者向けのメディケアと、低所得者向けのメディケイドの二種類が存在し、その他は民間医療保険で成り立っている。オバマケアの下では保険未加入者に対して罰金が科せられるが、健康に自信のある若者や、所得がメディケア加入要件を満たすほど低くないものの民間保険に加入するほど高くはない者など、高い保険料を払うくらいなら罰金を払った方がマシだと考える層がおり、無保険者はまだ10%程度いる。メディケア・フォー・オールは国民皆保険を目指すのにオバマケアのように罰金など間接的な方法ではなく、日本のように政府が枠を作って有無を言わせず加入させてしまえというものだ。

 しかし、この法案が成立する可能性は全くと言っていいほどない。そんな単純なアイデアが簡単に実行に移せるのならとっくにやっている。
 理由などいくらでも挙げることが出来る。サービス提供の人的リソースがない。民間医療保険会社のロビー活動に阻まれる。雇用主に保険を提供してもらっている被保険者には法案を支持するインセンティブがない。そしてなにより、財政負担が大きすぎる。
 法案成立の可能性がないというのであれば、なぜヘルスケア・プロバイダー株の株価がしばらく冴えないままと考えるのか。それは単純にヘッドライン・リスクを考慮してのことだ。2016年のドナルド・トランプ vs ヒラリー・クリントン戦でも顕著だったが、大統領選が近づくと医療費問題は常に槍玉にあがる。やれ製薬会社が不当に値上げしているとか、やれPBMのリベートが不透明だとか、医療保険は民間に任せるのではなく皆保険にすべきだとか。結局ことはそう単純ではないので大胆な構造改革が実現することはないのだが、このような話題が連日紙面を賑わすと、その攻撃の矛先にある株式を買おういう投資家はなかなか現れないものだ。2016年当時、既にシグナ(CI)を保有していた私はその株価推移をよく覚えている。次の大統領選まであと1年以上もある。それまでに現在16倍あるユナイテッド・ヘルスのPERが12,3倍に低下するシナリオは十分すぎるほどあり得るだろう。
 このセクターに興味があるなら、安さに目が眩んで一気に買い付けるのではなく、1年以上かけて少しずつ拾い集めるくらいの心持ちで間に合う。私はそう考えている。


冒頭画像
『裁かるるジャンヌ』カール・ドライヤー


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