債務超過企業の魅力 ー後編ー


 事業から得られるキャッシュフローが安定しているのにもかかわらず債務超過もしく株主資本がゼロ状態の企業がある。ドミノ・ピザ、マリオット・インターナショナル、ベリサイン、オートゾーン、HCAヘルスケア、ムーディーズ、ボーイングなどなど、頭に入っているものだけでも結構な数が出てくる。なぜなら私は債務超過の魅力に取り憑かれており、これらの株価を常に監視し、その一部を実際に保有しているからだ。

 これらの会社が債務超過なのは、稼いだ利益以上に株主還元してきたからに他ならない。しかし、ここで「株主還元を重視する会社は素晴らしいのです。」と初心者みたいなことを強調するつもりはない。企業がその事業の性質と成長ステージに見合った適切な財務施策を行っているという前提の下では、株主還元の多寡は投資リターンに中立だからである。

 一方、そんな初級教科書で学んできたようなことを口にして勝ち誇った気分に陥るのもまた同様に慎まれなければならない。ああそうだ。確かに株主還元は投資リターンに中立だ。しかしそれでも、債務超過企業にはその他の凡庸な企業を長期にわたって投資リターンで打ち負かすだけの理論的根拠を備えているのだ。

 その鍵はROAにある。

 ここでもやはり前編で登場した二つの企業に具体例を示してもらおう。

 前編のA社を「ハイボラ社」と呼ぶ。ハイボラ社は非常に収益性の高い事業を営んでいて、設備投資を行えば平均して年率20%-つまりROI 20%-が見込める。しかし売上高が景気変動の影響を受けやすく、装置産業型のため固定比率が高いのが玉に疵だ。売上げ変動の激しさと固定比率の高さはボトムラインを大きく増減させる。そのため、ハイボラ社は景気後退時の損失に耐えうる安全資産と自己資本を保持しておく必要があり、稼いだ利益の50%は無リスク資産として留保している。(残りの50%を事業再投資に回す)

 前編のB社を「ローボラ社」と呼ぶ。ローボラ社の事業収益性はそこそこといった感じで、ROIは15%とハイボラ社に劣る。しかし事業の安定性が高いため、もしもの損失に備える必要がなく、稼いだ利益の全額を事業再投資か株主還元に回すことが出来る。また、自己資本もゼロで問題ない。

 この時、総資産に対する収益率(ROA)はどのようになるだろうか。

 ハイボラ社はROIこそ20%だが、事業に投下できる資本は総資産の半分でしかない。そのためROAは10%に落ちる。かたやローボラ社は無リスク資産を保持する必要がないため、ROIがROAとなる。

 事業投資単位当たりの期待収益率の低さは、賭け金を増やすことでカバー可能である。賭け金を増やす秘訣はテールリスクの少なさにあり、だからこそ景気に左右されないビジネスの安定性は、投資家にとって利益が読みやすいという以上のメリットがある。事業安定性は、成長性にも直結しかねない重要な要素というわけだ。賭け金を極限まで高めている債務超過企業はまさに事業の安定性を完備していることが多い。これはもちろん稀に見る性質なのであって、そんな特質を備えた企業のPERが市場平均並みで売られているのだとしたら、その投資リターンは市場を打ち負かす可能性が高いと考える。


冒頭画像
『5つ数えれば君の夢』 山戸結希


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