墜落事故を受けたボーイングの今後の見通しについて
【状況整理】
ボーイング737MAX 8が、過去5ヵ月間で生存者ゼロの墜落事故を二度起こした。原因は調査中であるが、二件の事故には多くの共通点があるとみられており、世界各国で737MAX 8または同シリーズの運航見合わせが相次いでいる。同社は現在、事故前から準備していたソフトウェアアップデートを急いでおり、各国の運航は少なくともその作業が完了しない限り再開されることはないだろう。なお、737 MAXシリーズはボーイングの収益のかなりの部分を占める。
【ボーイングの将来にどのような影響があるか】
中長期的な見通しはかなりの確度で予見可能だ。事故の原因がボーイングにあるとしても、同社のビジネス基盤に根本的な変化が訪れる可能性は皆無に近い。航空会社には発注先を変えるという選択肢が事実上存在していないことがその理由として挙げられる。まず、地球上には中大型機を安定して供給できる企業がボーイングとエアバスの二社しか存在せず、両社ともフル稼働を続けていても受注残が6,7年分も積み上がっているような著しい供給不足が常態化している。ボーイング機への発注をキャンセルしてエアバスに乗り換えることは、6,7年の順番待ちをしている列の最後に今から並ぶことを意味する。また、キャンセルには多額の違約金が課せられる。航空会社は無駄に動き回らず、ボーイングが今回の問題に適切に対処して737MAXの安全性が高まるのを列の中で大人しく待っていた方が得策なのは明らかだ。
一方で、短期的には多くの不確実性が存在する。737 MAXが運航停止になって最も被害を被るのは高価な機体を遊ばせておかなければならない航空会社なのだが、事故の原因がボーイングにあると判明すれば、その分のアイドルコストをボーイングへ請求してくる可能性が高い。また、737MAXは製造こそ継続されているものの、足元では顧客への納入がペンディングとなっている。その間、ボーイングは保管料を支払いながら完成在庫を持ち続けなければならない。航空会社からの請求予想額も、完成在庫の保管料も、事故の原因究明とソフトウェアアップデートが遅れるほど膨らんでいく。事故の犠牲となった遺族から巨額の賠償金を請求されるリスクもある。もっともこれらは一時的な費用であり、重厚長大型のビジネスを営んでいるにもかかわらずキャッシュフローマシーンと化しているボーイングにとって、問題なく支払える額に収まるだろう。
【ボーイング株は買いか】
以上に述べたことは市場に十分認識されている。だからこそネガティブな記事が連日のように紙面を覆い尽くそうとも、ボーイング株の下落はカタストロフィとは程遠い20%未満の下落にとどまっている。事故前からの価格変化だけに着目すれば喜び勇んで買いに行くような水準ではないように映る。しかしながらバリュエーションの絶対水準に着目すれば、当社の予想PERはS&P500の平均を下回っている。平均を上回る実力を持つ企業が平均より低い価格で売られているのだから、「現在のボーイング株は魅力的である」と断言することに躊躇はない。ただ、購入を検討する場合、短期的には株価の乱気流に振り落とされず、どっしりとした心構えを保持することが求められる。
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『恐怖分子』エドワード・ヤン
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