たばこ株の現況に胸がときめくなら個別株投資が向いている



 米国たばこ企業が、RJRナビスコに象徴される放漫経営や訴訟の嵐にも耐えて長年にわたって投資家へリターンをもたらしてきたのは、提供する商材の経済的な堀が深かったからに他ならない。
(RJRの放漫経営とは、具体的に自社ジェットを数十台保有したり取締役に経費で高級住宅を供与したりしていたことを指す。余談だが、そもそもRJRナビスコという社名からして経営の迷走が見て取れる。RJRはたばこ専業のR.J.レイノルズ・タバコ・カンパニーのことであり、当時の流行であった多角化経営のため、菓子メーカーのナビスコを買収して誕生したのがRJRナビスコであった。)

 たばことは何か。それは人々にストレス解消を提供する中毒性のある嗜好品である。放漫経営も健康訴訟も、たばこが持つ「ストレス解消」という根源的なソリューション能力を少しも傷つけることはなく、たばこ会社にとって結局のところ本物の脅威とはならなかった。むしろ社会問題化を受けて強化された広告やパッケージ規制、FDAの承認など数々の規制が他企業の新規参入を阻止し、既存たばこ会社の栄華を強化した側面すらある。マフィアは暴力で新参者をぶちのめすが、たばこ産業にとっては規制当局が当事者に代わって新参者への暴力を肩代わりしてくれるというわけだ。

 そんな無敵にさえ思えたたばこ企業が、ついに本物の脅威に晒されている。私はそう考えている。
 FDAのニコチン規制やフレーバー規制などというちゃちなもんじゃあもちろんない。かつてないライバル、大麻の登場だ。
 脳機能やがん発症など健康に与える悪影響がたばこに対して多いか少ないかについて明確な研究結果は出ていないものの、若者世代にとっては大麻の方が健康に悪くないというコンセンサスが蔓延しているようだし、吸ったらハイになれるという点でたばこを上回る効用を持っているというのがもっぱらの評判である。その評価は大麻中毒者が適当ふかしているわけではなく、たばこ会社内部でもずっと前から認識されていたようだ。
 下記サイトに、フィリップモリス幹部に宛てられたとされる1970年の社内メモが掲載されている。

PM内部メモ
https://observer.com/2018/03/legalization-has-tobacco-companies-interested-in-marijuana-industry

“We are in the business of relaxing people who are tense and providing a pick up for people who are bored or depressed. The human needs that our product fills will not go away. Thus, the only real threat to our business is that society will find other means of satisfying those needs.” 
“Many regard marihuana as an alternate, and perhaps a superior, method of satisfying the needs that cigarette smoking satisfies,"

"退屈や鬱屈をリラックスさせる商品を我々は提供しており、人々からその欲求が消失することはない。だからたばこビジネスにとっての唯一の脅威は、その欲求を満たす別の商品を社会が見出すことだ。" 
"多くの人がマリファナをたばこの上位互換として考えている。"

 大麻ビジネスの最前線は、米国ではなくカナダである。米国ではカリフォルニア州など一部でしか合法化されておらず、連邦政府からは相変わらず規制薬物として扱われているのに対し、カナダは全土で娯楽用大麻を合法化した。上場されている大麻企業もすべてカナダが本拠地となっている。


 さて、たばこ株のバリューエションはアルトリア・グループ(MO)で予想PER12.5倍と、20倍を優に超えていた昨年前半と比較すると確かに安いが、益回りにするとたかだか10%弱だ。電子タバコのJUUL、医療用大麻のクロノス・グループの株式取得で財務体質が悪化していることや、大麻との競争で守勢に回らなければならないことを考慮すると、リスクに見合ったリターンを提供してくれるかというと心許ない。
 にもかかわらず、私はMOを1百万円ほど保有している。
 結局ここで述べたことは単なる杞憂に過ぎず、たばこ株は今後も利益的に繁栄を続けるのか、やはり予想通り株式市場でも日陰者になってしまうのか、自分の金を賭けて観察していきたいと強く感じている。
 誰であれ個別株に投資する者は少なからずビジネスそのものに興味があるはずだ。たばこに訪れつつあるように見える脅威は、ビジネス的な興味をそそらずにはいられない。たばこ株の現況に胸がときめくなら、個別株投資が向いている。


冒頭画像
『狩人の夜』チャールズ・ロートン

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コメント

  1. JTIマクドナルドへの、会社が継続出来ないほどの巨額賠償命令からの更正手続きという流れは、カナダによるタバコから大麻への強引な切り替えなのでしょうか?

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    1. カナダはきちんとした先進国ですから、仮にタバコから大麻への移行を目指しているとしても、タバコ会社への巨額賠償という別件逮捕みたいな手段は使わないと信じています。行政と司法の分権を疑われれば重大な問題になりますしね。

      今回の賠償決定が引き起こす副次効果についても現時点で予測困難なので、しばらくは今くらいのポジションで静観しているつもりです。焦って買っても実入りは少なそうです。

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