2015年12月20日日曜日

石油精製会社の在庫評価損

 JXや出光で数千億円の在庫評価損が発生し、赤字に転落というようなニュースを目にする。これは見慣れた光景で、日本の石油元売り各社は原油価格の動向によって在庫評価益を出したり、評価損を出したりしてPERが異常値になる傾向がある。

 投資家はこの在庫評価損益をどう捉えるべきなのか。

 まず、在庫評価損益の発生メカニズムを簡単に説明しよう。前提として、元売り各社は有事に備えた70日分の原油備蓄が義務付けられているため、ある程度の棚卸在庫を持たざるを得ないことに留意する必要がある。
 石油会社の多くは在庫評価に期初の在庫額と期中の仕入れ額を合計して平均する「総平均法」を採用しており、原油価格が急落した場合には、期末の在庫評価額に期初の割高な原油価格が反映され、直近の原油価格より帳簿価格が高くなる。近年の会計基準は期末のB/S残高を時価にすることを要求するため、実態より高い棚卸資産が急落した時価まで切り下げられ、在庫評価損が発生する。これがストック面からの説明となる。
 フロー面から説明すれば、期初に保有していた急落前の割高な在庫が当期売上原価に含まれてしまうため、実際の当期仕入れ価格よりも会計上の原価が上がる。この影響により粗利が圧迫される。

 しかし実態の景色は違っている。石油元売り各社にとって、原油相場の販売価格への転嫁はタイムラグにより常に一歩遅れて反映される。ゆえに、原油価格急落は売価が下落しない中で実際の仕入コスト下落が先行し、一時的に粗利が増加する。つまり、価格下落は、短期では本質的に増益要因となる。
 先ほどの会計処理とは真逆の現象が裏で起こっていることになる。

 では、評価損益の本質とは何なのか。元売り会社の決算を見るにあたって、一切考慮に入れる必要のないノイズに過ぎないのか。
 ある意味ではそうとも言えるし、ある意味ではそうでないとも言える。
 無視できる状況というのは、短期的なフローにだけ目を向けた場合だ。在庫評価損は主に備蓄在庫に対して適用されているわけなのだが、実際の事業はむしろ後入れ後出しによっている。つまり、評価損は短期のキャッシュフローとは何の関係もない。

 ただ、本当に将来わたってキャッシュフローに影響しないのか。そんなはずはない。だとしたら、評価損の計上を強要する会計基準に明確な欠陥があることになる。
 評価損は先述の通り未ヘッジの備蓄在庫にかかるもので、そいつは文字通り備蓄されているだけだ。しかし、いつかは必ず製品として出荷される。原油価格が循環するのであれば、在庫評価損益は気まぐれな市場価格をB/S経由でP/Lに反映させているに過ぎないと高をくくっていても問題ないが、昨今起こっているような、原油価格の水準が下方にスライドするようなパラダイムシフトが起これば、長期的には過去に高値で仕入れた原油を安値で放出することに等しい。これは数字上のお遊びではなく、本質的な損失だ。

 だからこそ、この業界における莫大な評価損をどう捉えるかは難しい問題なのだ。基本は無視して構わないが、気にしなくていいわけでもない。

 さて、結論に突入しよう。結局、石油精製会社にとって原油価格の下落は損か得か。短期では売価が遅行するため「得」だというのは先に述べたとおりだ。
 だが私は長期投資家のつもりなので、長期で考える。すると答えは「損」となる。
 まず備蓄在庫の評価損は、長期では本質的な損ということが言える。そしてより重要な問題は、低い原油価格は精製マージンを圧迫することにある。銀行における金利と同じように、原油価格が高いほど精製会社は多くのマージンを乗せられる。原油価格の下落がガソリン需要を増加させて、マージン率の下落を補うのではないかという見解もあるかもしれないが、原油価格は需要の価格弾力性が非常に低い。ガソリン価格が半分になったから、ドライブ距離が倍になるようなことはない。

 このように、原油価格の変動と在庫評価損益と精製会社への本質的な影響は一言では語れない。巷で一般的となっている、在庫評価の影響を除く利益を用いるのは、とりあえず理に適っているのではないか。

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