2017年2月18日土曜日

北米医療エコシステムでPBM(薬剤給付管理)が担う役割

 複雑な北米医療業界の中でキーとなる存在は薬剤給付管理(Pharmacy Benefit Manager : PBM)だ。PBMは中間業者で、医療保険会社、調剤薬局、製薬会社、患者の間に立って、医療費削減のための業務に従事しているという建付けになっている。
 今回の記事の主な登場人物であるPBM、調剤薬局、医療保険会社のマッピング図をまずは貼り付けておくので、文章を読み進めながら適宜戻って確認してもらいたい。


 では本題に入ろう。中間業者であるPBMが持っているものとは何か。

調剤薬局との提携による薬剤処方ネットワーク
医療保険会社との契約に基づく圧倒的な処方ボリューム
医療機関に対する医薬品採用品目リスト(フォーミュラリー)作成の役割

 まずは③から。米国において医療コスト削減は喫緊の課題であり、薬剤の選択権は日本のように医師にはなく、ほとんどフォーミュラリーが握っている。同じ薬効であれば経済効果の高い薬剤が採用されるので、特許切れとなった先行薬などは真っ先にフォーミュラリーから外され、ジェネリック薬に置き換えられる。医療保険も価格と効用において最適な医療を選択をした場合に限って適用される。したがって、フォーミュラリー外の医薬品を使用した場合、患者は全額自腹で支払う羽目になる。アメリカのジェネリック普及率が高い理由として、フォーミュラリーの存在が大きい。となると、製薬会社は自社の製品がフォーミュラリーに採用されるかどうかが売れ行きにとって死活問題となってくる。そのためフォーミュラリー作成の権限を持つPBMにリベートを支払って少しでも有利なポジションを得られるよう努力する。製薬会社から受け取ったリベートの一部は医療保険会社へ還元され、一部はPBMの収益となる。PBMの収益ストリームの一つがこれで明らかとなった。

 次に①,②に関連することだが、PBMは医薬関連コストを引き下げたい医療保険会社に代わって、製薬会社と調剤薬局に値引きを要求する役割を委託されている。製薬会社に対しては医薬品のディスカウントを、調剤薬局に対しては処方マージンの値引きを要求してコスト削減を行い、医療保険会社から見返りとしてフィーをもらう。交渉時におけるPBMの最大の武器は購買(処方箋取扱い)ボリュームだ。PBMは製薬会社にとっては医薬品を大量に買ってくれるお客さん、調剤薬局にとってディスカウント価格で医薬品を安値で仕入れてくれるパートナーであり、PBMの要求を呑まなければシェアダウンという大きな損失を被るので、渋々ながらディスカウントに応じざるを得ない。圧倒的な購買パワーを求めてPBMは必然的に規模を拡大することを望み、過去数年、合併が繰り返された。その結果、今や上位3グループ(エクスプレス・スクリプツ、CVSヘルス、ユナイテッドヘルス・グループ)でシェアの7割を占める寡占業界が完成した。エクスプレス・スクリプツはPBM専業なのに対し、もともとCVSヘルスは調剤薬局チェーン、ユナイテッドヘルス・グループは医療保険会社だ。既に説明したように、調剤薬局と医療保険会社のどちらもPBMと直接取引する立場にあり、この仲介業者を自らに取り込んでコスト削減を推し進めようという戦略が働いた(ここまで読んだら、最初の図を改めてご覧いただきたい)
 しかし、PBMが保険会社や製薬会社、調剤薬局から受け取るフィーやリベートの算定根拠は外から見えないブラックボックスになっている。PBMとしては「自分たちの使命は医療コストの引き下げである」と主張しているが、時の政権には不透明なマージンを搾取して利益を出しまくり、医療コスト高騰に一役買っている中間業者と映っているようだ。エクスプレス・スクリプツの最近の軟調な株価推移は、政府介入によってフィーの削減が行われるのではないかという恐れが反映されている。

 こうした政策リスクを考慮外におけば、PBMのビジネスは非常に有望だ。まずその規模の大きさが最大の競争優位性であるため、寡占化が完了した現在、新たに優位性を脅かす新参者の登場を気にする必要がない。また、多額のR&Dコストをかけて新薬開発に奔走する製薬会社や、実店舗や薬剤配送網を整備しなければならない調剤薬局チェーンと違い、中間業者であるPBMはフィーが主食の巨大な料金徴収箱なので、事業運営が非常に安定している。実際、エクスプレス・スクリプツの業績は金融危機など存在しなかったかのように2008,2009年含めてずっと右肩上がりだし、安定したフリーキャッシュフローのほぼ全額を毎年自社株買いに充てているキャッシュフロー・マシーンと化している。政策リスクが忌避されてPERは10倍程度にすぎないため、年間10%(PERの逆数)ペースで流通株式数が減少している。つまり利益横ばいでもEPSが年率10%成長する。

 肝心の政策リスクはどう考えればよいか。正直言って、私にはコメントのしようがない。ただ、PBMの役割はアメリカの医療制度にあって簡単に替えが利かないからこそ順調に業績が伸びてきたのだろうし、保険会社や調剤薬局チェーンも買収したのだろう。明日からフィー半減ねと大統領に言われてそれが実現するほどヤワな業界ではないと考えるのが自然だ。そんなわけで、私は割安に見えるエクスプレス・スクリプツを下着メーカーのヘインズブランズに次ぐ買い増し候補としている。

2 件のコメント:

  1. はじめまして

    最近ブログをスタートしました。

    米国個別株投資も昨年末はじめたばかりです。

    こちらのブログは投資の参考にさせてもらってます。

    今後もちょくちょく訪問させて頂きます。

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    1. ありがとうございます。始められたブログが軌道に乗ってきたら是非ご紹介ください。

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