ROICについて(後編) - 社内指標として管理する編 -

 ROICの分母は投下資本で、投下資本の中身はバランスシートの右側(有利子負債&自己資本)だから、セグメント別へのブレークダウンは困難で、ROICを社内管理指標に使うのは難しいよねという流れで前回は終わってましたね、たしか。

 お金に色はない。金融機関から調達する時、紐づきの借入っていうのもないことはないんだけど、多くの借入は言うに及ばず、株主資本も普通はどの事業に帰属するのかなんてわからないわけです。

 しかし、借入金や自己資本で調達した資金はもちろん銀行口座にブタ積みされているわけではなく、バランスシートの資産側に姿を変えている。資産の多くは色がついていて、各セグメントに紐づけられる。では資産側で各セグメントへの「投下資本」と呼ぶに相応しいものは何があるだろう。
 こんなんじゃないでしょうか。

① 棚卸資産
② 売掛金
③ 有形無形固定資産
④ 投融資

 この内、②売掛金 は負債側の買掛金と概ね相殺されると考えて投下資本から除外してもいいかもしれない。
 さて、①+③+④の疑似投下資本は、ちゃんと借入金+株主資本と一致したでしょうか。
 一致したならこのまま進んで大丈夫。
 一致しなかったなら、もうちょっと頑張って他の疑似投下資本勘定を探してみるか、私のお勧め代替案があります。
 それはROICのハードルレートともなるWACC(加重平均資本コスト)を調整してやることです。例えばB/Sの右側で計算したWACCが6%だとします。そして① 棚卸資産 + ③ 有形無形固定資産 + ④ 投融資 からなる疑似投下資本が、借入金+株主資本の半分しかなかったとする。そうすると、資産側を使用した社内ROICのハードルレートをWACCの2倍の12%に設定してやればよい。


 ここまでくるとようやく社内管理指標として使えそうな気がしてきた。
 ただ、管理指標は前線の人たちに理解し、使ってもらってこそ価値がある。そのため、個人的にはさらに以下のアレンジをしたいところ。


アレンジ1:
 WACC計算に用いる株主資本は時価総額ではなく、簿価純資産にする

 時価総額なんて日々目まぐるしく変動するので、そのたびにハードルレートとなるWACCが動かれちゃたまったもんじゃないからです。もちろん、簿価純資産にしたところでD/EレシオによってWACCは常に変動するのですが、年に1度見直せば十分でしょう。細かな数字に深い意味はないのです。


アレンジ2:
 ROICの利益は税引き"前"利益を使う

 ここは非常に悩みどころ。私としては現場にも税金コストを意識してもらいたいという思いはあるのだけど、今まで売上高や営業利益しか意識してこなかった人たちに、いきなり資本効率を重視した指標を押し付けるだけでも頭がパンク状態なのに、しかもその利益が税引き後だと来たら、「頭でっかちの経営陣や経理が机上で考えたお飾り指標」だとレッテルを貼られかねない。急がば回れ。税引き後利益を導入するのは社内にROIC管理が浸透してからの方がいいでしょう。その際、WACCもきちんと税前ベースに直してあげるのを忘れずに!


 これでセグメント別のオリジナルROICが計算できる。
 あとは「売上高利益率×資産回転率」 などのお馴染みの分解式を用いて各々分析してもらったり、存分に資本効率アップに励んでもらいたい。


 最後に問題点を提起して終わる。

 ROICのハードルレートはどのセグメントも同一でよいのか? セグメントによってビジネスモデルが違う場合、WACCが違って然るべきなのに、全社一律で計算したWACCを機械的に当てはめるのは合理的でないのではないか。

 この問いかけに対する明確なソリューションは今のところ持ち合わせていない。

コメント

  1. もし良かったら質問させて下さい。
    上の考え方で、投下資本利益率は、BSの右側で投下しておらず預貯金に回した分はどのようになりますか?
    4の投融資に該当するのでしょうか?

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    1. ①〜④の合計値でも借入金&株主資本満たない場合、現預金なども(セグメント別に分けられるのなら)擬似投下資本に加えてもいいかもしれませんね。
      ただなんとなく、MEANINGさんは調達した資本を事業投資に回さず、現金過多になっているの資産株をイメージされているような気がしますので、それを前提とした私の見解は「そういう企業はセグメント別ROIC管理の前にコーポレート部門として最低限やるべきことがあるはずだ。事業部門の尻を叩くのはその無駄な現金を何とかしてからにしろ」というものになるでしょうか。

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    2. ご回答ありがとうございました。
      僕がイメージしていたのは仰るように現金過多の資産株でした。
      今の日本企業では、投下資本ROIC計算も少しややこしい考え方になりますね。

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