2016年9月11日日曜日

安定収益がいいってわけじゃない

 あるところに上場不動産会社があった。事業と言えば、土地を取得して、商業施設を建設、テナントを誘致して安定収益を出せるようになったら、ファンドなどの第三者へ売却する。

 複数のプロジェクトが同時進行しているとはいえ、確定損益は第三者への売却時に初めて認識されるため、期毎の利益はとても不安定だ。四半期決算なんて、何の参考にもならない。

 投資家は予測のしやすさを重視する。特に短期的な損益については。当然のように、この不動産会社の株価は、利益水準からみて信じがたいほど割安に放置された。予想PER5倍とかね。

「割安じゃないかな、この会社」と僕が言う。そんな言葉をある投資家はこう否定する。
「馬鹿な。予想PERの低さは今期に大規模商業施設の売却が織り込まれているからに過ぎない。来期以降もそれが続くと誰にわかる? それに不動産市況なんて今は過熱気味だし、典型的なバリュートラップ銘柄だね、これは」
 仰る通り。
 多分、規模の大きな不動産売却益頼みの収益モデルが続く限り、いつまでたってもこの会社の評価は上がらないだろう。

 だけどそれが何だっていうのだと僕は思う。企業に本質的な収益力と適切な財務施策が備わっているのなら、万年割安株ほど素晴らしいものは株式市場に存在しない。みんな知らないようだけど、株価なんて上がらなくても利益は出せるんだ。


 さて、僕のこういう願いもむなしく、この上場不動産企業はストック型ビジネスに舵を切ると宣言した。話を聞いてみると、土地を取得して、商業施設を建設、テナントを誘致して、安定収益を出せるようになったら、そのまま保有して賃貸収益を得るんだってさ。きっと、自らも不安定な売却収益頼みの事業運営に嫌気がさしてきたのだろう。

 投資家たちは大変喜んだ。どのくらい喜んだかというと、予想PER5倍くらいの会社が、PER8倍くらいに跳ね上がった。なんてったって、これからは収益が読みやすくなる。PER8倍という数値を疑ってかかる必要も、それほどなくなるだろう。


 しかしこれは本当に喜ぶべきことなのだろうか。この会社がやっていることと言えば、実際のところ何も変わっていない。即ち、土地を取得して、商業施設を建設、テナントを誘致して、安定収益を出す。ここまでは全く同じ。最後に売却するか、自分で持ち続けるか、違うのはそれだけなのだ。

 売却することによって得られるキャッシュは、自分で持ち続けた時に貰える将来の賃貸収益合計額の割引現在価値であるはず。となると、時間価値を考慮すれば売却と継続保有の間に何ら経済的な損得の違いは生じない。

 しかし投資家は、「ストック型ビジネス」というマジックワードで本質的に中身が変わらない会社の株価を跳ね上げた。株価が上がれば大喜びの投資家は、理屈はどうあれ狂喜したが、僕はそんな熱狂に乗れずにいる。短期的な収益のブレと引き換えに株価が割安に放置されるなら、そっちの方がずっといい。本気でそう思うから。

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