2016年6月20日月曜日

最適資本構成は市場が決める

 私、事業を始めようと思っていまして。で、お金貸してくれませんか銀行さん。出資してくれませんか投資家さん。

 最初に設備投資が必要なんです、1億円。それで初年度から営業利益300万円が出るんです。需要も安定しているんですが、成長性はないですね。まあ、ゼロと考えてもらえればいいんじゃないかと。何を誰に売るのかとかビジネスモデルとかはこの事業計画書に書いてあるので読んどいてください(ドサッ)

 じゃあ、お金の話に入りましょうか。資本構成は借入金:自己資本=1:1で始めようと思ってます。だから銀行さん、5,000万円貸してください。なにせ安定した事業ですし、じいちゃんの土地も担保に差し出しますので、悪い話じゃないと思うんですよね。あ、長期で貸してくださる。年利は1%。はあ、どうもありがとうございます。

 次に投資家さん、5,000万円出資してください。え、いやだ? 何でですか。何なんですかあんた! こっちは真剣にやってるんだ! 落ち着いて話を聞けって? はあ、聞きますよ。



『投資家さんのお話』

俺がその事業に5,000万円を出資したとして予測されるリターンは何%だろう。それはこうだ。

 つまり、俺の出資金は年率3.5%(175万円÷5,000万円)のリターンしかもたらしてくれないわけだ。
  正直言って話にならない。スタートアップに対する投資なら最低8%の期待リターンは譲れない。どういうことかわかるか? 君の事業のROAは借入金:自己資本=1:1で営むには低すぎるんだ。借入コスト(税前)は1%、株主資本コストは8%。低いROAをカバーして株主の期待リターンを生み出すためには もっと借入比率を高めなければ誰も出資なんかしないよ。私の求めるリターン、つまりROEが8%になる水準まで出資額を引き下げさせてくれ。つまりこういうことだ。

 俺の出資額が1,190万円ならばROEが8%になるので話に応じよう。予定していた1億円の設備投資は出来なくなり、事業規模は小さくせざるを得ないだろうが、ROAが低いから仕方ないと思うがね。え、設備投資1億円の線は譲れないって? だったらこういう選択肢もあるがどうかな。

 私が1,920万円を出資して、銀行から8,080万円を借りて1億円を調達すればいい。いずれにせよ、資本構成は君が決めることじゃない、市場原理が決めることなんだ。そして、私こそ市場だ。


プレノンの補足
 株主資本コストとは投資家の求める期待値に応えるためのコストだ。仮に最後のシミュレーション結果においてこの事業家のビジネスが営業利益300万円ではなく200万円しか稼ぎ出せなければ、ROEは4.3%になってしまう。よって市場は時価ベースでのROEを8%に保つため、株価を半分にする。具体的な数値でいうと、出資時の時価総額1,920万円が、1,040万円まで下落する。株主資本コストを満たせなかったことにより企業価値が下落するということはこういうことだ。

 そして株主資本コストは常に変動する。マクロ環境によって、市場参加者によって、金利との相対評価によって。変動している様を株価などによってかろうじて瞳に捉えることは出来るが、次の瞬間にはもう見えなくなっている。だから、株主資本コストに臨むときは理屈ではなく、感じろ。

6 件のコメント:

  1. 物凄くしっくりくるお話でした!
    面白い!

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    1. 低ROA低ROEなのに自己資本比率が高いバリュー株とやらに鉄槌を下す気持ちで書いた自信作です。勝手に市場原理を無視して厚めの自己資本でぬくぬくやってる経営者と、それを有り難がる投資家のなんと多いこと!
      しかしアクセス数は全然伸びず、やや寂しい思いをしていました。どうもありがとうございます。

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  2. すごい。

    なにがすごいかうまく表現できないが、金の理屈を血肉化してる。。。。

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    1. 「理屈の血肉化」
      言われて気が付きましたが、確かに私はそういうことを意識して理屈に臨んでいる気がします。悩ましいのは、それがリターンと必ずしも直結しないことですが。

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  3. 僭越ながら、この記事が私ユーリの思う暫定ベスト記事です。
    株主資本コスト、ROE、株価などの相互関係をイメージできるか否かが、株式投資にあたって基本であり、しかし何故か多くの投資家にとって容易ではないように思います。私自身まだまだスムーズにIR資料を読み解けませんが、プレノンさんの記事のおかげで理解が進みました。

    これから書籍を執筆されることがありましたら、このようなトピックをご検討ください、買いますので。

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    1. 自分でも良く書けたではないかと思っていた記事なので、そう言っていただけると素直に嬉しいです。
      財務施策は奥が深い。にもかかわらず、特にグロース株投資家からは割と軽視されがちだと感じているので、こうして地道に会計と投資の橋渡しをしていきます。
      書籍の執筆には興味がありますが、色々な面で時期尚早だと感じています。言うなれば、私はまだ成長途上なのです。

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