第142回 誰かが言うには愚にもつかない駄文

1.
魔王はすぐに、がりがりと勇者をかみくだきました。
勇者は小さく噛み切られる間は、痛くて痛くてたまりませんでしたが、それをじっとこらえて、すっかりきれぎれにされてしまいますと、ふとおかあさんのあたたかさを思い出して、しあわせの中に死んでゆきました。


2.

それは木の葉みもじだった。無闇にもこもこするだけでてんで役に立つ気配もない。さあ仕事も終わりだとやっとこさ家につき、ばんと勢いよく玄関を開けても、木の葉みもじときたら奥の風呂場でえいやと上下運動を繰り返しているにすぎないのだ。そんな木の葉みもじも祖母の代には大活躍、あまりの働きぶりに方々からスカウトの声もあったと聞く。一体何のスカウトだったのか、祖母に聞いてもてんで要領を得ない。しかし木の葉みもじのことだ、よくってたけのこ掘りが関の山だろう。しかし私は木の葉みもじが好きなのである。見た目がおいしそうなところが、特にね。


3.
 ホストというのは自然界の法則をものともしない凄い職業だと僕は思う。
 男というのは元々「入れたがる」人種で、放っておいても女に群がるものだから、ホステスなんて馬鹿な女子大生でも務まるのだ。
 この夏、「イケてるデブ」を自称する3つ上の従兄弟から誘われて、僕も彼の職場であるホストクラブで働くこととなった。従兄弟はお世辞にも容姿端麗とは言い難く、一歩歩くたびに顎の肉がタプタプいうのだが、安っぽいミラーボールが部屋の特徴を支配するこの職場ではカリスマで通っているらしく、なるほど彼が耳元で何か囁くと、毛皮のコートで着飾った女性たちは片っ端からとろけるような目で昇天していた。
「ホストはな、愛じゃない、技術職なんだ、わかるか? それも生まれ持った才能がものを言う。お前の彼女の美樹ちゃんを手なずけるのとはわけが違うんだ」
 従兄弟は仕事終わりに爽やかな笑顔で誇らしげに語った。悔しいが認めるしかなかった。美樹だって…彼がその気になれば簡単に抱かれてしまわないとも限らない。訳が分からなくなった僕は拳で従兄弟を殴った。肉が四方から拳を襲撃した。


4.
x軸の実際的有用性について思慮を巡らせていたところ、背後から忍び寄ってきたy軸に顔面を殴打されました。
その時、「やめるんだ、y軸!」と叫びながら僕を介抱してくれた紳士は、よく見ると生き別れた父でした。父は生活保護を受けながら日々の生活を宜しくやっているようでした。
「どうもお久しぶりです」と僕は言いました。「おう、久しぶり」と父は言いました。「それじゃ、また」と僕は言いました。「ああ、それじゃあな」と父は言いました。塾の時間に遅れるわけにはいきませんからね。


5.
ドキュメンタリー:繁殖
てののののは春に繁殖します。そう、春は彼らの発情期なのです。
おや、てのののの(♂)がてのののの(♀)に興味を示したようですよ。ちょっと観察してみましょう。
てのののの(♂)「ぴくぱく……ピー」(春だね。日差しが、春って感じ、だよね)
てのののの(♀)「ポッピいパクピポ、ぷー!」(まあ。性交しましょう!)
微笑ましい光景ですね。
でも、こんな風にして生まれるてののののの赤ちゃんも、その九割は厳しい夏の暑さと天敵たちによって命を奪われてしまうんです。君たちみたいな温室育ちには到底わからないでしょうね!


6.
 一匹の子猫が雨どいの下で小刻みに震えていた。僕がそばを通り過ぎようとした時、子猫は「にゃー……オ」と鳴いてみせた。心理学的見地から「にゃー……オ」の分析を試みると、「にゃー」の部分のひらがなが子猫のかわいらしさを強調し、同時に弱き生き物が置かれたつらく悲しい状況と鮮烈な対比を演出する。「……」は消えゆく生命の予感を、「オ」の部分のカタカナは、それでもなお生き続けようとする健気な意志を表すのだ。
「こんにちは、子猫ちゃん」
 僕は子猫の策略なんてお見通しだったけど、声を掛けることにした。
「ミルク欲しいかい。ほら」
 ところが子猫は小便を噴射した。僕はとっさにバッグで防御した。
「おい、これブランドバッグだぞ!」
 身の危険を感じたらしい子猫は防衛本能を発動させることにした。防衛本能はよっこらせといって作戦を練り始めた。子猫は段ボールからほそりと抜け出すと、小便が付いた場所をぺろぺろと舐めはじめた。
「やめてくれよ、汚いから。でもまあ、子猫も一生懸命なんだよな」
 こうして子猫はめでたく家族の一員となったのだ。仲良くやろうや。

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