2016年5月21日土曜日

大企業の経営陣でもこんなもんだ

 これから私の経験に基づいて、「大企業の経営陣なんて偉そうにしててもこんなことも知らないぜ」という内容が羅列されることになると思うが、別に彼らを馬鹿にしようという意図はない。少なくない例外はあれど、やはり大企業で上に上り詰める人には何かしら能力や人格に光るものがあり、単なる耄碌ジイさんばかりでないのは明らかだからだ。

 しかし年代のせいもあるのか、彼らの株式市場やマクロ経済に対する造詣の欠如ぶりは目に余る。額面株式があった頃や、学部生時代のこてこてケインズ主義あたりの化石みたいな知識で大上段に世界経済を語る人を何人も見てきた。
 頼むから止めてくれ、私からあなた方に対する敬意の念を奪わないでくれ…

 これが私の切実な思いであり、繰り返すがコケにすることが目的ではなく、彼らにもっと目の前の仕事以外からも新しい知識を取り入れてもらいたいがための、少しばかりお節介な思いからこの文章は綴られていることを強調しておきたい。


① 資本コストの何たるかを知らない

 ここ最近はようやく「借入コストより株主資本コストの方が高い」ということが浸透してきたが、まだまだその本質を理解しているようには到底思えない。よくある誤解は「株主資本に対しては配当を支払わなければならず、それは借入金利より高い」というものだ。配当をコストと考える経営陣がいる会社には投資したくないね。株主資本コストの"コスト"は、金利や配当などのキャッシュとは何の関係もない。キャピタルゲインであれインカムゲインであれ、投資家の期待に応えなければ企業価値が減少するというあくまで期待値に対するコストであり、借入コストとはかなり性質の違うものなのだ。
 しかし、配当がコストだと考える誤解はもしかしたら過去の会計基準に原因の一つがあるかもしれない。知っている人がどれだけいるだろうか、「未処分利益」という概念を。
 かつて、P/Lには当期純利益の下に続きがあった。当期利益に前期末の未処分利益を加算し、そこから支払配当を差し引いて当期未処分利益が一番下に来る。これでは配当がコストのように見えても仕方ない。会計は概念なので、会計基準がどのように定められているかは、その裏にある本質を深く考えない人に対しては見たままの概念を植え付けてしまう。罪深い。


② 単純株価で比較する

 やばい、一気にレベルが低くなってしまった。まことに恥ずかしながら、私の勤務先の経営陣は競合をベンチマークとする際、「あそこは一株利益が200円。うちは80円からまだまだ遠い」などとのたまう。擁護させてもらえば、彼らも競合と自社の発行済み株式数が違うことを理解してはいる。だったらなぜ前提が全然違うのに一株利益だとか株価を単純に比較して云々言うのか。そんなに一株利益で追いつきたいなら株式併合でもすればいいじゃないかと私も最初は理解不能だった。
 しかし、これもおそらく旧制度が起こしている弊害だ。
 一株いくらで株式を発行しても構わない現在と違い、彼らがバリバリやってた頃は新株発行は「額面株式」 制度によっていた。
 A社が100万円を株式市場で集めようとする。するとA社は50円額面の株式を2万株発行する。
 B社が200万円を集める場合は、50円額面株式を4万株発行する。
 額面株式制度の下では、調達金額と発行株式数が比例する。だから上述のような奇妙にも思える単純株価比較が行われるわけなのだ。いい加減知識をアップデートしろよ…


③ 為替の本質に疎い

 為替動向を全て金利で片付けようとしている節がある。いや、それならまだマシで酷い場合は「日本は国力が落ちているのになぜ円高になるのか」とか。購買力平価説とか、学校で習わなかったのだろうか。これについてはあまり突っ込む気力もない。


 その他にも枚挙に暇がないほど不可思議な発言を沢山耳にしてきたので、20代のころの私は会社に絶望し、その結果、会社をまともに正せるのは自分しかいないという盲信に取りつかれた。そして「素晴らしい社長になる」ことを目標として色々と勉強に身が入った。勉強の成果は悪くないものだったが、絶望するのが早すぎて結局転職してしまった。だが転職先でも経営層の株式市場やマクロ経済に対する知識は大差ないことに気づくのだった。

5 件のコメント:

  1. 毎度毎度、プレノンさんの知識の豊富さには頭が下がります。個人的に、資金調達コストや企業価値について踏み込んだ解説がなかなか見つけられないので、わからなくなったときはいつもバックナンバーを見返しています。

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    1. ありがとうございます。ブログをアーカイブ的なものとしても機能するように意識している面がありますので、バックナンバーを参照していただいてるというのは何にも増して嬉しい褒め言葉です。
      ただ、今まで資本コストについて深く突っ込んだ記事を書けていないような気がしてもいます。特に株主資本コストについては投資に馴染みのない人にも分かりやすく伝える記事を書こうという構想は何度も浮かんでくるのですが、しんどくていつも構想止まりになってしまうのです。
      出来はともかくいつかは実現するはずなので、ご期待ください。

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  2. それは楽しみですね。期待しております。

    ところで株主資本コストについてですが、自分の中でこれが一番のネックになっています。例えば、借入コストが5%で資本コストが10%だった場合に借入を選択するほうが合理的であるというところまではよくても、その10%はどこから持ってきたの?と問われるとよい答えが浮かびません。個人的には、S&Pインデックスの年間リターンがその一つではないか、とも思っていますが確信を持つには至っていません。
    プレノンさんは資本コストの算出根拠についてどのように認識されていますか?

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    1. 教科書的にはリュウジさんのおっしゃる通り市場平均リターン(ただし相当程度長期間のもの)になります。イボットソンにお金を払えば任意の期間でそのデータがもらえますね。
      この考えの核となっているのは「投資家は自分の期待収益率を満たせる価格で株式を買っているので、株式市場のトータルリターンは、長期ではその期待収益率に収斂する」というものだと思います。
      私も確かに理論的にはその通りだと思うのですが、スタート時点と終了時点をどう取るかで、やっぱり異常値になりやすいと感じています。
      例えば、測定終了時点がバブルの真っ最中だとするとリスクプレミアムはとても高く算出されることになりますが、バブル時のリスクプレミアムは本質的にとても低いものだと私は考えます。
      なので、私はもう真面目に算出することを諦めて、単純に市場直近PERの逆数を株主資本コストとみなしています。今ならTOPIXのPERは15倍くらいだったはずなので、1/15=6.7%でいいでしょ、というざっくりな感じです。

      究極的には株主資本コストとの重要性は細かな数値ではなく、その概念に潜んでいると考えています。

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  3. ご回答ありがとうございます。やはり、市場平均リターンも資本コストの一つと見なしてもよかったのですね。あと、市場PERというのは見落としていました。確かにPERの逆数は株式益回りになりますね。
    余談ですが、こういった話を見聞きするたびに株式投資というものは方程式や技術というより、芸術に近いものなのだとつくづく思います。

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