株主資本主義、その最後の砦

 21世紀を生きる我々にとって、ことによると株主資本主義というのは過ぎた贅沢なのかもしれない。西部開拓時代の鉄道建設のように、大量のリスク資金を分散して調達する必要があった時代ならいざ知らず、今や行き場のないお金は世界に遍在し、有望なビジネスは物乞いのように資金集めに奔走せずとも、お金の方から自然にすり寄ってくる。投資家は言う。「頼むから出資させてくれ!」

 もはや投資家は金を持った王様ではなく、主導権は事業家の手に渡った。明らかに前途多難なスタートアップ企業や胡散臭い創業者に対してすら投資家は我先に出資枠を取り合う。ベンチャー投資プチバブルが発生し、いくつかのシリコンバレー企業は株主に対して連れない態度をとることに慣れきった。
 配当は気が向いたらしてやる、今はアクティブ・ユーザー獲得が先決なので赤字は我慢しろ、文句があるなら株を売ってもらって構わない、俺たち創業者には普通株の10倍の議決権株があるから何を言っても無駄だ。
 投資家はそれでも黙ってついていく。冴えない小口投資家が美人(予備軍)と付き合うためには、多少の我が侭や散財に付き合う必要があるのだろう。世知辛い世の中だが、現実として受け止めねばなるまい。

 そんな世界にあって、相も変わらず20世紀の感覚を引きずったまま、ROEを高めよとか、株主利益がどうだのと教科書で読んだような事を声高に叫んでみたところで虚しく響くばかり。個人投資家はフリーライダーだとか一部の経済学者に馬鹿にされ、酷い侮辱だと憤ってはみるものの、冷静に考えてみれば実際はその経済学者の言う通りの現状であることに気が付く。すなわち、我々は本気で企業の将来性にベットなどしておらず、単なる浮気な渡り鳥ホルダーだということだ。会社が沈没しそうになれば我先に逃げ出し、平気な顔をして他の会社に乗り換える。「今回はダメージを最小限に食い止められました!」
 そして新しい投資先で「ROEを高めよ」とまた叫ぶサイクルを繰り返すことになるだろう。傍目には滑稽としか言いようのない茶番と見られても、反論のしようがない。いったいぜんたい、我々株主は本当に世界の役に立っているのだろうか。個人投資家は、役目を終えてしまった株主資本主義の形骸の上で踊る憐れな夢遊病者に過ぎないとしたら?

 だが私はそんな夢オチのような結論に対して断固として戦うことをやはり宣言する。
 デリバティブ、レバレッジッドETF、生命保険の証券化… 金融工学が発達して、投資家はますます自分の投資しているものがなんなのかわからなくなっている。投資家が夢遊病者だとしたら、それは株主資本主義の役目が終わったからではなく、複雑すぎる投資対象を理解しようとしないままギャンブルよろしく戯れようとする個人投資家の態度のせいではないのか。参加者全員が株主資本主義がどういう経緯でこの世に生まれたのかを忘れ、金儲けにしか興味がなくなった時、株式市場はどんなに立派な建前を並べたところで、ギャンブル場に成り果てる。時代の要請ならそれも避けられないのかもしれないが、まだ少しは抵抗してみようと思う。
 だからせいぜい、私は私で与えられた役割を丁寧に演じることにしよう。投資家として企業には株主利益を重視した姿勢を望み続ける。参加者が信じ続ける限り、市場の非参加者の目にどう映ろうとも、株式投資の理念は生き続ける。そんなロマンティックな夢を見た。

コメント

  1. 僕は(株主)資本主義社会にはいつか終わりが来ると思っています。
    10年以上も前から、ライブドアショック前からそう主張していて、なおかつライブドアショックからリーマンショックに掛けて信用取引で破産してしまいました。

    しかし(株主)資本主義社会に取って代わるようなシステムは今のところ見つかっていない。
    国民性によっては社会主義が向いているといえるかもしれませんが、少なくても日本以外に社会主義が向いているところがあるかどうかすら分かりません。
    その日本でさえ半社会主義で成功した程度で完全な社会主義では失敗したでしょう。
    さらに今の日本人の考え方では半社会主義ですら怪しいです。格差拡大を是とするような経済政策が採られ続けています。

    法人税は減税しすぎましたね。
    投資減税にするべきでした。
    僕は法人税は増税して良いと思います。
    (株主)資本主義が株主の利益を追求する新自由主義に取って代わるなら、長期的な未来はないでしょう。

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    1. 法人税減税について、私は特定の態度を取れないでいます。あえて言えばニュートラルですね。
      実務家としてみると、250パーセント定率法が廃止されて200パーセント定率法になったり、繰越欠損金の控除枠が狭まったり、外形標準課税が二倍になったりと、結局ぜんぜん減税されてねーじゃんと思ったりもし、誇大広告にあっているような気分です。
      また、実際のところ日本の経営者が一番注目しているのは税引前利益までなので、法人税が減税されようが増税されようが、設備投資や労働分配率にはほとんど影響ないと思ってます。

      その点、消費増税は財布の紐と直結してますから、多くの経済学者と同じく私も反対です。

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