徒然なるままにマイナス金利の影響・続編
マイナス金利で最も割を食う主体が銀行であることは説明した通り。もとからゼロだった調達コストはこれ以上下げられない中で、運用利回りだけが下がるから。
そんな銀行の中でも最大の敗者は、まだ貸出機能がなく、大量の預金の4割を日本国債で運用している異形の上場金融機関、ゆうちょ銀行だ。外債などリスク運用割合を増やすしかないのだろうが、長いこと親方日の丸でやってきて、専門家などが社内に不足していると思われる。しばらくは苦しい状況が続くだろう。預金限度額が1000万円から1300万円に引き上げられようとしているタイミングでのマイナス金利突入というのは、まさに皮肉としか言いようがない。
「おじいさん、おばあさん。頼むからこれ以上ウチにお金を預けないでちょうだい。運用先がなくなっちゃったの」
私がゆうちょ銀の社長なら、こう訴えたいところ。それでもお金を預けてくる人たちに対しては、ATM手数料の引き上げで対抗することにしよう。手数料が気に入らなければどうぞよその銀行へ行ってもらって構いません。そんな時代が、もうすぐ来るかも。ATM手数料が引き上げられれば、預金者は気軽にコンビニでお金を下ろしたりすることを控えるだろうから、手数料で儲けているセブン銀行あたりも厳しくなるのでなかろうか。
こんな感じで銀行が苦しむということは、一方で得する者もいる。それは誰か。
もちろん一番の受益者は政府だ。何しろ、国債を発行して利息を「もらえる」ようになる。
ということは、政策金利引き下げは金融緩和という抽象的な役割を超え、銀行を狙い撃ちした課税とも取ることが出来る。
そして借金していながら受取利息が発生するから、いずれ1200兆円もの政府債務が貴重な「歳入源」になる日が来るかもしれない。財政再建なんてしなくていいじゃない。
しかも政府はマイナス金利でゆうちょ銀が苦境に陥る前にIPOを実施し、投資家たちに高値で株を売り抜けている。惚れ惚れするような手腕だ。もちろん偶然だろうけど。
それと、借入金依存度が高い会社にとっては利息負担が軽減されて良い。足元では株価が下がって借入金利が下がっている。ファイナンス的に最も合理的な判断は、借入を増やして自社株買いをすることだ。低いコストで、高い株主還元を実現できる。私はこのタイミングで自社株買いを決断する企業がどれだけ出てくるか、とても注目している。行動のスピード感、判断力の合理性、株主利益への理解の深さ、事業運営への自信を証明する行為になるので、それらの企業は「ホンモノ」である可能性が高い。キャンドゥ、ひらまつなどが既に自社株買いを発表した。これからまだまだ出てくるだろう。
さて、もともと無借金なら利息軽減効果などないからマイナス金利なんて関係ない? それは半分当たっている。プラスの効果は確かにほとんどない。逆に損益に対するマイナス効果が存在する。とはいっても、甚大な影響というほどのものではないが。どういうマイナス影響か。来年度の業績予想には、確定給付の退職金制度を持つ全ての企業において、退職給付費用の増加が織り込まれることになる。
具体的には下記のようなことが起こる。
Aさんが退職する際に支払う退職金を2000万円としよう。Aさんは40歳で、退職まであと20年。企業は現時点で2000万円を積み立てておく必要はない。その間まで運用によって資金を増やせるからだ。だから現時点で会計上積み立てなければならない年金債務は、2000万円を長期金利で割引いた金額になる。割引率が高いほど、将来債務の現在価値は減少するので、積み立ての負担は減る。
長期国債金利が1%だったころは、企業がAさんの退職金のために現時点で積み立てなければならない退職給付債務は16,358千円だった。
長期国債金利が0%の今、企業がAさんの退職金のために現時点で積み立てなければならない退職給付債務は割引かれずに20,000千円になる(まだ20年債にはプラスの利回りが付いているが、細かい話はどうだっていいでしょう)
このように3,642千円の負債が、金利低下によって増加する。
日本会計基準では、当該差異(会計的には"数理計算上の差異"と呼ぶ)をAさんの退職までの期間である20年で均等償却する。つまり、企業の次年度予想には、3,642千円を20で割った182千円の退職費用増が反映される。Aさんのような従業員が1万人いる会社だったら年間18億円の費用増。給料が高ければ高いほど、平均年齢が低ければ低いほど、この現象の影響は大きくなる。
ついでに株価が下がっているので、運用している年金資産も目減りしているはず。これも数理計算上の差異として同じように均等償却される。Aさんが勤務する1万人規模の会社の翌期退職給付費用増は、数十億円増えることが予想される。ま、大したことないと言えば大したことない。
考え始めると次々出てきて面白い。
そんな銀行の中でも最大の敗者は、まだ貸出機能がなく、大量の預金の4割を日本国債で運用している異形の上場金融機関、ゆうちょ銀行だ。外債などリスク運用割合を増やすしかないのだろうが、長いこと親方日の丸でやってきて、専門家などが社内に不足していると思われる。しばらくは苦しい状況が続くだろう。預金限度額が1000万円から1300万円に引き上げられようとしているタイミングでのマイナス金利突入というのは、まさに皮肉としか言いようがない。
「おじいさん、おばあさん。頼むからこれ以上ウチにお金を預けないでちょうだい。運用先がなくなっちゃったの」
私がゆうちょ銀の社長なら、こう訴えたいところ。それでもお金を預けてくる人たちに対しては、ATM手数料の引き上げで対抗することにしよう。手数料が気に入らなければどうぞよその銀行へ行ってもらって構いません。そんな時代が、もうすぐ来るかも。ATM手数料が引き上げられれば、預金者は気軽にコンビニでお金を下ろしたりすることを控えるだろうから、手数料で儲けているセブン銀行あたりも厳しくなるのでなかろうか。
こんな感じで銀行が苦しむということは、一方で得する者もいる。それは誰か。
もちろん一番の受益者は政府だ。何しろ、国債を発行して利息を「もらえる」ようになる。
ということは、政策金利引き下げは金融緩和という抽象的な役割を超え、銀行を狙い撃ちした課税とも取ることが出来る。
そして借金していながら受取利息が発生するから、いずれ1200兆円もの政府債務が貴重な「歳入源」になる日が来るかもしれない。財政再建なんてしなくていいじゃない。
しかも政府はマイナス金利でゆうちょ銀が苦境に陥る前にIPOを実施し、投資家たちに高値で株を売り抜けている。惚れ惚れするような手腕だ。もちろん偶然だろうけど。
それと、借入金依存度が高い会社にとっては利息負担が軽減されて良い。足元では株価が下がって借入金利が下がっている。ファイナンス的に最も合理的な判断は、借入を増やして自社株買いをすることだ。低いコストで、高い株主還元を実現できる。私はこのタイミングで自社株買いを決断する企業がどれだけ出てくるか、とても注目している。行動のスピード感、判断力の合理性、株主利益への理解の深さ、事業運営への自信を証明する行為になるので、それらの企業は「ホンモノ」である可能性が高い。キャンドゥ、ひらまつなどが既に自社株買いを発表した。これからまだまだ出てくるだろう。
さて、もともと無借金なら利息軽減効果などないからマイナス金利なんて関係ない? それは半分当たっている。プラスの効果は確かにほとんどない。逆に損益に対するマイナス効果が存在する。とはいっても、甚大な影響というほどのものではないが。どういうマイナス影響か。来年度の業績予想には、確定給付の退職金制度を持つ全ての企業において、退職給付費用の増加が織り込まれることになる。
具体的には下記のようなことが起こる。
Aさんが退職する際に支払う退職金を2000万円としよう。Aさんは40歳で、退職まであと20年。企業は現時点で2000万円を積み立てておく必要はない。その間まで運用によって資金を増やせるからだ。だから現時点で会計上積み立てなければならない年金債務は、2000万円を長期金利で割引いた金額になる。割引率が高いほど、将来債務の現在価値は減少するので、積み立ての負担は減る。
長期国債金利が1%だったころは、企業がAさんの退職金のために現時点で積み立てなければならない退職給付債務は16,358千円だった。
長期国債金利が0%の今、企業がAさんの退職金のために現時点で積み立てなければならない退職給付債務は割引かれずに20,000千円になる(まだ20年債にはプラスの利回りが付いているが、細かい話はどうだっていいでしょう)
このように3,642千円の負債が、金利低下によって増加する。
日本会計基準では、当該差異(会計的には"数理計算上の差異"と呼ぶ)をAさんの退職までの期間である20年で均等償却する。つまり、企業の次年度予想には、3,642千円を20で割った182千円の退職費用増が反映される。Aさんのような従業員が1万人いる会社だったら年間18億円の費用増。給料が高ければ高いほど、平均年齢が低ければ低いほど、この現象の影響は大きくなる。
ついでに株価が下がっているので、運用している年金資産も目減りしているはず。これも数理計算上の差異として同じように均等償却される。Aさんが勤務する1万人規模の会社の翌期退職給付費用増は、数十億円増えることが予想される。ま、大したことないと言えば大したことない。
考え始めると次々出てきて面白い。
ゆうちょ銀行に対しては僕も同じ考えです。
返信削除ただ、値下がり続ける株価に逆張り投資家として魅力を感じてしまうのも事実でして。
あまり周知されていないであろうネガティブ材料を考えて思い留まり続けています・・・。
郵政三社については「民営化株のIPOに売りなし」のレジェンドに泥がつく事になってしまいましたね。その伝説の根拠が、政府放出株で投資家に損させてしまったら政権の支持率が落ちてしまうため、投資家が儲かるような価格設定にせざるを得ないからだ、とかなんとか読んだ気がします。
削除なるほどと納得してしまいそうな話ですが、つくづく投資というのは過去の成功体験をそのまま適用できないもんだと、そんな金利とは関係ない事も思い起こさせてくれます。