2016年1月30日土曜日

今、アップル株が面白い

割安株大好きな投資家が今アップルに注目しないとしたら嘘だろう。

 ネットキャッシュ排除後のPER(アップルはかつてと違って株主還元に積極的な企業へと変貌しているので、ネットキャッシュを排除する正当性は十分にある)は7倍強。これが世界一有名で高収益な企業につけられた価格だ。
 割安にはいくつもの理由がある。
 既にアップルは5400億ドル(現在レートで64兆円)もの時価総額を誇る世界一の公開企業であること(非公開企業を含めれば、サウジアラムコが圧倒的な世界一)。こんなに巨大な企業がこれから更に利益を増やせるのか疑問を抱いても不思議ではない。
 そして疑問を裏付けるかのように、売上の2/3、利益の大半を占めるiPhoneの成長が鈍化し始めた。



 iPhone一本足打法のアップルに対する成長懸念はスティーブ・ジョブズ存命中から指摘されており、それがついに現実となった。この事態を見越していた成長株投資家は、ここ数年をかけて一人また一人と去っていき、PERはどんどん低下していった。足元のPERは冒頭に述べた通り。
 配当利回りは2%を超え、継続的な自社株買いは配当の3倍を超える。総還元利回り(配当+自社株買い)は8%近い。5400億ドルの時価総額のうち、1600億ドルは現金及び市場性のある有価証券だ(530億ドルの借入金控除後ベース)。過去一年間に530億ドル稼いだ企業が、たった3800億ドルで売られている。時価総額世界一というけれど、こうしてみるとちっぽけな評価に見える。アップルは名実ともにバリュー株の仲間入りを果たしたのだ。ようこそ、素晴らしくも退屈な割安株の世界へ!

 ここまでくると、投資家が織り込んでいるのは成長鈍化というだけでは説明がつかない。ごく近い将来、スマホが従来型携帯電話と同じように時代遅れの産物と化すか、もしくは完全なコモディティに成り果て、廉価な中国スマホにシェアを奪われまくることまで高い確率で織り込んでいる。
 アップルはiPhoneもろとも滅び行く恐竜になるのだろうか。ノキアやモトローラ、ブラックベリー、日本のガラケーメーカーなど、かつて栄華を誇った企業が見るも無残に没落していった歴史もある。盛者必衰。過去を紐解けば、その心配をパラノイア的だと笑い飛ばすことは出来ない。
 さらにあまり指摘されないことだが、今後、通信会社の端末補助金が廃止される可能性がある。とても高価なiPhoneが数億台も売れてきたのは、本来の価格が見えなくなっていた消費者の心理的影響が大きい。既に日本は総務省の口出し介入により高額な端末補助金にメスが入ったが、この流れが世界に広がれば、10万円なり800ドルなりするiPhoneのすっぴん価格が露わになり、購入意欲に急減速がかかることになる。仮に政府の介入がないとしても、iPnoneがその他大勢のブランドの一つになってしまえば、これまで補助金負担を押し付けられていた通信会社が反旗を翻して自主的に端末価格を引き上げる可能性だってある。
 圧倒的な購買ボリュームにものを言わせ、部品サプライヤーにもひどい仕打ちをしてきた。アップルの棚卸資産は総資産の1%にも満たない。これが何を意味するかというと、資金繰り悪化や廃却という在庫リスクを全てサプライヤーに押し付けていたということだ。販売に陰りが見えて王様でなくなった時でも、その手法が通じるかどうか。
 iPhoneのボリュームに代わり得る新製品は影も形も見えない。Apple Watchは期待外れ。誰もが期待していたTV開発は棚上げとなった。自動運転車も噂先行。少なくとも今後数年間は、iPhoneへ依存するしか道はない。

 総括すると、この企業への投資は結局のところ、今の利益が「維持」可能かということにかかっている。維持するだけで、投資家は大儲け。
 私はアップルを株を購入したので、希望的観測を述べよう。利益維持の頼みの綱はiOSのエコシステムだ。
 10億台のアクティブ・インストール・デバイスからもたらされるApp StoreやApple Musicなどのサービス収入は、15年10-12月期において60億ドルと前年同期比で26%の増収を見せた。総売上高に対する比率はまだ7%でしかないが、サービス収入の利益率はコンテンツ企業に支払うコストを考慮しても相当高いと思われる。同期間の税引き前利益は246億ドルだったので、利益に対する比重は馬鹿に出来ないものに育ってきているはずだ。
 またiOSエコシステムはサービス収入だけでなく、iPhoneの販売自体をサポートし続ける。消費者は直接的にはiPhoneというハードを買っているが、間接的にはiOSというソフトを買っているとも言える。iCloud、独自アプリなどによって既存ユーザーはiOS世界に囲い込まれており、Androidへの切り替えにはスイッチング・コストが生じる。
 アップルを携帯端末メーカーだと考えるといかにも将来が危なっかしく思えるが、ソフトウェア販売会社だと考えるとディフェンシブに思えてこないかい?

 もちろん、私にはアップル株を敬遠する他の投資家とは違った輝かしい未来が見えるなどと主張するつもりは毛頭ない。現に、全くわからないので大きくは賭けられない。単純にこういう評価の分かれる企業の将来に思いを巡らせることが、投資家として楽しいだけなのだ。

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