中国の失速はグローバル経済の致命傷とはならない

 急落だか暴落だか呼び方はどうでもいい。株価の変動それ自体は株価の値札が付け替えられただけで、本質的な意味はない。みんながちょっと前の値札で株式を買わなくなったから安くなった。それだけのこと。だからこれから短期的に更に落ちるのか、反発するのかを予想するのは心理学の仕事だ。
 しかし、なぜみんながちょっと前の値札で買わなくなったのかを考えることには意味がある。私の興味はそこだ。
「景気は実際に悪化するのか」
 そしてその暫定見解は今のところはっきりしていて、それは次のようなものだ。
「設備投資主導で成長してきた中国経済がハードランディングしても、グローバル経済に与える影響は軽微である」

 そもそも中国経済のハードランディングの定義とは何か。これまで7%超を誇ってきたGDP成長率が6%台に減速したこと? 過大評価されてきた本土株が暴落して資産効果が剥落すること?
 違う、そんなのは株価急落の後付け理由に過ぎない。世界経済は中国の1%レベルの成長鈍化で混乱するほどヤワには出来ていない。恐れるべきは"減速"ではなく"崩壊"だ。崩壊はいつも信用の破裂によって起こると相場が決まっている。つまり景気減速ではなく、金融危機だ。今、中国で何らかの金融危機が起こるとしたら、過剰投資企業に対する貸付の大量デフォルトを置いて他にない。鉄鋼会社はその最たる例で、常軌を逸した過剰投資によって在庫が膨らみ、資金つなぎのために赤字覚悟の投げ売りを余儀なくされる水準にまで追い詰められている。あるいは人の住む当てのないコンドミニアム、テナントの入る見込みのない大規模モール、電車の走らない鉄道、そして駅。それらに資金を融資した投資家、自治体が世界経済に迷惑をかけることなく生き延びられるか、もしくはゆっくりと死んでいけるかに全てがかかっている。

 この点について、相場急落に乗じた空売りする投資家を逮捕したりする国だ、中国政府は政権安定のためにも無秩序状態を誘発しかねない大規模な破綻を選択することはないだろう。倫理的に問題のある手法を使ってでも、全土レベルでの"崩壊"を阻止する。
 しかし過剰投資問題は、これからの涙ぐましい努力で発生を食い留められる類のものではなく、キャッシュフローとしては既に起こってしまった過去の事象だ。そう、問題はすでに起きてしまっており、何年も前から我々の目の前に差し出されていた。逃げられない。必ず何らかの方法で解決される必要がある。
 "崩壊"への道は激烈な痛みを伴う代わりに素早く企業と設備が淘汰される解決法だが、当局がそれを選択しないということは、問題解決を時間に委ねることを意味する。大きな企業は破綻しないよう資金融資を継続しつつ、新規投資は抑制させる。需要曲線が順調に伸び続ければ、いつかは需給バランスが正常ポイントに達する寸法だ。
 アメリカでは7割に達する個人消費のGDP比率が中国では3割強に過ぎず、投資が5割を占めていたので、新規投資の抑制はGDP成長率に大きな影響を与える。しかも少なく見積もって需給バランスの均衡には数年を要するだろう。そして世界第二位の経済規模の国の数年間の停滞が世界経済を破滅させるか、という最初の問題に戻る。記載した通り、私の見解はノーだ。
 対中投資額、対中輸出額ともに世界最大規模を誇る日本においてさえ、以前分析したように中国経済の"減速"レベルでは誤差程度の経済インパクトしかない。漠然とイメージしているほど、日本は中国に依存していない。デフォルトがあるにせよ、中国国内のごく一部に見られる局所的な現象に終わるだろう。先進国の財務体質は、企業も家計も2008年金融危機前とは比べ物にならないくらい強化されている。要するに、負債が減って自己資本が増強された。唯一、バランスシートが傷んだセクターは政府部門だけだ。先進国経済にとって政府支出は主要登場人物ではない。

 また、時に投資家は足元の状況に見られるように物事を増幅して株価に反映させがちだが、長期にわたるネガティブ要因には不感症になるようにできている。ギリシア債務問題は解決と呼べるまでに数年を要したが、その間に投資家はギリシアから届けられるネガティブなニュースを日常として受け入れ、株価に反映させることを止めた。

 だから、基本的には何も心配していない。宴が続くかどうか知らないが、僕は今日も資産の増減をぼーっと眺めているだけだ。

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