2015年8月30日日曜日

昔々の会計処理に思う

その昔、自社株買いによって取得した自己株式は、純資産のマイナス項目ではなく、有価証券と同じ資産側に記帳された(個別財務諸表に限るが)。
この違いに思いを巡らせることは、なかなか示唆に富む。
結局のところ、自社株買いは確かに有価証券の取得に過ぎないわけで、その昔の会計処理は、会計の素人的にはむしろ純資産のマイナスなんてよくわからないものより遥かに納得感のあるものなのではないか。純資産がマイナスになるような行為を会社がわざわざ行う理由がさっぱりわからない、そんな声さえ聞こえてくる。

全く同じことを行っているのに、一方は資産増加、一方は純資産減少。
この背景にあるのは、自己株に対する思想の違いだ。会計というのは概念なので、処理の対象をどう捉えるかによって、あるべき会計処理が大きく変わる。

自己株を資産として認識するという考えは、会社と株主を区別していない思想の反映だ。会社は他の株主と同じ立場となって自社株主の一構成員となる。配当をすればまた会社に返ってきて、それがP/Lを通して間接的に他の株主の持ち分に還流する。なんだか、Excelの循環参照みたい。

自己株を純資産のマイナスとして認識するという考えは、 自社株買いを資本の払い戻しとして扱う思想の反映だ。会社が自社株買いを行う。なぜか。今の我々にはこの規模の純資産は過大で、喫緊の使途はないので、とりあえずお返しします。そういう考え。だから、配当と同じ。


さて、その他にも昔と今で会計処理の違いというのは色々とある。
その昔、リース資産はバランスシートに記帳されなかった。航空機とか数百億円するような資産をリースしても、固定資産にも負債にも計上されなかったのだ。
なぜなら、リース契約において航空機の所有権はリース会社側にあるから。この会計処理の背景には、リース会社が実質的に銀行と同じ間接金融機関であるという認識が欠落していた。

航空会社が航空機を調達する時、選択肢として二つある。銀行に金を借りてボーイングから直接買うか、リース会社がボーイングから買ってそれをリースで借りるか。
リース契約において契約期間中、航空機の所有権は移動しないが、リース会社はリスクを避けるため、途中解約は不可となる。仮に破棄されれば、航空会社は残存リース契約額を支払わなければならない。つまり、リースによる航空機調達は、銀行から金を借りて自分で直接購入することと何ら変わらない。キャッシュフローに目を向けても、リース料支払いは銀行への借入金返済と捉えることができる。リース料総額は航空機代より多くなるが、それは支払利息として会計処理する。


その他にも、昔の会計処理は全体的に「時価」をB/Sに反映させるという概念が希薄だった。減損会計基準や金融商品会計基準が本格的に整備されたのも21世紀に入ってのことだ。

今の投資家は幸せだ。万能ではないにせよ、国際的な議論を重ね続けたことにより、かなりの部分、実態を反映させようという努力の粋が詰まった財務諸表を目にすることができるのだから。思う存分、それを使って銘柄を分析できる。粉飾さえされていなければ。

2 件のコメント:

  1. いつもながらとても良い記事でした。
    感服します。

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    1. 仕事で昔の資料とかをひっくり返すと、当時はこんな程度で会議資料にOKが出ていたのか、などと色々面白いことが多いです。
      時代が進めば何もかも良くなるわけじゃないのでしょうが、経理面では相当な洗練が急速に進んでいることは間違いなさそうです。

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