「売上高」利益率を信用すべからず
A. 売上高 1,000 営業利益 50
B. 売上高 100 営業利益 50
ここにある二種類の損益計算書、どちらが高収益企業のものと思うだろうか。
義務教育課程を修了しているあなたは自信満々にBと答える。Aの営業利益率が5%なのに対し、Bは50%もあるのは一目瞭然。Aは低採算で苦しんでいて、こんな企業にはとても投資できないと感じても不思議はない。
しかし、実はどちらも同じ企業、同じ年度のP/Lだ。
この会社は商社、つまり特定の商材を売りたい相手と買いたい相手を結び付ける取引仲介を行っている。
100円のものを90円で仕入れ、10個売る。それにかかる販間費は50円。それを表した損益計算書が冒頭のもの。
A.はそれを総額表示している。100円のものを10個売れば、売上1,000円。それにかかった売上原価は90円が10個で900円。したがって粗利益は100円で、そこに販間費50円がかかって営業利益50円。
企業が扱っている商材の契約上のボリューム感が容易に把握できるから、何が起きているかわかり易い部分があるのは確かだ。従来の日本会計基準ではこの表記が許容されていた。
しかし、これは本当に取引の本質を表していると言えるだろうか。この企業が普通の商社であれば、仕入れは売上と同時に計上され、在庫リスクを負わないはずだ。また、在庫リスクを負わない反面、商材の価格決定権も有さないに違いない。提供した商材に関する瑕疵の責任もあくまで商材の製造会社に帰属するのであり、商社が損害賠償しなければならないような状況に陥る危険もない。
これは商社は商材を本人としてではなく、代理人として取引していることを意味している。国際会計基準(そして日本基準も2年後から)は、代理人取引においては、売上高を総額ではなく純額表示することとしている。
ここでいう純額の意味するところを、順を追って確認していこう。
例に出した商社のビジネスの本質は、「商材を90円で仕入れ、100円で売る。」というところにはない。
負っている機能やリスクを踏まえた正確な表現はこうなる。
「商材の販売仲介の対価として、10%の手数料を得ている。」
売上高純額表示するなら手数料部分がそれにあたる。かくして、機能が限定された代理人である商社の売上高は、新収益認識基準の下で激減する。B.の売上100は、契約上の販売額1,000の10%中抜き分であり、それに紐付く売上原価はゼロとカウントされる。したがって粗利率100%、販間費50を控除した営業利益率50%と、A.に比べて極端に高い利益率に見えることになる。
同じような事態は、原則として自らが在庫リスクを負わず、出店店舗で商品が売れた時に仕入販売取引を計上していた百貨店企業にも起きる。あのビジネスの本質も、自社不動産の中でブランドを居座らせて売り上げの一部を徴収するという代理人取引だからだ。
また本人として取引している場合であっても、カード会社のように代理店などに対し機械的にリベートを支払っているような場合、売上高はリベートを控除した額を記載する必要がある。我々がカード利用額に対して受け取る1%の楽天ポイントも、楽天カードにとってはコストではなく売上控除項目の一部になるという訳だ。
売上高も概念であり、見方を変えるとこのように大きく変わり得るものである。「売上高」利益率から高収益企業を見分けることは、すぐにその限界を突きつけられることになる。定期的に見かける、「"売上高営業利益率"や"営業キャッシュフローマージン率"が20%以上の企業に投資せよ。」という機械的なフィルターを用いた言説がいかに乱暴であるかはもうお分かりになるだろう。財務分析はもっとビジネスに寄り添い、定性的な側面にも注目しなければ深みのあるものにはならないのだ。
冒頭画像
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