とある大学投資サークルの一日 -寸劇編 暴落相場の襲来-

<登場人物紹介>
石黒:部長。暴落相場役。
佐藤:サークル幹事。嘆きの投資家役
三戸:サークルの姫。嘆きの投資家役。

石黒
「我が名は暴落相場。投資家どもを絶望に叩き落す者なり。楽観にまみれた表情が嘆きに変わるさまこそ至高。さあ、断末魔のポエムを奏でよ。」

佐藤
「投資方針を貫き、うろたえないことが重要です。」
三戸
「同じ銘柄を安く買えるというのは、素晴らしいことだと思いませんか。」

石黒
「何と凡庸な。耐えがたい。投資家は暴落時にポエムを垂れ流すものだと聞いたのだぞ。そのような言葉しか出てこないなら、投資家などさっさとやめてしまえ。」

佐藤
「押し寄せる暴落の予感に、僕は一人身震いをしていた。10年前もそうだ。世間ではそう、金融危機と呼ばれたものだ。」

石黒
「待て、それ以上続けるな。お前は論外だ。嗚呼、もっとマシなやつはいないのか。ほとばしるポエジーを我に!」

三戸
「私は加代子。29歳のOL。一日5000枚のコピーを取るのが私の仕事。ガーガーガシャッ。ガーガーガシャッ。簡単な仕事ではない。オジサンたちからメールで送られてくるデータファイルはExcelだったりWordだったりPDFだったりと統一性がない。それはまあ仕方ないのだけど、困ったことに彼らは印刷範囲を整えることなんて眼中にない。だから私が出力前に適切に調整する必要がある。このファイルは2枚に分けて出力すべきかしら。それとも縦向きにして1枚に収めるべきかな。こうやって一つ一つのデータを紙に吐き出す。5000枚はここからの作業だ。あとはコピー機が自動でやってくれると思ったら大間違い。同じコピーファイルの束にA4やA3が混在したり、Z折りが必要だったり、パンチ穴を開けなきゃいけなかったり、両面と片面が交互にやってきたり。とにかく上司の要望は多岐にわたる。時給は1500円。ガーガーガシャッ。ガーガーガシャッ。一度設定してしまえば暇になってしまうけど、業務中にスマホを見ているわけにもいかない。私は真剣な表情でコピー機の前に立ち続けるのだ。来る日も来る日もコピーを取り続けてお金を貯めた。10年続けて500万円貯まった頃、知人の紹介で1年前に株式投資を始めた。お金は順調に増えた。株式市場は長期的には右肩上がりだって誰かが言っていたし、その人は優良株を買えば自動的にお金が増えていくと言っていた。それは本当だった。でも突然あなたがやってきた。1日で15万円が減った。一ヶ月分の手取り給与と同じだけど、このくらいは今までの含み益を考えればなんてことはなかった。ガーガーガシャッ。ガーガーガシャッ。次の日は25万円減った。次の日は32万円減った。ガーガーガシャッ。ガーガーガシャッ。次の日は10万円増えて、また次の日に43万円減った。私は為す術もなくそれを見ていた。証券口座の残高は半分以下に減っていた。お昼ご飯を毎日300円で済ませて貯めたお金が。彼との旅行を国内に切り替えて貯めたお金が。私が10年間コピーを取り続けて貯めたお金が! 気が付いたら私は全ての株を売却してしまっていた。気持ちは妙に軽かった。これで、お金が減っていくことを気にしないで済む。それだけで、十分なのだ。」

石黒
「はは、ははは。なかなかに面白い嘆きであった。さあ、投資家どもよ。絶望を高らかに謳うがよい。」



石黒「どうだった。」
佐藤「三戸さんが可愛かったです。」
三戸「私はちょっと。特に加代子のパート、あれ何? 石黒くんのバランス感覚を少し疑ったわ。今どきコピー取りをする女性社員って、時代遅れも甚だしい。それにテーマもよくわからないし、教訓も含まれていないし、そもそもここは演劇サークルでもない。いい加減にしてよね。」
石黒「そういう意見、尊重したいね。」
佐藤「またまた格好つけて。じゃ、今日もスタバ寄って帰りましょうか。」
石黒「いや、俺は三戸さんと用事あるから。」
三戸「それじゃ佐藤君、お先ー。」
佐藤「…」

(決して実現しない)次回予告:
三戸をかけた佐藤の乱勃発?
恋は泥沼のトライアングルへ

とある大学投資サークルの1日

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