ブラックロック(BLK) -ETFの仕組みと薄利の巨人-

 個人投資家の間ではiSharesシリーズのETFでよく知られる資産運用会社だ。
 AUM(Assets Under Management;運用資産残高)は$5.7trillion(現在レートで630兆円)。ライバルのバンガード(非上場)のAUMは$4.0trillion。SPDRシリーズの運用で知られるステート・ストリートは$2.6trillion。ブラックロックは世界最大の資産運用会社である。
 ちなみに、歴史あるTロウ・プライス(AUM $0.9trillion)、フランクリン・リソーシズ(AUM $0.7trillion)はアクティブ運用主体なだけあって、規模の面では更に一桁小さい。

 次に当社AUMの内訳を確認しよう。


 顧客は機関投資家、個人投資家に分散しているが、運用タイプでいえば「株式」の「インデックス」が最大比率となっている。
 収益の9割がこのAUMの運用手数料からもたらされる。一方、コストの6割は人件費で、他のSG&Aも含めて固定費比率が極めて高い。つまり、いわゆるオペレーティング・レバレッジが効きやすく、収益増加は利益率改善を伴う。
 低コストのパッシブ運用への追い風を受けてETFには長期的な資金流入のトレンドが長らく続いている。ところでETFの売買において、ブラックロックはどのような役割を果たしているのか簡単に説明しておこう。


 まず、当社が何らかのETFを設定する。ここではS&P500指数に連動するETFということにしよう。すると投資家が市場でS&P500の構成銘柄を揃えて当社の玄関にやってくる。「ブラックロックさん。僕が買いそろえた銘柄群と、あなたが発行したETFを交換してくださいな。」 S&P500指数と同じ銘柄を揃えられる投資家は、事実上、機関投資家しかいない。ブラックロックは機関投資家が持ってきた銘柄を大切に保管し、代わりにS&P500 ETFを渡す。このETFに価値が認められているのは、ほぼ同額の現物株式がブラックロックにて裏付け資産として留保されているからだ。
 機関投資家はなぜこんな七面倒くさいことをするのか。ここにETFの価格調整メカニズムがある。ETFは市場で売買されており、リアルタイムで時価が変動している。もちろん、裏付け資産となるS&P500指数から大幅に価格が乖離することはないのだが、それでも多少の価格乖離は生じてしまう。機関投資家はそこに目をつける。例えば市場で売買されるS&P500の全構成株式を全て合算すると$1,000だとして、S&P500 ETFが$1,002で取引されているとする。機関投資家はS&P500の現物株式を買い集めてETFに交換し、市場でそのETFを売却すれば無リスクで$2の鞘が抜ける寸法だ。逆にS&P500の現物時価が$1,002に対し、ETFが$1,000の場合、機関投資家は市場でETFを購入しブラックロックに持っていくと、裏付け資産の現物株式が引き渡されるので、それを市場で売却すれば同じく無リスクで$2ドルの鞘が抜ける。このような自動価格調整機能がビルトインされているのがETFの特徴と言える。
 ブラックロックはこの中で、保有資産に対しわずかな運用手数料(エクスペンス・レシオと呼ぶ)を徴収することで生計を立てている。


 楽な商売だな、という感想を持たれたかもしれない。実のところ私もそう思うが、エクスペンス・レシオは非常に低く、投資家に恩恵を持たらしていることは紛れもない事実だ。例えばiShares全体のおよそ1/10を占めるiShares Core S&P500 ETF(IVV)のエクスペンス・レシオはわずか0.04%しかない。(バンガードのVOOも同じく0.04%。)
 薄利と侮るなかれ。この低さはむしろトップシェアのブラックロックにとって長期的に有利に働いてくれるだろう。というのも、既に極限まで切り下げられた運用報酬は、規模の経済なしには成立しえず、したがってどれだけETFブームに与ろうと新興企業がパッシブ運用業界に乗り込んできても、AUMを天文学的な額まで積み上げない限り、決して黒字化することはないからだ。値下げさえ意味をなさない。仮に売れ筋のS&P500 ETFで0.02%と先行する大手の半額のエクスペンス・レシオを提示したとしても、この程度のコスト差は無視できるレベルでしかなく、結局のところ投資家は流動性のある所に群がる。つまり、業界における勝負はもう決しており、覆ることはない。

 そのため、当社への投資において考えるべきことは他社との競争ではなく、運用環境そのものになる。AUM増加には、純資金流入と、運用時価の上昇の2つの要因があるが、前者についてはETFブームが終わる兆しも根拠もないことから心配する必要はないと思われる。運用時価についてはマーケット次第なのでもちろん誰にもわからない。ただ、わからないことを心配しすぎていても仕方がないし、何らかの金融危機が生じても当社のバランス・シートには危機が及ばないということは強調しておくべきだろう。
 そして何より、当社のPERは20倍程度と、決して高くない。

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