伝染する敏感さ -フット・ロッカーQ1決算-

 退屈かもしれないけれど、基本的な確認事項から始めてみよう。
 フット・ロッカー(FL)は北米・欧州を中心に3,354店舗を展開する世界最大の運動靴販売チェーンだ。熱狂的なスニーカー・フリークからすると「違う、一緒にするな」と言われそうだが(もちろんフット・ロッカーの方が格上という意味)、ナイキとの結びつきが極めて強く、同ブランドの売上がかなりの比率を占めることを除いて、投資家的にはまあABCマートみたいな存在だと思ってもらえれば事業的には大差ない。
 業績もABCマートに輪をかけて素晴らしく、毎年2桁のEPS成長を長年継続している。そして何より重要なことに、足元の実績PERは13倍程度に過ぎない。

 そんなフット・ロッカーが今週、2017年Q1決算(2-4月期)発表を行った。
 コンセンサス予想に対してEPSで1.4%、売上で1%だけコンセンサスを下振れた。ついでに言うと、リテール企業で最も重要なKPIとされている既存店売上高は、1.4%増加を見込まれていたところ0.5%の増加にとどまった。なるほど、確かに失望的かもしれない。

 そしてこれが引き起こした株価変動はいかほどだったか。
 マイナス16%がその答えだ。
 市場はなぜこのようなリアクションを取り、何をディスカウントしているのだろうか。

 当ブログでも何度か言及している通り、北米小売業は過去2年、悲惨な業績を辿ってきた。百貨店、ディスカウントチェーン、アパレルブランドなどの既存店売上高が、破壊者アマゾンによってマイナス2桁というのが特に珍しくもない光景となっているのだから、文字通り壊滅的と言うしかない。
 そんな中、フットロッカーは小売業者の中では数少ない成長企業であり続けた。それがたった1四半期、売上・利益が横ばいになっただけでマイナス16%の暴落。2-4月期の既存店売上高が小幅な増加にとどまったのは、米国の税還付が遅れて2月の売上に大きなマイナス影響を及ぼしたためで、3,4月は1桁台中盤の売上成長に戻っているとの説明が経営陣よりあった(スニーカーの主要な購入層であるティーンたちは、親の財布事情に購入タイミングを左右される。昨年はこの時期に還付されていた税が今年は還付されず、ティーンのスニーカー購入にゴーサインを出さなかったというわけだ)。同時に、スローダウンはサイクルではなく、あくまで一時的な要因だと強調していた。投資家はこれを完全な言い訳とみなした。むろん私も無条件で信じようとは思わない。税還付スケジュールの遅れで売上に影響が出たのは当四半期最初の2月であり、その後3,4月の2ヵ月でも完全にその売上減を挽回しきれなかったというのは、果たして本当かと思わざるを得ない。

 しかしもう一度思い出そう。フット・ロッカーはついこの前までオンラインショッピングの脅威に耐性を見せ、順調に成長を続けていた上、予想PERは10.5倍、なのだ。まともな環境であれば、この程度のつまずきが極端な暴落を誘発するはずがない。

 投資家は伝染性の疑心暗鬼に感染している。シアーズが、メーシーズが、JCペニーが、ターゲットが、ダラーツリーが、ヘインズブランズが、ラルフローレンが、その他数々の小売企業、アパレル企業が目に見えてアマゾンの餌食にされているのをたっぷり見せつけられて、フット・ロッカーよ遂にお前もかと、そういう気持ちになってしまったのだ。そしてまた次の四半期に絶望的な知らせが届けられることを心配して、我先に株を売り払った。今回の暴落の背景は、多分この程度のことだろう。
 もちろん、本当に何らかの変調がフット・ロッカーにも訪れた可能性はある。私は長らくフット・ロッカーを数値面で観察し続けてきているので、感覚的にQ1の減速は心配に及ばないと高をくくっている。今、一部の小売企業を襲っている株価低迷は、相次ぐ訴訟を恐れて絶望的なほど叩き売られていた21世紀初頭のたばこ会社を彷彿とさせる。たばこ会社は強く、訴訟リスクにより押さえつけられた株価はその後、投資家に莫大なリターンをもたらした。アマゾンリスクにより他の弱い小売企業と一緒になって株価が押さえつけられているごく少数の強力な小売企業は、この後、たばこ会社と同様に素晴らしいリターンをもたらすだろう。フット・ロッカーはそういう企業の一つだと私は思っている。
 根拠はない。

 で、買い増すのか。多分ボーナスの一部はつぎ込むことになる。他にも欲しい銘柄が出てきているので、それらと一緒に少しずつ買い増すだろう。Q3決算発表までは、何となく株価は復調しない気がするので、急ぐ必要もなさそうだ。

コメント

  1. ボーナスで株買っても奥様に怒られないのでしょうか?

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    1. 生活資金口座に余裕資金を常に滞留させて、夫婦が楽天ファミリーカードで好きな時に金を使えるようにしているので、妻が生活の上でボーナスとかを意識することがないのです。秘密にしているわけではありませんが、聞かれないので私のボーナスがいくらで、いつ入金されているのかも知らないはずです。

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