キャッシュフローのどこに注目すべきか
おそらく財務分析の初級教科書には「利益が出ていても営業キャッシュフローが赤字の企業には気を付けよう」というようなことが書かれているのではないかと思う。
私は投資家の中では比較的キャッシュフローを重視している方だと思うが、営業CFはあまり見ていない。せいぜい、利益に対する償却費の大きさを簡単に確認する程度だ。営業CFが赤字であろうが黒字であろうが、ほとんどの企業においては営業利益の方がはるかに重要であることは、疑いようがないと思っている。
ならばキャッシュフローの何を見ているのか。見ている部分はこうだ。
「どうやって稼いだか」ではなく、「稼いだ金をどのように使って、どういうバランスシートを作り上げようとしているのか」
ある企業は設備投資や買収による拡大に余念がない。またある企業は株主還元に熱心。単にその傾向を掴むだけでなく、最適資本構成を意識した金の使い方をしているのかをキャッシュフロー計算書から読み取る。そのためには、営業CF、投資CF、財務CFどれが重要というより、全体のバランスが重要となる。言葉だけでは中々伝わりにくいかもしれないので、ちょっと例を挙げてみよう。
ここに、A-Dの4社を用意した。
上記のキャッシュフローから、私ならこう読み取る。
まずは次のような採点から始めよう。
それぞれの判断基準は大まかに表現すると次のようなものになる。
[ 設備投資効率 ]
減価償却費または設備投資に対する当期純利益の大きさで判断。当期利益のバランスが大きいほど設備投資効率が高い。
[ 成長性 ]
「減価償却費-設備投資」で判断。正の数値であるほど成熟フェーズ。
[ 還元意欲 ]
「株主還元÷当期純利益」で判断。借入金返済など他の使途がある場合はそれを考慮。
さらに、4社の特徴を簡単に列挙する。
A社
設備投資がそれほど必要ないビジネスモデルでキャッシュが有り余る。成長機会もそれほどなさそうに見える。それなのに総還元性向は5%に過ぎず、現預金が貯まり続けている。経営者には資本コストの概念が欠如しており、資産バリュー株への道を突き進むであろう。
そういうのがお好きな投資家はどうぞ。私は唾棄すべき企業だと思うが。
B社
そこそこ投資をして、そこそこ利益を稼いで、全力で株主還元していこうという企業。手元現金の少なさからも、自らの事業への自信と、最適資本構成を意識したキャッシュフロー運営を行っていることが伺え、投資家を安心させてくれる。
C社
設備投資が減価償却費を下回っていること、運転資本が減少していること(キャッシュフローでは正の数値は運転資本残高の減少を意味する)から、衰退フェーズに入っている企業であることが伺える。しかし投資抑制や資産売却と運転資本減によりフリーキャッシュフローが豊富に出ており、それを負債返済と株主還元に充てて総資産圧縮に努めている。通常であれば将来の不安に備えて全力で借入金を返済し、現預金を貯めこもうとする誘惑が最も強く働くフェーズにもかかわらず、この姿勢は稀有なものである。紛れもなく最適資本構成を意識しており、価格さえ十分に低ければ利益減少をものともせず、投資家に十分な利益をもたらしてくれるだろう。
D社
C社とは逆に、設備投資が減価償却費を大きく上回り、運転資本も増加していることから、急激な成長フェーズの只中にある企業である。利益がまだついてきていないため、借入金調達で必要資金を全てまかなっている。償却費や設備投資額に対する利益の小ささは、投資効率の悪さを意味しているのか、それとも急激な利益成長前なので小さく見えるだけなのかは単年度のキャッシュフローだけでは判断しかねる。成長志向が身の丈を超えているように見えるので私なら投資しないが、夢を描きたがる投資家を引き付けるタイプの企業だろう。
もちろん、本来的には単年度の数値ではなく数年間並べてみることによってよりキャッシュフロー計算書の有用性が増すことは強調するまでもない。
私は投資家の中では比較的キャッシュフローを重視している方だと思うが、営業CFはあまり見ていない。せいぜい、利益に対する償却費の大きさを簡単に確認する程度だ。営業CFが赤字であろうが黒字であろうが、ほとんどの企業においては営業利益の方がはるかに重要であることは、疑いようがないと思っている。
ならばキャッシュフローの何を見ているのか。見ている部分はこうだ。
「どうやって稼いだか」ではなく、「稼いだ金をどのように使って、どういうバランスシートを作り上げようとしているのか」
ある企業は設備投資や買収による拡大に余念がない。またある企業は株主還元に熱心。単にその傾向を掴むだけでなく、最適資本構成を意識した金の使い方をしているのかをキャッシュフロー計算書から読み取る。そのためには、営業CF、投資CF、財務CFどれが重要というより、全体のバランスが重要となる。言葉だけでは中々伝わりにくいかもしれないので、ちょっと例を挙げてみよう。
ここに、A-Dの4社を用意した。
上記のキャッシュフローから、私ならこう読み取る。
まずは次のような採点から始めよう。
それぞれの判断基準は大まかに表現すると次のようなものになる。
[ 設備投資効率 ]
減価償却費または設備投資に対する当期純利益の大きさで判断。当期利益のバランスが大きいほど設備投資効率が高い。
[ 成長性 ]
「減価償却費-設備投資」で判断。正の数値であるほど成熟フェーズ。
[ 還元意欲 ]
「株主還元÷当期純利益」で判断。借入金返済など他の使途がある場合はそれを考慮。
さらに、4社の特徴を簡単に列挙する。
A社
設備投資がそれほど必要ないビジネスモデルでキャッシュが有り余る。成長機会もそれほどなさそうに見える。それなのに総還元性向は5%に過ぎず、現預金が貯まり続けている。経営者には資本コストの概念が欠如しており、資産バリュー株への道を突き進むであろう。
そういうのがお好きな投資家はどうぞ。私は唾棄すべき企業だと思うが。
B社
そこそこ投資をして、そこそこ利益を稼いで、全力で株主還元していこうという企業。手元現金の少なさからも、自らの事業への自信と、最適資本構成を意識したキャッシュフロー運営を行っていることが伺え、投資家を安心させてくれる。
C社
設備投資が減価償却費を下回っていること、運転資本が減少していること(キャッシュフローでは正の数値は運転資本残高の減少を意味する)から、衰退フェーズに入っている企業であることが伺える。しかし投資抑制や資産売却と運転資本減によりフリーキャッシュフローが豊富に出ており、それを負債返済と株主還元に充てて総資産圧縮に努めている。通常であれば将来の不安に備えて全力で借入金を返済し、現預金を貯めこもうとする誘惑が最も強く働くフェーズにもかかわらず、この姿勢は稀有なものである。紛れもなく最適資本構成を意識しており、価格さえ十分に低ければ利益減少をものともせず、投資家に十分な利益をもたらしてくれるだろう。
D社
C社とは逆に、設備投資が減価償却費を大きく上回り、運転資本も増加していることから、急激な成長フェーズの只中にある企業である。利益がまだついてきていないため、借入金調達で必要資金を全てまかなっている。償却費や設備投資額に対する利益の小ささは、投資効率の悪さを意味しているのか、それとも急激な利益成長前なので小さく見えるだけなのかは単年度のキャッシュフローだけでは判断しかねる。成長志向が身の丈を超えているように見えるので私なら投資しないが、夢を描きたがる投資家を引き付けるタイプの企業だろう。
もちろん、本来的には単年度の数値ではなく数年間並べてみることによってよりキャッシュフロー計算書の有用性が増すことは強調するまでもない。
本当は複数年度で比較したいところですね。
返信削除単年度の印象が複数年度で変わるさまを描いてみても面白いかもしれません。
減価償却が終わった装置も日本では絶賛稼働中ですからね。
大企業でも設備投資しないで企業運営しているところが目立ちます。
バランスシートとキャッシュフローはやはり最低3年間は並べて見たいですよね。キャッシュフローの場合だと、単年度だけではそれが戦略なのか成り行きでそうなっているだけなのか判別つかないことがほとんどですから(特に今回の例のC社のような場合は)
削除複数社比較のため、已む無く単年度のみの例示となってしまいました。
MEANINGさんは以前、キャッシュフローを重視しないと仰っていましたが、それは最終的に利益と(フリー)キャッシュフローが一致するからでしょうか。
すいません、お返事遅くなりました。
削除僕がキャッシュフローを重視しない理由は、表面的なお金の移動を見るより複数年度のバランスシートの変化の方が分かり易い事と、補助的な意味合いがなくてもバランスシートだけで注意できること、キャッシュフローを重視することによる中期投資のキャピタルゲインがあまり期待できないからです。
表面的なお金の動きよりも、PLの推移とバランスシートの変化の方が面白いからでもあります。
たしかにバランスシートの推移を見るだけでキャッシュフローはかなり想像つきますね。この記事でも企業が「どういうバランスシートを作り上げようとしているのか」という観点でキャッシュフローを見ると書いてありますが、だったらまどろっこしいことをせずに最初からバランスシートを見ろよと反論されれはぐうの音も出ません。
削除ちなみに私は「余剰なカネはちゃんと自社株買いに回してくれているよね」ということを重視していますので、"中期投資"-"キャッシュフロー"-"キャピタルゲイン"を結びつけて見ていることになります。
納得です。ご説明ありがとうございました。
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