議決権のお値段 - グーグルの場合 -

 2014年、グーグルは株式分割を行った。正確に言うならば、議決権ありのクラスAおよびクラスB株1株に対し、議決権なしのクラスC株1株を交付した。これ以降、グーグルには1株につき議決権1個が付与されたクラスA株(ティッカー:GOOGL)、1株につき議決権が10個が付与されたクラスB株、議決権がないクラスC株(ティッカー:GOOG)の3種類の株が併存することとなった。
 議決権10倍のクラスBは、創業者であるラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン、元CEOエリック・シュミットのほか、限られた幹部らが保有しており、市場では売買されていない。

 このようなグーグル(アルファベット)株で、当社の議決権の価値を考えてみたい。といっても、これだけなら答えはすぐに出る。クラスA(GOOGL)とクラスC(GOOG)は共にナスダックへ上場されて時価が目に見えるのだから、二つの株価の差額が議決権のお値段だ。

2016年12月28日現在
 クラスC株 : $791.55
 クラスA株 : $809.93
    差額 : $18.38

 18.38ドル。議決権以外の価格に対して2.3%分。これがアルファベットの議決権1個に対する価格ということになる。
 ところで、議決権の価値だけクラスAの株価は高いが、アルファベットのような超大型株の議決権など持っていても意味がないということで、価格の低いクラスC株を購入される方がいるかもしれない。もしそうだとしたら、この記事を読んで考え直して欲しい。アルファベットにおいて議決権価値は黙っていても上がっていくので、原則としてはクラスA株を買うのが正解なのだ。クラスC株は従業員に対する株式報酬として毎年発行され、増え続けている。これにより、アルファベット全体に占める議決権の希少価値は増していくので、クラスAはクラスCに対してアウトパフォームを続ける公算が高い。
 そのシミュレーションを以下に示そう。まずは現状把握から。


 現在、クラスBは52百万株、クラスAは288百万株、クラスCは356百万株がそれぞれ存在している。2014年時点ではクラスA+クラスB合わせて340百万株とクラスCは同じ株数だったのに、クラスCは発行から数年でやはり希薄化していることに注目していただきたい。
 さて、上の図だが、太枠全体がアルファベットの時価総額を表しており、その内青色部分が純粋な株式価値、黄色部分が議決権のみの価値となっている。一応、計算式も書いておこう。

[クラスBの議決権価値]
 議決権/個($18.38) × 10個 × 52百万株 = 10ビリオンダラー

[クラスAの議決権価値]
 議決権/個($18.38) × 1個 × 288百万株 = 5ビリオンダラー

[純粋な株式価値]
 クラスC株価($791.55) × 発行株式数


 シミュレーションはここから。たった今、突如としてクラスC356百万株が倍増すると仮定する。クラスCだから議決権の希薄化はなく、株式価値のみが希薄化を起こす。同じように図解すると、こうなる。


 違いが分かりにくいかもしれないので、手っ取り早く"プレミアム"という欄を確認願いたい。現状、2.3%だったクラスAとクラスCの価格差が、クラスC株倍増後は3.5%に拡大している。
 これはシミュレーションでもあり、事実でもある。クラスA(GOOGL)とクラスC(GOOG)の二つが併存してから、実際にクラスAはクラスCにアウトパフォームしてきた。


 クラスCのトータルリターン+37%に対し、クラスAは+42%。
 これがクラスC株を買うべきではない理由だ。

 しかし、今後もこの傾向が続くと決まっているわけではない。
 アルファベットが有り余る手元流動性とキャッシュフローを大量の自社株買いに回す可能性を考えると、何も考えずクラスAを保有し続けるのも良くない。自社株買いがクラスCを対象に実施され、その規模が株式報酬による発行数を上回るような場合、先ほどのシミュレーションと逆のことが起こる。即ち、クラスAがクラスCをアンダーパフォームする。

 私はすでにアルファベット株を売ってしまっているが、次に買う機会があれば、状況をみて慎重に判断したいと思う。

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