2016年11月6日日曜日

ビザ、マスターカードとアメリカン・エキスプレスの違い

 キャッシュレス社会への流れは止めようがなく、クレジットカード決済の未来は明るい。私はそう信じているし、ほとんどの投資家もそう信じている。ビザ(V)とマスターカード(MA)の30倍を超えるPERにはその期待が反映されている。

 ところが同じ国際ブランドであるアメリカン・エキスプレス(AXP)ときたらどうだ。実績・予想ともPERは12倍に過ぎず、凡百の低成長株と同じ扱いを受けている。理由は一つ。成長性がビザやマスターカードより格段に低いからにほかならない。「クレジットカード決済ブランド」と一口に言っても、ビザ、マスターカード組とアメリカン・エキスプレスはビジネスの仕方が大きく異なり、両者の成長率の差は主にその違いから生じている。


  ではどのような違いがあるのか。ビザとマスターカードはオープン・ループ型、アメックスはクローズド・ループ型であるという違いがある。

  オープン・ループ型は、決済システムをカード発行会社に提供し、手数料を得るビジネスモデルだ。通信会社のように「土管」の通行料で稼ぐインフラ企業という見方もできる。クレジットの発行は銀行などのカード会社が担う。

 クローズド・ループ型は、決済システム提供とクレジット発行の両方を担う。アメックスは、あなたがクレジットカードを使用すると、自ら店舗に購入代金を支払い、その後、あなたからお金を徴収する。このように、土管の通行料だけにとどまらず、ファイナンス機能を提供している。カード利用者からの代金徴収は店舗支払いより遅いため、金融機関のようにまとまった額の資金を手元に用意しておかなければならない。
 オープン・ループ型とクローズド・ループ型のバランスシートを比較すると、そのビジネスモデルの違いが数字上も明らかになる。


 冒頭で触れたように、ビザ・マスターカード組とアメリカン・エキスプレスの売上高成長率は極端に違っており、かたやPER30倍超え、かたや12倍程度と雲泥の差があることにも納得が出来よう。
(ただAXPの低成長は、昨年コストコから独占契約を解除され、ビザに乗り換えられたという競争上の要因も重なっていることに留意する必要がある)

 上記の表に額は記載していないのだが、ビザもマスターカードも資産はほとんどない。Vの資産の大半はビザ・ヨーロッパ買収に伴って発生したのれんと無形資産だ。オープン・ループ型の2社は手数料ビジネスに徹しているため、事業運営にほとんど投下資本を必要としていない。それどころか、3行目を見てもわかる通り、未払金が未収入金を常に上回っているため、事業拡大により運転資本はどんどん減少し、そのマイナスの運転資本効果でファイナンスさえできる状態となっている。買掛金残高が常に売掛金残高を上回るアマゾンも同じような効果を享受していた。

 一方、時価総額がマスターカードの半分程度しかないクローズド・ループ型のアメリカン・エキスプレスは、ファイナンス機能を有するそのビジネスモデルゆえに総資産がマスターカードの10倍ある。バランスシートで目立つ科目は何だろうか。まずは調達側だ。キホンのキで、有利子負債による調達。それに加え、預かり保証金(Deposit)というのがある。これは顧客から前受金を受領して、カード限度額以上の利用予定に備えるためのものだ。主にこの二種類の負債調達で、カード利用者への貸付(リボ払いなど)や、店舗への支払いなどに充てている。


 それでは今一度、オープン・ループ型とクローズド・ループ型のメリットとデメリットを整理したい。

 オープン・ループ型は手数料収入に特化しているため、カード利用者の破産などのようなクレジットリスクとは無縁だ。金融危機が起ころうが、バランスシートに危険は及ばない。また金融機能を有していないがため、ビジネス規模と成長速度が手元資金不足という重力に制限されない。したがって、カード決済額の右肩上がりトレンドをフルに享受できる。その反面、顧客の貴重なクレジット情報にはアクセスできないし、限定されたサービス領域に留まっているためマージンの幅は限定的となる。

 クローズド・ループ型のメリット・デメリットはオープン型と対をなしている。即ち、金融機能を有しているがゆえにクレジットリスクがあり、成長速度に手元資金の拡大が追いつかないという制約が与えられるものの、カード決済をフルサービスで提供するので多くのマージンを享受でき、顧客のクレジットデータも入手できる。アメックスの顧客は富裕層が多いため、その情報は特に有益だろう。


 これらの条件を勘案して、私は長期的に繁栄を続けるクレジットカード決済ビジネスの果実を存分に享受すべく、ビザとマスターカードのみに投資している。もちろん、どれほど高い成長をみせようとも、これだけ高いPERは投資リターンを大きく制限することになろうし、少しでも市場の期待を下回ろうものなら悲惨な株価暴落に巻き込まれるだろう。明るい未来が見えるからといって、間違ってもこういうグロース株に一点投資をしてはいけない。

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