2016年11月21日月曜日

アラガン(AGN)とノンキャッシュ費用

 アラガン(AGN)はボトックスという強力な商品を擁し、製薬企業の中でも特にディフェンシブな銘柄として知られてきた。
 まあ七面倒くさい説明は抜きにして、まずはアラガン(AGN)の直近数四半期分の損益計算書を眺めてみましょうか。


 赤字じゃないか。どこがディフェンシブだと。
 会社に代わって言い訳する前に、まずは今のアラガンが近年どのような軌跡を歩んできたか簡単に説明させてほしい。

 今のアラガンは、実はアラガンではない。アクタビスというジェネリック医薬会社が2015年に旧アラガンを買収し、その後、社名をアラガンに変更したのだ。
(ついでに言うと、買収企業のアクタビスもワトソン・ファーマシューティカルズがスイスのアクタビスを買収した後に社名変更した会社だ。アクタビスはアラガン買収前にアイルランドのワーナー・チルコットという会社を買収し、本社を同国に移した。したがって、現アラガンは米国市場に上場してはいるものの、形式上、アイルランドの会社となっている)

 ボトックスを擁していたのは旧アラガンで、他にも創業事業である眼科領域(ドライアイ治療薬のレスタシスが有名)など幅広い分野でキラーコンテンツを持つ特殊医薬会社だった。旧アラガンを買収したアクタビスは社名をアラガンに変更するだけにとどまらず、自らの事業であるジェネリック医薬部門をテバに売却した。展開が早すぎて、もしかしたら私が何を言っているのかわからないかもしれないが、現アラガンは、旧アラガンに極めて近い事業を営んでいることになる。

 なにはともあれ、色々な買収があったおかげでバランスシートにはのれんと無形資産がたくさん計上されている。米国会計基準ではのれんは非償却だが、無形資産は償却する。アラガンの営業赤字の主因はこの無形資産償却なのだ。だからこうして見てみよう。


  EBITDAは"Earnings Before Interest,Tax, Depreciation and Amorization"、すなわち利息、税金、償却前利益を意味し、概ね償却前営業利益に近い。償却費は会計上費用計上されるが、過去に支出したお金を遅延認識しているものなので、当年度のキャッシュフローには無関係のノンキャッシュ費用だ。だからEBITDAは超簡便的な営業キャッシュフローを表していると捉えることができる。

 アラガンのEBITDAはきっちり黒字を維持している。通常の企業であれば毎年設備投資をしなければならないので、EBITDAの黒字は必ずしもフリーキャッシュフローの黒字を約束しないのだけれど、製薬企業に設備投資はほとんど必要ない。アラガンも買収さえなければ投資キャッシュフローはゼロとみなしても支障のない程度しか発生しない。したがって、EBITDAは概ねフリーキャッシュフローと等しくなる。

 もっとも、無形資産償却費で営業赤字になるような買収額は、対価として適切だったのかという議論はありえよう。この営業赤字状態が恒常的に続くのであれば、バランスシートに計上されているのれんや無形資産は簿価見合いの価値がないということになり、減損の必要が生じる。キャッシュフローが健全に出ているからといって、アラガンもこの問題から逃れることは出来ない。
 しかし買収はあくまで過去の話であり、仮に対価が過大であったとしてもそれはサンクコスト(埋没費用)なので現株主には本質的に関係がない。重要なのは過去の費用が計上されているP/Lではなく、将来稼ぎ出すキャッシュフローだ。

 次回、アラガンの事業を少しだけ掘り下げてみようと思う。

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