2016年10月19日水曜日

財政再建企業のバリュエーション

 業績の悪化した会社がある。
 過去の積極投資が裏目に出て巨額減損。あるいはエゲツナイ買収戦略が世間の批判を浴び勝利の方程式が崩壊、ついでにレピュテーションも失墜して既存事業にも悪影響。企業の業績が地に落ちる理由など星の数ほどあろうから、具体例は好きに思い浮かべてほしい。

 いずれにしても大事なのは結果だ。幸い本業の最悪期は過ぎ去り、その企業には巨額の債務が残った。単にD/Eレシオが悪いというだけでなく、その負債を返済しようと思えば何十年も株主還元を諦めなければならないくらい正真正銘巨額の債務だ。
 高収益というにはほど遠いが、利益は安定している。経営陣は当面の最優先事項は成長でも株主還元でもなく、負債の圧縮であると公言している。

 さて、この財政再建企業、ただいま年間のフリーキャッシュフローに対して3倍の値がついているとする。フリーキャッシュフローを当期純利益と読み替えれば、PER3倍。これって安いと言えるのか。普通、利益が安定していてPERが3倍なら、無条件で安いと思うわね。でも本当にそうなのだろうか。一つ一つ考えていこう。

 まず利益成長は望み薄だ。どちらかというと負債返済のために事業売却して、今後利益が減っていく可能性の方が高い。
 また株主還元は少なくとも10年以上は行われないだろう。この企業の負債は足元の利益水準では数年で身軽になるような半端なものじゃない。どういうことかというと、この企業のフリーキャッシュフローは金融機関のものだということだ。

 どうだろう。この企業のPER3倍は安いか。もう少し考えてみよう。

 次に企業評価の教科書を開く。DCF法がいいな。
 割引現在価値の計算方法は他のサイトなり私の過去記事をあたってもらうとして、さて、将来キャッシュフローを割引現在価値に引き直して企業価値が算出された。そうだな、その価値を1,000としよう。
 これがそのまま株主価値になるかというとそうではない。ここからネットデット(有利子負債-現預金)を差し引いてやったもの、それが株主価値なのだ。つまり、企業価値は金融機関と株主で分け合われているわけだ。前にも書いたがこの企業、有利子負債がとても多い。なんと900もある。面倒なので現預金はないことにしよう。
 すると株主価値はこういうことになる。

 株主価値 = 企業価値1,000 - 有利子負債900 = 100


 こうして計算式に落とし込んでみると、成長しない利益を原資に有利子負債をひたすら返済し続けていくことの意味が見えやすくなる。企業価値が変わらない中で(企業価値は将来利益によって規定される。利益見通しに変化がなければ企業価値は不変)、有利子負債が減っていくということは、「企業価値-有利子負債」で計算される株主価値を増していることになり、例えこの期間中、一切の利益成長と株主還元がなくても、投資家の保有株は着実に価値を増していることになるのだ。


 納得できただろうか。私は全然できない。感覚的にそう思った。
 なぜなら、この株主価値増加のロジックは私が忌み嫌う資産株のロジックと同じだから。
 資産株の多くは、この例に出てきた財政再建企業と同じようにパッとしないが安定した利益を還元するでもなく、毎年銀行口座にブタ積みしている。現預金が増えればネットデットが減少するので、上記の株主価値計算式を当てはめれば株主価値は確実に増加していることになる。

 しかし、よく考えてほしい。資産株は今まで使い道もないのに現金を株主還元してこなかったから資産株になっているのであって、ブタ積みになっているその銀行預金が将来株主の手元に返ってくる可能性は極めて低いのだということを。それでもまだ、増え続ける現預金が株主価値を増していると信じることができるだろうか。

 以上が私の感想だ。
 で、結局例に出てきた財政再建企業のPER3倍は安いのかよという問いに戻る。
 答えは各々の投資家が決めればいいことだと思うが、私は行動で答えを示すことにした。またバリアント株を購入したのだ。って、なんじゃそりゃ。

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