2016年7月20日水曜日

シリコンバレー大手に学ぶ非伝統的買収戦略

 何が想定外だったって、そりゃフェイスブックだ。

 およそ4年前の2012年5月、フェイスブックがNASDAQに上場した際、私は「こんな流行りもんのチャラい企業なんて、今がピークですぐにユーザーに飽きられるに決まってる。IPOに飛びついた株主は悲惨な目に合うに違いない」としたり顔で考えていたことを今でもはっきり思い出せる。
 実際、初値38ドルがついた同社株は、その後ずるずると値を下げ、3か月後には18ドルにまで下落した。主幹事のCitiは成長見通しを楽観的に見すぎたと四方八方からぶっ叩かれまくり、私もそれみたことかと冷ややかな視線を投げかけた。

 で、今の株価は?

 120ドル。素直に買っておけばよかったのにね。

 実際、この数年間に当社には色々な変化があった。その全てに私はすっかり武装解除し、驚きを持って接することとなった。
 驚きというのは、主に買収戦略にある。

 伝統的な企業評価方法は以前私が書いたこの記事「企業価値評価の現場と買収プレミアム」が参考になると思うが、マルチプル法やDCF法が多く用いられる。
 一方、シリコンバレー界隈での企業買収では逆にこういったオーソドックスな手法は滅多にお目にかかれない。良くも悪くも壮大な野望実現のための買収といった感が強く、バリュー投資家や普通のグロース株投資家のような貧乏くさい金銭勘定なんて度外視している。彼らの買収戦略は大きく分けると次の3つに大別されると思う。

① 自社サービスの基礎テクノロジーに組み込む(パテント、技術を買う)
② 将来的に脅威となりそうな競合を若いうちに潰す
③ 道楽、あるいは気の迷い

 ほとんどの買収は①に該当する。例を挙げるときりがない。グーグルなんかは検索のコア技術以外は意外とオープンイノベーション型で、アンドロイドも衛星画像も外から買ってきた。マイクロソフトによるスカイプやリンクトインの買収でさえ①の範疇だろう。フェイスブックも初期のころは顔認証技術会社とか、位置情報技術の会社とか、「わかるよ」って感じの買収が多かった。

 わからなかったのはインスタグラムとWhatsAppだ。
 どちらもフェイスブックと直接競合するSNSで、買収当時アクティブユーザー数が急成長中だった。だから当然②目的での買収だと誰もが考えた。

 ところがどうだろう。買収したフェイスブックは2社のサービスに何も手を付けなかった。手を付けない、というのは、サービス向上を放棄して自滅させることではない。今まで通りの魅力的なサービスを継続的に提供し続け、ユーザー獲得に積極的であり続けさせたのだ。目的は多様性の獲得だったのか? しかしすんなりと腑に落ちない。確かにフェイスブックは実名主体でプロフィールにもなり得る半ば公的なSNS、インスタグラムは写真投稿主体、WhatsAppはシンプルなメッセージアプリという違いはあるが、どれも多様性というにはあまりにも似すぎている。マーケティング用語でいえばカニバライゼーションが起きるのは必至であり、しかもWhatsAppなんて広告を入れないと公言しているものだから、フェイスブックからユーザーの時間を奪っても、奪った先でお金になってくれはしない。文字通り、カニバリである。

 しかし不思議と、企業としてのFacebookに感じる安定性というか強大さは、この2社が傘下にあることによってもたらされているように思う。常識の尺度では全く割に合わない買収だったという考えは今も変わっていないものの、多分、私の常識が「世界を手中に収める」というシリコンバレー大手の買収戦略に追いついていないだけなのだろう。今のFacebookの弱点を探し当てようとしてもなかなか見つけられない私は、そうして敗北感に包まれるのだった。

 さて、そして新規上場されたLINEである。足元の利益水準からすると割高にしか見えない同社だが、私は最大限の注意を払って株価動向を見守っている。
 LINEの役員の誰かが「もう陣取り合戦は終わった」と述べたと聞いた。一部ではユーザー数拡大を諦めた敗北宣言と受け止められたようだが、私はとても聡明な見解だと思う。メッセージアプリはテンセントの微信(WeChat)が証明するように、様々なサービスのプラットフォームとなり、莫大な収益をもたらす潜在力を秘めている。LINEがこれからユーザー数を増やすのは難しいだろうが、すでに掴んだユーザーをベースにマネタイズに注力していけば、今の株価が格安だと感じる日が来る可能性が高いと踏んでいる。そのために、いつかLINEもよくわからない企業買収などを行っていくのだろうか。頭の凝り固まった経理屋としては、どんな未来を見せてくれるかとても楽しみだ。

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