会計素人にもわかる(かもしれない)勘定科目解説
取っつきにくい勘定科目をわかりやすく説明。
① のれん
10の価値の企業を100の価格で買うと、差額の90が"のれん"としてバランスシートの資産に計上される。「のれん分け」という言葉があるが、会計ののれんという用語もそののれんと同じ。目に見えないが、そこには確かに価値がある。例えばブランドとか、優良顧客とか。90はそういうものに対する値段です、と買収企業は言うだろう。
「10の価値というが、その価値はどうやって計測するんだよ!」という疑問が生じた貴方の感覚は絶対的に正しい。会計はそんな深遠な問いかけに答えてくれるツールではない。この世界では純資産を株式価値とみなす。PBR1倍が企業の価値というわけ。だから高PBRの企業を買収すると多額ののれんが発生する。逆にPBR1倍割れの企業を買収すると、"負ののれん"が発生する。
のれんは資産計上だったが、負ののれんは? これは買収と同時に収益認識されて、P/Lを経由して純資産に組み込まれる。100の企業を10の価格で買ったのだから、90得して純資産が増えるってわけ。
投資家ならもちろんわかると思うが、多額ののれんが発生したので割高だとか、負ののれんが発生したので割安だとか、短絡的に判断できるものじゃない。だからのれんという勘定科目は投資にあたって有益な情報を含んでいない。極論すれば、無視したっていいとすら思っている。
ただ会計の世界は左右(貸借)がバランスしないと成り立たないので、この科目がないとアンバランス・シートになっちゃうのだ。
② 繰延税金資産
よく目にするけど、よくわからんと苦手意識を持たれている科目ナンバーワンのはず。
「資産」というからには、何か将来の利益になってくれるのだろう。ではどんな?
その説明に入る前に、理解しておくべき大前提がある。投資家が目にしている財務諸表は会計原則に則った報告様式なのだが、税金の世界にはもう一つ別のP/LとB/Sが存在する。なんだってそんなややこしいパラレルな運用をしているのか。文句を言いたいのは企業の実務担当者だ。でも、国税庁は企業からたくさん法人税を取りたい。いくら会計監査を通っているとはいえ、会社の報告する利益をそのまま信用して法人税率を課すなんてわけにはいかないのだ。
A.
[企業] 将来の費用に備えて引当金を計上したのですが…
[国税] ダメダメ、実際にお金を支払っていないならまだ損金として認めません!
B.
[企業] 将来収益見通しが暗くなったので固定資産の減損損失を計上しました。
[国税] ダメに決まってるだろう。売却するか廃却するまでは損金とは認めません!
C.
[企業] 今期は外部環境が悪くて赤字になっちゃいました。法人税、還付してくれますよね?
[国税] はぁ? 法人税に還付なんて概念はありませんけど。あるのは"控除"だけ!
そのかわり、その赤字は来年度以降の黒字と相殺していいよ。
AとBにおいて、会計上は費用、税務上はノン費用ということになってしまったけど、税務でも永久に損金とならないわけではない。引当額に相当するお金を実際に支払ったり、固定資産を廃却すれば税務上も損金計上できるのだ。その時、今度は逆に、会計上は既に引当済みなので何の費用も発生しないが、税務上の損金となることで法人税支払いを減らしてくれる効果がある。
ということは、税務上損金とならない費用を会計上で計上した瞬間、将来税金を減らしてくれるメリットのある"資産"を獲得したとも考えられる。だとしたらバランスシートに計上しなくてはということで、繰延税金資産という科目が使われる。A、Bのような会計と税務の損失認識のタイミングの違いによるものを税務用語では"将来減算一時差異"と呼ぶ。
ただ実は多くの企業において繰延税金資産の内訳の多くはA、Bのような将来減算一時差異ではなく、Cの例にある赤字の繰越分が占める場合が多い。これを税務用語で"繰越欠損金"と呼ぶ。
「今期、赤字になっちゃいました」
「そうかそうか。じゃあ、その繰越欠損金は将来の所得と相殺できるので、繰延税金資産に計上しておこう。損益計算書にマイナスの税金費用を計上して、純利益ベースの赤字幅をマイルドにしていいよ」
「また今期も赤字になっちゃいました」
「うーん、まあ、繰延税金資産に計上しておくか。今回もそれで会計上の赤字幅をマイルドにしよう」
「すみません…また赤字です。来期以降も明るい兆しが見えません」
「そうですか。繰越欠損金の有効期限は発生から9年間です。貴社の収益力では、積もり積もった繰越欠損金を使い切れそうにありませんね。ということは、資産性なしです。繰延税金資産を取り崩しましょう。今まで会計上の赤字をマイルドにしてきたマイナスの税金費用が逆回転して、一気に費用認識されます」
「なんですと…それでは巨額赤字に転落して投資家に文句を言われてしまいます(泣)」
【繰延税金資産取崩しで超絶下方修正!】というニュースの裏には、こういうやり取りがあったりなかったりするかも。
① のれん
10の価値の企業を100の価格で買うと、差額の90が"のれん"としてバランスシートの資産に計上される。「のれん分け」という言葉があるが、会計ののれんという用語もそののれんと同じ。目に見えないが、そこには確かに価値がある。例えばブランドとか、優良顧客とか。90はそういうものに対する値段です、と買収企業は言うだろう。
「10の価値というが、その価値はどうやって計測するんだよ!」という疑問が生じた貴方の感覚は絶対的に正しい。会計はそんな深遠な問いかけに答えてくれるツールではない。この世界では純資産を株式価値とみなす。PBR1倍が企業の価値というわけ。だから高PBRの企業を買収すると多額ののれんが発生する。逆にPBR1倍割れの企業を買収すると、"負ののれん"が発生する。
のれんは資産計上だったが、負ののれんは? これは買収と同時に収益認識されて、P/Lを経由して純資産に組み込まれる。100の企業を10の価格で買ったのだから、90得して純資産が増えるってわけ。
投資家ならもちろんわかると思うが、多額ののれんが発生したので割高だとか、負ののれんが発生したので割安だとか、短絡的に判断できるものじゃない。だからのれんという勘定科目は投資にあたって有益な情報を含んでいない。極論すれば、無視したっていいとすら思っている。
ただ会計の世界は左右(貸借)がバランスしないと成り立たないので、この科目がないとアンバランス・シートになっちゃうのだ。
② 繰延税金資産
よく目にするけど、よくわからんと苦手意識を持たれている科目ナンバーワンのはず。
「資産」というからには、何か将来の利益になってくれるのだろう。ではどんな?
その説明に入る前に、理解しておくべき大前提がある。投資家が目にしている財務諸表は会計原則に則った報告様式なのだが、税金の世界にはもう一つ別のP/LとB/Sが存在する。なんだってそんなややこしいパラレルな運用をしているのか。文句を言いたいのは企業の実務担当者だ。でも、国税庁は企業からたくさん法人税を取りたい。いくら会計監査を通っているとはいえ、会社の報告する利益をそのまま信用して法人税率を課すなんてわけにはいかないのだ。
A.
[企業] 将来の費用に備えて引当金を計上したのですが…
[国税] ダメダメ、実際にお金を支払っていないならまだ損金として認めません!
B.
[企業] 将来収益見通しが暗くなったので固定資産の減損損失を計上しました。
[国税] ダメに決まってるだろう。売却するか廃却するまでは損金とは認めません!
C.
[企業] 今期は外部環境が悪くて赤字になっちゃいました。法人税、還付してくれますよね?
[国税] はぁ? 法人税に還付なんて概念はありませんけど。あるのは"控除"だけ!
そのかわり、その赤字は来年度以降の黒字と相殺していいよ。
AとBにおいて、会計上は費用、税務上はノン費用ということになってしまったけど、税務でも永久に損金とならないわけではない。引当額に相当するお金を実際に支払ったり、固定資産を廃却すれば税務上も損金計上できるのだ。その時、今度は逆に、会計上は既に引当済みなので何の費用も発生しないが、税務上の損金となることで法人税支払いを減らしてくれる効果がある。
ということは、税務上損金とならない費用を会計上で計上した瞬間、将来税金を減らしてくれるメリットのある"資産"を獲得したとも考えられる。だとしたらバランスシートに計上しなくてはということで、繰延税金資産という科目が使われる。A、Bのような会計と税務の損失認識のタイミングの違いによるものを税務用語では"将来減算一時差異"と呼ぶ。
ただ実は多くの企業において繰延税金資産の内訳の多くはA、Bのような将来減算一時差異ではなく、Cの例にある赤字の繰越分が占める場合が多い。これを税務用語で"繰越欠損金"と呼ぶ。
「今期、赤字になっちゃいました」
「そうかそうか。じゃあ、その繰越欠損金は将来の所得と相殺できるので、繰延税金資産に計上しておこう。損益計算書にマイナスの税金費用を計上して、純利益ベースの赤字幅をマイルドにしていいよ」
「また今期も赤字になっちゃいました」
「うーん、まあ、繰延税金資産に計上しておくか。今回もそれで会計上の赤字幅をマイルドにしよう」
「すみません…また赤字です。来期以降も明るい兆しが見えません」
「そうですか。繰越欠損金の有効期限は発生から9年間です。貴社の収益力では、積もり積もった繰越欠損金を使い切れそうにありませんね。ということは、資産性なしです。繰延税金資産を取り崩しましょう。今まで会計上の赤字をマイルドにしてきたマイナスの税金費用が逆回転して、一気に費用認識されます」
「なんですと…それでは巨額赤字に転落して投資家に文句を言われてしまいます(泣)」
【繰延税金資産取崩しで超絶下方修正!】というニュースの裏には、こういうやり取りがあったりなかったりするかも。
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