基礎学力の重要性について

 「頭がいい」とか「仕事がデキる」と言わしめる人の能力の源泉は、せいぜい高校1年までの基礎学力を縦横無尽に使いこなせる応用力に依存している。言語(国語・英語)と数学はベース知識としてとりわけ重要な科目だ。

 数学に関して言えば、公式を単なる暗記で乗り切った人と、公式の意図まで理解した人では、世界に対する見方が次元の違うものとなる。
 言語能力は突き詰めれば書き方読み方のテクニックではなく、思考の深さと直結する。ある単語を知らないということは、その単語が意味する概念を知らないということであり、それだけ思考の幅が限定される。話す言葉、書く言葉が拙い人が、実は深い思考能力を持っていると主張しても誰も信じないし、実際それは真実ではない。
 また英語圏には日本語圏と違う世界の捉え方があり、それが文法や単語に反映されている。だから、英語(に限らず外国語)を学ぶことは複合的な世界観を自身に採り入れることを意味し、グローバルな仕事をする上でツールとして役立つ、という以上の価値がある。
 思考の深さは、既知を未知へ応用する力や、情報処理の速度と正確性に影響する。だから言語的アプローチと数学的アプローチを融合させることが出来れば、ビジネスパーソンとして卓越した能力を得られることになる。先ほども言ったように、その基礎となる知識は高1レベルで問題ない。私が企業の採用担当者なら、面接など無視してペーパーテスト重視で人を選ぶ。


 では、投資家にとっての基礎学力とは何だろう。本源的なところではやはり言語と数学であることは変わらないと思っている。ただ、あえて付け加えるとすれば金融、会計、経済学になるのではないか。発展形として企業価値評価などがあるが、これも会計と金融知識の応用だ。少なくとも、誰か偉い人の格言であったり、なんらかの儲かるコツであったり、過去のデータ分析であったりすることはない。
 Seeking Alphaという、個人投資家が銘柄分析などを投稿するサイトがあるのだが、それらの記事を読んでいると個人投資家レベルで日米には株式投資に対する基礎学力の彼我の差を感じざるを得ない。それがそのまま"日経平均ETF"がインデックスETFにおいて圧倒的な純資産残高を占めるような日本市場の幼稚さに結び付いている(言うまでもなく、インデックス指標としての日経平均はTOPIXより完全に劣っている)
 なぜこんなことを書いているのかというと、本当は「なぜ私は投資本を読まないのか」というタイトルの投稿を構想していたことから出発している。そう、私は読書が好きでありながら投資本をほとんど読まない。その理由を自己分析したところ、主に二つの要因が浮上した。一つは「世間での褒められ方を見る限り、どうやら単純に書物として傑出した投資本というものは存在しないようだ」ということ(もちろん私の主観)。そしてもう一つは「投資本は基礎勉強をすっ飛ばしたショートカットのようでダサい」と私は考えているらしいという、言葉にするとあまり締まりのない答えが抽出されたので、それを表現するためこのような持って回った記事になってしまった。日本の個人投資家は、(当ブログ含む)個人投資家ブログや投資本なんか読むよりも、TACの簿記テキストや大学の経済学テキストからみっちり勉強することがもう少し必要なのではないか。お節介ながらそんなことを常に漫然と思っている。
 批判対象は機関投資家だって例外じゃない。端的に言えば顧客が甘いので、機関投資家は投資の本質を考えるインセンティブを根こそぎ奪われてきた。持ち合い株で守られてきた生保、軍隊営業で手数料さえ取れれば良かった野村、毎月分配に群がるような顧客に粗悪な商品を売りつけるのが目的化した投資信託会社など、短期的な商売手法としては正解だったかもしれないが、日本の投資リテラシーには何の貢献もしてこなかった。彼らにはもっと長期的な視点と、真摯さと、勤勉さが必要なのだ。
 一方で、投資家が急に勤勉になるなんて日が永久に来ないことも知っている。人や集団の性質は簡単に変わるものではない。進学校では優秀な生徒同士が互いの意識を高めあって、皆がより成長するような環境が生まれるが、日本の株式市場は企業経営者も、機関投資家も、顧客も偏差値が高い生徒ではない。つまり、平均以下の学校だ。その学校の中で、いつまでたっても「この銘柄が買いだ」とか、「儲かる投資法」とか、「こういう時はこうすべし」などとくだらないことを議論する。だから、悲しいことだが日本市場はいつまでたっても幼稚なままだろうし、そういう投資家に甘やかされ続ける経営者も幼稚さを脱却することはないだろう。幼稚さの弊害? ROE軽視というのが、一義的にはその最大の弊害だ。

 必要以上に怒りが表出してしまった感があるが、反省はしていない。

コメント

  1. 実に面白い文章でした。

    基礎が重要、考え方の幅を得ることが学問、思考の深さは応用力と情報処理能力とその正しさに影響する。同意見です。
    僕は頭が悪いですが、大体似たようなことを思っています。

    僕は、投資家にとっての基礎学力とは、基礎的な経営力というか、どのような経営をすればどうなるかを理解できているかどうかだと思います。
    こういう戦略でこのような経営をすれば、どのような状況になりそれはどのようにBSに反映され、どのようなリスクがあるか。
    これらを簡単に分かっているかどうかで大きく違うのではないかと思います。

    在庫が増えればどうか、宣伝費が増えればどうか、人員が増えればどうか、給料が低いとどうか、BSの変化がどうなっているかは経営の理解度が足りないと直感として理解できないと思います。
    基礎的なことは別にそんなに難しいことじゃない。興味があれば小学生でも分かる事です。

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    1. 思いのままに書いた文章を分かりやすく要約してくださり、ありがとございます。
      MEANINGさんの考える投資家の基礎学力は、まさに管理会計屋のそれですね。私の本領でもあるのですが、公表データから読み取れることは所詮、企業のほんの一面に過ぎないので、そのデータを読み解く程度ならおっしゃる通りセンスも必要なく、小学生でも分かるという意見には完全に賛同します。
      まあ、インサイダー情報を分析したところで将来予測の精度は僅かしか向上しないのですが・・

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