ウィンダム・ワールドワイド(WYN) -見過ごされた安定性-

 日本版ウィキペディアによれば「ウィンダムワールドワイドは米国ニュージャージー州パーシッパニーに本社を置くホテル経営企業である。」とある。そして当社が展開するホテルブランドが続く。ウィンダム、ラマダ、ハワードジョンソン、デイズイン、スーパー8…。
 ウィキペディアの記載通り、確かに当社は中価格帯を中心としたホテルブランドを展開している。しかし正確に言えば当社はホテルのフランチャイザーであり、自ら経営するホテルはごく一部に過ぎない。競合マリオットと同じく、ホテル事業の収益のほぼ全ては加盟店からのフィーによって成り立っている。さらに言えば、当社全体の売上・利益に占めるホテル事業の割合はわずかだ。主力事業は「バケーション・オーナーシップ」あるいは「タイムシェア」。直接競合するのはホテル会社ではなく、そこからスピンオフされたヒルトン・グランド・バケーションズやマリオット・バケーションズ・ワールドワイドになる。
 では聞き慣れないバケーション・オーナーシップとはどのような事業か。それはリゾート別荘を1週間単位で切り売りするビジネスとまずは表現できる。オーナーは権利を1口購入すると、対象の別荘について1年間の内、任意の1週間をそこで過ごすことができる。この権利をVOI(Vacation Ownership Interest)と呼ぶ。VOIは紛れもなく不動産所有権のため、相続もできるし他人に譲渡もできる。別荘を丸ごと自分で購入すると、滞在しない期間も固定資産税や修繕費などの維持管理費用が掛かってくるのに対し、VOIのオーナーは購入期間分の費用がウィンダムから請求されるだけで済む。

 ここまで読んで、長期投資家を標榜する何人かは当社に対する興味が失せたのではないかと思う。「ホテルにリゾート関連事業だって? もろに景気敏感株だから投資対象外!」
 まあちょっと待ってくれ。ウィンダムの利益の源泉はVOIの販売によるものではない。勝負はむしろ売った後のサービスなのだ。
 まずブランド管理や物件の維持管理を名目としたVOIオーナーからのマネジメント・フィー徴収。年間400-1000ドルが相場で、ウィンダムVOIの会員はおよそ90万人。
 続いてバケーション施設の運営収入。VOIオーナーは毎年購入期間分の余暇を別荘で過ごし、ウィンダムが運営する施設にお金を落としてくれる。オーナーは不稼働損失を避けるため、リゾートで休日を過ごさないと言う選択肢はないのだ。(もっとも、本当に仕事で忙しくてリゾートどころでない年は、誰かに権利を貸すこともできる)
 言ってみれば、VOIの販売とその後のサービス収益は、プリンターメーカーにとっての本体とインクの関係に似ている。本体では利益を出さず、本体を使用するのに不可欠な消耗品(サービス)で利益を得るビジネスモデルといえる。リゾート物件の所有権はVOIオーナーに移譲するためバランスシートも身軽である。
 フィーによる収益がどれほど安定したものか、次のEPS推移を確認しよう。


 一度は去りかけた長期投資家もこのデータを見て涙を流して喜んでいることだろう。ん、そうでもなさそうだ。なになに、「金融危機時の損益はどうなんだ」って? やっぱり知りたいですか。数値できちんと確認しようとするその姿勢、素晴らしいと思います。で、こうなってますよ。

WYN 金融危機前後の損益計算書


 2008年は大赤字。株価も大暴落していて、直近高値の38ドルから、大底の3ドルまで10分の1以下にまで落ち込んだ。
「やっぱりシクリカルじゃん。」そんな声が聞こえてきそうだが、2008年のこの赤字、実はのれんと無形資産の減損$1,426milが含まれてのものだ。減損を除けば営業利益は$596milであり、2007年比で15%の減益に留まっている。翌年の2009年に売上が大きく減っているのに営業利益は実質的に横這いで済んでいるのは、売り上げ減少が利幅の薄いVOIの販売減によるものだからだ。不況になるとさすがに別荘の権利を購入する者は減る。しかしすでに説明したように、ウィンダムにとってそれはプリンター本体を買う人間が一時的に減ったことを意味するに過ぎない。収益の大半は既存オーナーからのフィーによって成り立っているので、やはりリゾート関連企業というイメージに反して不況には強い構造になっている。
 ちなみに金融危機時に3ドルまで暴落した株価であるが、2017年7月現在、100ドルを超えている。底値から30倍以上の上昇である。

 PERが16倍程度に過ぎないため、今からWYNを購入しても投資家はそれなりの果実を手にすることができるだろう。しかし次に大不況がやってくるとき、当社はその収益基盤の安定性にもかかわらず、景気敏感型であるという投資家の誤った認識により、2008年と同じくこの世の終わりかというくらい叩き売られるかもしれない。ファンダメンタル投資家が本気で出動すべきは、まさにそういう時なのだと思う。少なくとも私は決めている。次の暴落局面に買うべき銘柄はウィンダム・ワールドワイドを置いて他にないと。

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