ROEは膨らし粉 その1

 低ROE社会は資本をブラックホールのように吸収する。
 高ROE社会は資本を増幅させる。

【前提】
市場は効率的であり、投資家の期待リターンは常に10%とする。
<市場全体のROE>
 A国 10%
 B国 20%

 新たな投資資金が上記2つの市場に投入される。
「PBR=ROE×PER」の式を適用すると、結果はあまりにシンプルだ。
 A国はPBRが1.0倍となる。
 B国はPBRが2.0倍となる。

 A国での100万円は100万円の価値しかない。
 B国での100万円は200万円の価値がある。
 これは単なる評価額のまやかしだろうか。
 もちろん違う。評価額に倍の差がついているのは、実際の投資金額がもたらす利益にも2倍の差があるからだ。

 ROEの高低は、経済の活力に直結する。
 B国はスタート時点でA国と同じ100万円しかもたないものの、ビジネスの巧みさによって時価を魔法のごとく倍に膨らませる。そして評価額だけではなく、A国が同じ資本で10万円の付加価値しか出せないのを尻目に、B国は20万円を生み出す。
 A国は元手100万円と1年目に生み出した10万円の利益の合算である110万円の期首資本に対して、2年目にはその10%である11万円の追加資本を生み出す。2年目の終わりの手元には121万円がある。PBR1.0倍のため、時価評価は実際資本と同じ121万円だ。
 魔法にかかったB国は、それどころではない。期首資本120万円に対し、2年目は24万円の追加資本を生み出す。PBR2.0倍のため、時価評価は実際資本の2倍、288万円だ。

 10年続くと最初の100万円はどうなるか。
 A国が生み出す累計追加資本は136万円。時価は236万円。
 B国が生み出す累計追加資本は416万円。時価は1,032万円。

「いやいや、B国の高ROEが全て経済成長だけで成し遂げられたと考えるのはフェアではない。A国よりたくさん株主還元して、自己資本を放出してROEの分母を抑えたからかもしれないだろう。つまり最終年度における資本の蓄積額はA国と大差ない可能性があるじゃないか。だとすればこれは単なる時価評価の差。リアルな経済活動とは切り離して考えるべきだ。」
 なるほど。しかし重要なことを忘れているのではないか。"株主へ還元"して企業から資本が流出したとしても、B国から流出しているわけではない。投資家の手元に資金が還流して、それらは消費であったり、別の有望企業の有望な投資の原資となり、大いなる循環に役立っているのだ。いや、仮に自国外の投資家に対して株主還元されたとしても、その時点で対外資本を自国に引き付けていることになるので、いずれにせよB国経済は活性化する。
 A国はROE10%とそれなりに立派な業績を上げているからいいものの、さらに低付加価値であるROE5%のZ国が存在する場合、投資資金は投資された瞬間に0.5倍の価値しかなくなってしまう。低ROE社会が資本をブラックホールのように吸収するとはそういうことだ。

 あなたはこれでもなお、ROEは投資と関係ないと世迷言を言うのか。経済的、物質的豊かさだけが幸せではないと。
 それもいいだろう。私の投資家でない部分は、その考えを支持する準備ができている。

コメント

  1. 毎回勉強になる記事ありがとうございます。

    いつもプレノンさんの記事を読ませて頂いてますが、1点質問があります。
    今回のA国とB国のROEの差は基本的に生産性の差によって生じると考えます。
    じかし、実態の経済ではよく会社が低金利の元、借金して自社株を購入しております。
    仮にA国が借金して自社株の半分を購入すれば、A国はB国と同じROEとなります。
    A国の資産はB国同様に爆発的に増えていきます。(負債も爆発的に増えますが)
    しかし、本来A国の生産性はB国の半分しかありません。
    A国は豊かになっているのでしょうか?
    今の世の中、資産=ほとんど負債と考えます。

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    1. 次の記事にまとめてみました。ご覧ください。

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