ROEは膨らし粉 その2 -ROAでもROICでもなくROEの理由-

 直前の記事に対し、とても回答し甲斐のあるご質問をいただきました。

匿名 2017年10月5日 22:01
(前略)
1点質問があります。
今回のA国とB国のROEの差は基本的に生産性の差によって生じると考えます。しかし、実態の経済ではよく会社が低金利の元、借金して自社株を購入しております。
仮にA国が借金して自社株の半分を購入すれば、A国はB国と同じROEとなります。
A国の資産はB国同様に爆発的に増えていきます。(負債も爆発的に増えますが)しかし、本来A国の生産性はB国の半分しかありません。
A国は豊かになっているのでしょうか?
今の世の中、資産=ほとんど負債と考えます。

 要約すると「借入を増やしてレバレッジを効かせるという財務テクニックだけで高ROEを保っていても、それは本当に経済的に豊かであると言えるのか。」ということですね。

 質問文中にある"生産性"という言葉は、投下資本利益率(ROIC)と読み替えて問題ないと理解しました。
 さて、ROICの分母である投下資本は借入金と株主資本の2つで構成されますが、このうち借入金に対してはどれだけ高い投資効率をあげても時価の膨らし粉効果は発動せず、100万円の借入金は基本的に100万円の価値でしかありません。なぜなら銀行は企業が儲かっても貰える収益は最初に取り決めた利息分しかないからです。私が前エントリーでROICやROAを用いず、ROEだけに集中したのは、経済規模を増幅する力がROEにしか備わっていないことが理由です。

 ROE10%のA国とROE20%のB国、ROICに違いはなく、B国がA国に対して2倍のレバレッジをかけていることが両国のROEの差としましょう。つまり"生産性"に違いはない。

 B国企業は株主に報いるため、借入に頼ります。借入金はどうやって調達するでしょう。もちろん銀行から借ります。
 銀行は何を原資としてB国企業に貸し付けるでしょう。B国民の預金です
 B国民はなぜお金を銀行に預けているのでしょう。それは今のところこれといった使途がないからです。

 B国企業のROEは20%で、PBRは2.0倍でした。投下資本が借入金50万円、株主資本50万円で構成されている場合、企業価値(EV)は借入金50万円、株式価値100万円(50万円×PBR2.0倍)で、合計150万円となります。ここから、借入金のおかげで企業の投下資本が1.5倍の価値に増幅されていることがわかります。
 次にご質問の本質に迫ります。
「増幅された投下資本は、経済的豊かさと関係があるのか。」

 あります。それはなぜでしょう。
 ご質問者の前提では、借入金で自社株買いを行っている場合が想定されていましたのでその枠内で考えてみます。
 B国企業は借入金50万円のおかげでPBR2.0倍に評価された株式を投資家から買い付けます。その投資家はかつてB国企業に出資しましたが、いまや倍の値段で企業が買い取ってくれたわけです。投資家は儲けを手にして、それを消費に回したり、他の有望な企業への投資へ振り向け、B国経済が活性化する。こんな仕組みです。

 ここで起きたことはこう表現できます。
 もともとは使い道がなかったB国民の手元資金が銀行に預金され、企業に貸し付けられ、ROEが向上し、したがって時価が増幅し、増幅した価格で自社株買いを行い、投資家は売却益を手にし、資金が循環する。
 つまり、増幅するはずのなかった預金が増幅して、経済が回ったのです。

コメント

  1. ROEの概念を話すとき、フローとストックを分けて考えていない人とは考え方が違ってきますね。

    ストックが無ければダメだろうと考えるのでしょうが、ストックなんてものは経済が安定していれば金融政策で調整できる。

    GDPはフロー指標で、経済的豊かさを測る指標で一番マシな指標なので、それを上げましょうという話。



    何も難しい話じゃないです。

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  2. すいません訂正。

    ストックが無ければダメだろうと考えるのでしょうが、ストックなんてものは経済が安定していれば金融政策で調整できる。

    →ストックが無ければダメだろうと考えるのでしょうが、フローに対するストックの割合なんてものは経済が安定していれば金融政策で調整できる。

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    1. それもさることながら、ROE批判者の多くは「財務テクニックの駆使」という事象を通常の企業分析の延長線上で一企業の単位だけで考えてしまうので、それを駆使する相手-この記事の例でいうと銀行と預金者-が存在して、結果としてその資本を有効活用していることにまで言及していないです。
      今話題の「内部留保課税」について、会計的に誤りだとかしたり顔で批判している人たちが目に浮かびますが、コンセプトとしては突飛ではないです。
      一刻も早く資本蓄積信仰を捨て去って、脳みそ使わず機械的に配当性向30%と雰囲気で決定する経営と、それを雰囲気で良しとする幼稚な投資環境から脱却してもらいたいと思います。

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