ビットコイン 高いか安いか

 単独では利を生み出さないものに対する資本投下を投資と投機どちらと呼ぶのかという極めて文系的な高等遊戯(言葉遊び)に時間を割くことはやめにして、速やかに本題に移りたい。

 ビットコインそれ自体はキャッシュフローを生まない。それはたしかだ。ゆえにDCF法には頼れず、適正価格の理論的拠り所がない、という意見が良く聞かれる。一体この世の誰が金やピカソの絵画やビンテージワインやビットコインに適正価格をつけられるのか。
 そうした声に賛同しつつも、私はこれらの資産に資金を投ずる行為を反投資的と断じて思考停止したくはない。ビットコインの現在の価格の妥当性について考え、何らかの見解を表明することは決して無駄ではないはずだ。たとえ自分が投資することはないとしても。

 結論を提示する前に、その根拠となるファクターを整理していきたい。

[ ビットコインの特徴 ]
分散型ネットワークに依存しており、中央管理者や手数料を抜く胴元はいない。
新規通貨供給は多大な電力を消耗する採掘(マイニング)を通じてしかなされないため、希薄化は限定的。
 (ただし多くの仮想通貨が続々と誕生しており、仮想通貨全体では大規模な希薄化が起きている)
処理速度が遅く、実店舗での支払い手段には向かない。
取引市場はそれなりに発達している。

 さて、ビットコインは通貨なのだろうか。少なくとも各国政府は法定通貨と認めておらず、税制上もそのように取り扱われている。
 しかし通貨とは流通貨幣の略称であり、経済的にはモノやサービスとの交換に用いられるものであれば通貨と定義できる。したがって、利用者が限りなくゼロに近いとはいえ、曲がりなりにも決済手段として使用できるビットコインは紛れもなく通貨だ。なぜ決済手段としてほとんど利用されていないかというと、法定通貨に対する価格変動が激しすぎるので保有自体にリスクを伴うことと、特徴③で述べられた通り、決済の処理速度が遅いからだ。処理の遅さはブロックチェーン技術の構造的な問題によるところが大きいため解決が困難と思われる。私はビットコインが将来的に世界の決済手段の一角を占めるとは全く予想しておらず、だからこそビザとマスターカードに多額の資金を投入しているのだが、同時に以下の理由によりビットコインは本当にごくごくわずかで注意しなければ見えない程度であれば、将来的に決済手段として細々と生き延びるのではないかと考えている。


[ ビットコインが決済手段として細々と生き続けると思う理由 ]
A. 処理速度の遅さは、個人間送金やオンライン決済においては大きなデメリットとはならない。
B. ユニバーサル通貨のためある意味で為替リスクがなく、海外決済におけるメリットとなり得る。
C. 決済手数料がかからない。
D. 現時点で先行するビットコインの一人勝ちが進行することにより他の仮想通貨が廃れ、仮想通貨全体での希薄化問題を克服できる可能性が高い。


 細々と生き続けるの"細々"がどの程度の規模になるのかもちろん想像がつくわけないので、参考までにペイパルとスクエアの2016年度決済額を引用する。

[新興決済企業の年間トランザクション]
 ペイパル : $354bln (39兆円)
 スクエア : $ 50bln  (5.5兆円)

 対して2017年9月4日現在のビットコイン時価総額は $71bln.(7.8兆円) だ。
 (総採掘量16.5百万BTC × @4,300USD)

 通常の通貨であれば年間に数回転するため、決済ボリュームは時価総額の数倍になる。
 そうしたフィルターを通し、決済手段としての価値だけしか考慮に入れなければ、ビットコインは現時点で法外とは言えないまでも過大評価されているように見えなくもない。少なくともスクエアよりは圧倒的に将来性があり、ペイパルよりは少し劣るという前提を置かない限り、8兆円近い時価総額を正当化することは難しそうだ。決済手段としてのビットコインは今のペイパル並みに成長するか。まあ無理なんじゃないかという強い"感想"が頭をよぎる。


 一方、ビットコインは「新規供給が限定的」「ユニバーサルな価値を有している」「取引市場がそれなりに発達している」という特徴から、金に似た性質を持っている。すなわち、価値保存手段としての用途があるというわけだ。
 金の時価総額は? $8,000bln(880兆円)だ!

 この視点からは、ビットコインの価値はあまりにも過小評価されているように見える。なにせビットコインは電子データなので、金のように現物を保管する金庫も必要ない。しかも"おまけ"の機能として実際の決済にも使えるのだ。金の方も"おまけ"として工業用途がある。


 以上を総合して、私はビットコインの主用途を価値保存、おまけとして決済機能を有している電子データとラベリングし、その観点から価格が高騰した現時点においても過小評価されていると結論づける。


 ディスクレーマー:私はビットコインに投資していないし、おそらくこれからも投資しない。

コメント

  1. ライトニングネットワークになれば3番は解決されると思います。

    返信削除
    返信
    1. そういう技術革新の実装が控えているということは、ビットコインの通貨としての価値にも上方修正の余地が多分にあることを示唆していますね。
      ビットコインの将来性については実際にビットコインへ投資されている方や真面目に勉強されている方などがたくさんいらっしゃると思うので、是非この場で意見を交換してみたいという希望があります。

      削除

コメントを投稿