2016年8月20日土曜日

合理的世界観における株主還元

 全ての企業が株主利益を最大化するために、株主資本の使途を極限まで合理化すれば、きっとこの世から自社株買いや、もしかしたら配当さえもなくなるかもしれない。
 なぜか。私が超合理的世界観と同化し、企業経営者の口を借りてこの二つの資本政策にいちゃもんをつけてみよう。


配当について

『配当はまったく合理的じゃない。配当が正当化されるのは、当社より当社株主の方がお金を増やすという点において優れた能力を有している場合に限られる。では、当社と当社株主のどちらが優れているか。答えは自明だ。我々経営陣は当社株主より金を稼ぐ能力に秀でているがゆえにボードに指名されている。従って、配当によって我々経営陣の手から、相対的に金儲け能力に劣る当社株主へ自己資本を還元することは結果として株主利益に反する。ベストな選択は、稼いだ利益を我々が再投資して更に利益を積み重ねることなのだ』

自社株買いについて

『自社株買いはまったく合理的じゃない。自社株買いが正当化されるのは、当社株がこの世に存在するあらゆる投資対象の中で最も期待リターンが高い場合に限られる。当社は抜きんでたエクセレントカンパニーではあるが、その事実は当社株が世界で最も優れた投資対象であることを意味しない。当社のファンダメンタルズが傑出しているがゆえに投資家の評価も高く、皮肉にも当社株への投資で目覚ましいリターン上げることは非常に困難なのだ。従って、我々は当社より劣った企業であっても株価が割安な企業の株式、魅力的な新規事業、高いROIが期待できる省力化投資などに資金を投入するのがベストの選択である』


 さて、株主還元を全否定するこの自信過剰で狂信的な経営陣にはどのような反論が効果的だろうか。次に私は株主資本主義の良心と同化し、投資家の口を借りて株主還元の正当性を試みる。


個人投資家の反論

『全知全能の経営陣の皆さま。私は貴兄の能力に全幅の信頼を置いているし、そのような方が経営する企業に投資出来て、個人投資家としてこの上ない幸せを感じています。貴兄がアイビーリーグを卒業され、難関で知られる貴社の入社試験を潜り抜け、さらには社内の激しい競争さえを乗り越えてボードの座を射止めた大変優秀な人物であることを考慮すれば、確かに私より金儲け能力に秀でている可能性がかなり高いことに異存ありません。
 しかしながらこれだけはご理解いただきたいのです。私が投資しているのは貴社の事業に対してであって、貴兄の能力に対してではないのだということを。
 貴兄の経営能力が株主還元のベネフィットに勝るとして、永久的に利益を再投資し続けるのであれば、貴社のバランスシートは必然的に肥大化していくことになるでしょう。貴兄のことですから、それらは無駄に銀行口座に眠らされることなく、適切に事業へ配分されていることになるのでしょうが、既存事業に無限の成長余地があるわけではない以上、いずれ畑違いの事業や、シナジーのない買収に投下される日が来るでしょう。その時、私は一体何の会社に投資していることになるのでしょう。電力会社でもあり、鉄道会社でもあり、工作機械メーカーでもあり、菓子メーカーでもある会社でしょうか。私はそのような事態を望みません。私が電力会社を魅力的だと思うなら、貴社から配当されたお金でもって、きちんと電力専業会社に投資したい。
 ですから、ぜひとも貴兄の能力は貴社の現在の事業利益の最大化に振り向けていただき、その範囲で余った現金は投資家へ還元し、我々に選択肢を与えてほしいのです』

2 件のコメント:

  1. 言いたいことがすごく良く分かります。

    僕はもちろん前者、バランスシート無駄に肥大化させてROE下げるなら株主に返せ、という考えです。

    (僕が書くとしたら、株主還元してバランスシートを肥大化させなくても、もしROEを維持すらできないなら…というのが後者の主張になります)

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    1. この記事は、株主還元をしないバークシャー・ハサウェイや、株主還元はするけどよくわからないコングロマリットに突き進むソフトバンクへのアンチテーゼとして構想されました。私の好みは株主還元を支持するというところでブレはありませんが、ただ、上記2社のような企業があるのも一方で面白いと感じており、記事に登場した狂信的な経営者は是非実在して欲しいですね。

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