会計基準の洗練は投資判断を助けるか ーオペレーティングリースの場合ー

 お久しぶり。
 唐突だが、私は一応経理屋だ。そのため、会計基準にまつわる最新の論点にもある程度明るいつもりで、最近は収益認識基準の変更とオペレーティングリースのオンバランス化という大きな論点に興味が集中している。
 つまらなさそうな話題と思っただろうか。まあそう言わず、もうちょっとだけ聞いてほしい。投資とも無関係じゃないと思う。多分ね。

 先ほど挙げた二つの中で、特にオペレーティングリースのオンバランス(資産計上)については会計実務のみならず、投資判断にもそれなりの影響を及ぼす重要論点だと考えている。

 まず簡単に背景を説明しよう。リースは会計上、ファイナンスリースとオペレーティングリースに大別される。前者は単なる賃貸ではなく、借り手が選んだものをリース会社が代理購入し、それを金利と手数料込みのリース料総額で貸与するような取引であり、この契約で顧客は自ら銀行から借り入れてリース資産を購入するのと変わらない効果を享受することができるので、言ってみれば間接金融と同じだ。だから"ファイナンス"リースと名付けられている。経済実態としては賃借ではなく明らかに保有なので、ファイナンスリースは、2000年代初頭の会計ビッグバンにおいていち早く資産計上が義務付けされている。

 一方、オペレーティングリースとは一般的に想像される賃貸取引のことを指す。例えばオフィスビルのフロアを借りること。例えば汎用サーバーを借りること。これらは貸与資産が汎用的な使途を有するため、リース会社が顧客との契約終了後でも別の顧客にまた貸すことが出来る。顧客は資産を丸ごと購入するのではなく、営業(オペレーティング)上、都合のいい期間だけ借りる契約となるためオペレーティングリースと呼ばれる。
 オペレーティングリースの対象資産は顧客に実質的にも形式的にも所有権は存在せず、想定される契約期間も一般的にファイナンスリースより短期だ。したがって、現状の会計基準はこの取引の資産計上を求めていない。会計の実務者としては、オンバランス化に伴う煩雑な判断や処理が省略できるのでありがたいことだ。しかし、冒頭に述べた通り、
これをオンバランスせよとの論調が支配的になりつつある。

 手間が増えてしまう会計屋に対する同情はいらない。あなたも私も投資家だ。投資判断においてオペレーティングリースのオンバランス化が役立つのかどうかについて考えてみて欲しい。深く考えるのが面倒だというのなら、
までになかった情報が増えると単純化してみてもいい。情報が増えることで損することなんてそうそうないはずだから、投資においてもきっとメリットの方が多かろう。
 具体的に想定してみよう。例えばここにスニーカー小売を生業とする会社が二つあり、一社は店舗を自社保有し、もう一社は賃借で全国展開しているものとする。現状の会計基準では賃借で展開している方の企業のバランスシートが軽く見え、したがってROAは高く、リスクが低く見える。しかし、この認識は正しいのだろうか。まあ、ある部分ではそうだ。スニーカーブームが去って両社の売上が下降し始めた時、店舗を保有していればその価値が毀損して減損や売却損などの計上を余儀なくされるのに対し、賃借であれば少々の違約金と原状回復費用を支払って撤退するだけで済む。これは会計マジックではなく、現実に生じる損得の違いとなる。
 とはいえ、平時において両社が行っている経済実態にはほとんど違いは存在しない。どちらも店舗という資本を使用している。現実に使用している資本がバランスシートに一切乗らないというのは、賃借展開企業の実力を過大に見せすぎてしまう危険性があるのではないか。
 この実力過大評価問題をいま議論が進みつつあるオンバランス化で万事解決。会計基準の洗練は素晴らしい!という流れで締められれば綺麗に追われるのだが、そうは問屋が卸さない。

 オペレーティングリースのオンバランス化でも残る不具合とは、リースでない使用資本がいまだオンバランス化されないままということだ。
 リースの定義とは「資産が物理的に区分でき」、「その区分された資産の使用を顧客が支配する権利を有する」こととなっている。
 
を時めくイケてる投資家にもっとも通じやすい例として、AWS(Amazon Web Services)を想像してもらいたい。AWSはパブリッククラウド事業者として、顧客にサーバー貸している。ではこれはオペレーティングリースに該当するだろうか。答えは否で、なぜならAWSが貸しているのはサーバーの物理的な一部分ではなく、容量という抽象的なものに過ぎないのだから。リースの定義である「資産が物理的に区分でき」るという条件を満たしておらず、したがってオペレーティングリースでさえないので、会計基準変更後でもオンバランス化されない。
 しかし顧客はAWSのストレージを借りることで、経済実態としては自社でサーバーを保有したり、リース会社から物理的に区分された一部のサーバを借りたりするのと同じ効果を享受することが出来ている。つまり、資本を使用している。実質的に同じことをやっているのに、クラウドを利用するとROAを底上げできてしまう問題点が再び浮上するのだ。

 そうなると会計基準が目指すべき次なる目標は、リースの定義を変更することになるのだろうか。その場合、定義の境界線を巡って血みどろの攻防が繰り広げられることは想像に難くない。経理屋としては悪夢だが、投資判断に役立つというのであれば、喜んでこの身を捧げようと思う。

 まったくもって現実は会計基準が想定するよりも複雑で、万事解決などということなどあり得ないのだ。

コメント

  1. Twitter拝見しましたが
    マジでSYF行くんですか?
    安いとは思いますが、マジで?
    下がった理由は債務というよりも
    ウォルマートとの関係悪化でサムズクラブもやばいんじゃないかという懸念だと思うんですけど
    SYFのポートフォリオ中のビッグ5から2社吹き飛ぶかもの状況でげすよ?
    短期的にはたしかにEPSむしろ上がりそうですけど、マジでSYF行くんですか?

    返信削除

コメントを投稿