教科書から一歩踏み込んだキャッシュフロー講座 総説
キャッシュフロー計算書がどのような構成になっているのかご存知の方は多いかと思う。念のため、まずは教科書的な説明を羅列する。
[ 営業キャッシュフロー ]
仕入や製造、売上など営業活動から得られたキャッシュフロー
[ 投資キャッシュフロー ]
設備投資やM&Aなど、投資活動に係るキャッシュフロー
[ 財務キャッシュフロー ]
金融機関や資本市場からの資金調達に係るキャッシュフロー
そして俗にいうフリーキャッシュフロー(FCF)とは、営業CFと投資CFの合計を指す。通常の営業活動(営業CF)と、成長のための投資(投資CF)を行ってもなお余った現金は使途がフリーだ。将来のために手許に残しておいてもいいし、借入金返済や株主還元に回して投下資本圧縮に努めても良い。
キャッシュフローの観点でみる経営は次のサイクルで回っている。
① お金を調達し(財務CF)
② それで事業を営む上で必要な資産を購入し(投資CF)
③ 投下資本で営業活動を行いお金を生み出し(営業CF)
④ 稼いだ利益で事業再投資を行い(投資CF)
⑤ 余ったお金で調達したお金を返していく(財務CF)
「財務活動(成長原資調達)→投資活動(調達資金を事業資産に変換)→営業活動(仕入れて売って)→投資活動(稼いだお金で再投資)→財務活動(それでも余れば調達原資を減らしていく)」
もっと端的に表現するなら、経営の巧拙とはいかに「長期のフリーキャッシュフローを最大化し」、「それを使って自社に最適な資本構成を構築していく」にかかっている。つまり①~④が一つのセットで、⑤はそれとは切り離された別種の意思決定。財務CFは、企業の成長段階では長期的な繁栄のための餌を調達する側面が強く、成熟期が訪れると稼いだ金をどのように使っていくかに重要性がシフトしていく。企業の鮮度を知りたければ、財務CFがその役に立つ。
次に少しだけ具体的な話に移ろう。キャッシュフローと聞いてどのような様式を思い浮かべるだろうか。
「銀行からお金を100億円借りた。」
「設備投資を50億円行った。」
「配当金を30億円支払った。」
それぞれ財務CF+100億円、投資CF-50億円、財務CF-30億円と表現できる。実際のお金の動きがそのまま表記されており、とてもわかり易い。
では、これはどうだろう。
「原材料を100億円仕入れた。」
「売上からの収入が80億円あった。」
表記されていることはある意味で極めて明快だ。誤読のしようもない。
どちらも営業活動に係る支出と収入のため、営業キャッシュフローで次のように記載される。
仕入支出 -100億円
売上収益 +80億円
営業CF -20億円
しかし、先ほどの財務CFと投資CFのわかり易さと比べると、靄がかかったような感じがするのではないか。上記の情報は、お金の動きは良く見えるが、営業活動において何が起きているのかを推測することが困難だ。支出が100億円で収入が80億円ということは、営業活動で損しているんだろうという単純な話ではない。もちろん、本当に赤字販売を行っているのかもしれないが、仕入れた100億円の材料で製造した製品のうち、売上に回ったのは半分の50億円だけで、残りは在庫となっているだけかもしれない。後者の場合、売上収益80億円に対し、製品コスト50億円で、製品自体の利幅は潤沢であり、特段の懸念はないことになる。
そのわかりにくさを解消するため(と実務上の問題により)、多くの企業は営業キャッシュフローを表記する際、次のような様式を用いる。
会計上の利益 +30億円
売掛金増 -30億円
棚卸資産増 -20億円
営業CF -20億円
営業CFがマイナス20億円という結果は同じでも、これなら何が起きているのか一目瞭然だ。利益は出ているが、売掛金と棚卸資産という運転資本が増加して、一時的に資金が流出している状態。おそらく、この会社は急成長中なのだろう。
仕入支出がいくらで売上収益がいくら、というお金の動きをそのまま表記するのを「直接法」、利益から出発してノンキャッシュの収益・費用を加減算していくのを「間接法」と呼ぶ。
会計上の利益は、複数のノンキャッシュ収益とノンキャッシュ費用が含まれている。先の例にもあるとおり、売上と利益が上がっても、顧客から入金がなく売掛金として滞留していればキャッシュフローはコスト先行でマイナスとなる。
また、ノンキャッシュ費用の代表的な例として減価償却費を挙げることが出来る。償却費はキャッシュフローの観点で見ると、先行して支出した設備投資を費用として遅延認識しているものだ。償却費は当期の利益を押し下げているものの、少なくとも当期のキャッシュアウトではない。したがって、間接法においては利益に対して加算する。
「現金は嘘をつかない」という観点から重視されることも多いキャッシュフロー計算書だが、そこにはP/L、B/S、投資、利益処分といった全ての情報が集まる。企業分析をする上でも最重要と言っていいツールと考えている。
次回は総説から離れ、個別企業のキャッシュフローをサンプルに具体的な読み方を書いてみたい。題材はSalesforceとなる予定。
[ 営業キャッシュフロー ]
仕入や製造、売上など営業活動から得られたキャッシュフロー
[ 投資キャッシュフロー ]
設備投資やM&Aなど、投資活動に係るキャッシュフロー
[ 財務キャッシュフロー ]
金融機関や資本市場からの資金調達に係るキャッシュフロー
そして俗にいうフリーキャッシュフロー(FCF)とは、営業CFと投資CFの合計を指す。通常の営業活動(営業CF)と、成長のための投資(投資CF)を行ってもなお余った現金は使途がフリーだ。将来のために手許に残しておいてもいいし、借入金返済や株主還元に回して投下資本圧縮に努めても良い。
キャッシュフローの観点でみる経営は次のサイクルで回っている。
① お金を調達し(財務CF)
② それで事業を営む上で必要な資産を購入し(投資CF)
③ 投下資本で営業活動を行いお金を生み出し(営業CF)
④ 稼いだ利益で事業再投資を行い(投資CF)
⑤ 余ったお金で調達したお金を返していく(財務CF)
「財務活動(成長原資調達)→投資活動(調達資金を事業資産に変換)→営業活動(仕入れて売って)→投資活動(稼いだお金で再投資)→財務活動(それでも余れば調達原資を減らしていく)」
もっと端的に表現するなら、経営の巧拙とはいかに「長期のフリーキャッシュフローを最大化し」、「それを使って自社に最適な資本構成を構築していく」にかかっている。つまり①~④が一つのセットで、⑤はそれとは切り離された別種の意思決定。財務CFは、企業の成長段階では長期的な繁栄のための餌を調達する側面が強く、成熟期が訪れると稼いだ金をどのように使っていくかに重要性がシフトしていく。企業の鮮度を知りたければ、財務CFがその役に立つ。
次に少しだけ具体的な話に移ろう。キャッシュフローと聞いてどのような様式を思い浮かべるだろうか。
「銀行からお金を100億円借りた。」
「設備投資を50億円行った。」
「配当金を30億円支払った。」
それぞれ財務CF+100億円、投資CF-50億円、財務CF-30億円と表現できる。実際のお金の動きがそのまま表記されており、とてもわかり易い。
では、これはどうだろう。
「原材料を100億円仕入れた。」
「売上からの収入が80億円あった。」
表記されていることはある意味で極めて明快だ。誤読のしようもない。
どちらも営業活動に係る支出と収入のため、営業キャッシュフローで次のように記載される。
仕入支出 -100億円
売上収益 +80億円
営業CF -20億円
しかし、先ほどの財務CFと投資CFのわかり易さと比べると、靄がかかったような感じがするのではないか。上記の情報は、お金の動きは良く見えるが、営業活動において何が起きているのかを推測することが困難だ。支出が100億円で収入が80億円ということは、営業活動で損しているんだろうという単純な話ではない。もちろん、本当に赤字販売を行っているのかもしれないが、仕入れた100億円の材料で製造した製品のうち、売上に回ったのは半分の50億円だけで、残りは在庫となっているだけかもしれない。後者の場合、売上収益80億円に対し、製品コスト50億円で、製品自体の利幅は潤沢であり、特段の懸念はないことになる。
そのわかりにくさを解消するため(と実務上の問題により)、多くの企業は営業キャッシュフローを表記する際、次のような様式を用いる。
会計上の利益 +30億円
売掛金増 -30億円
棚卸資産増 -20億円
営業CF -20億円
営業CFがマイナス20億円という結果は同じでも、これなら何が起きているのか一目瞭然だ。利益は出ているが、売掛金と棚卸資産という運転資本が増加して、一時的に資金が流出している状態。おそらく、この会社は急成長中なのだろう。
仕入支出がいくらで売上収益がいくら、というお金の動きをそのまま表記するのを「直接法」、利益から出発してノンキャッシュの収益・費用を加減算していくのを「間接法」と呼ぶ。
会計上の利益は、複数のノンキャッシュ収益とノンキャッシュ費用が含まれている。先の例にもあるとおり、売上と利益が上がっても、顧客から入金がなく売掛金として滞留していればキャッシュフローはコスト先行でマイナスとなる。
また、ノンキャッシュ費用の代表的な例として減価償却費を挙げることが出来る。償却費はキャッシュフローの観点で見ると、先行して支出した設備投資を費用として遅延認識しているものだ。償却費は当期の利益を押し下げているものの、少なくとも当期のキャッシュアウトではない。したがって、間接法においては利益に対して加算する。
「現金は嘘をつかない」という観点から重視されることも多いキャッシュフロー計算書だが、そこにはP/L、B/S、投資、利益処分といった全ての情報が集まる。企業分析をする上でも最重要と言っていいツールと考えている。
次回は総説から離れ、個別企業のキャッシュフローをサンプルに具体的な読み方を書いてみたい。題材はSalesforceとなる予定。
コメント
コメントを投稿