ウィンダム・デスティネーションズ(WYND)にミスプライスの可能性

 久しぶりに記事を投稿したかと思えば、また銘柄推奨かよという声が聞こえたが無視する。
 結論から書こう、WYND株は安い。

 2018年5月末でウィンダム・ワールドワイド(WYN)がスピンオフを行い、存続会社であるタイムシェア企業ウィンダム・デスティネーションズ(WYND)と、スピンオフ会社であるホテル企業ウィンダム・ホテルズ&リゾーツ(WH)が誕生した。
 WYNはWYNDへと社名とティッカーシンボルを変更し、分割前のWYN 1株につき、WH 1株が割り当てられた。つまり、現時点においてWYNDとWHの株式数は同じであり、株価の差が時価総額の差を表しているわかり易い状態となっている。分割前のWYN株はおよそ110ドルだったのが、当記事執筆現在、WYNDが50ドル、WHが62ドルという感じで、2社合算で分割前の評価額を維持している感じだ。

 最初に感じた違和感は、WYNDの株価がWHより低かったことにある。分割前のWYN時代に私なりに分析した結論は、当社の株主価値はホテルよりもタイムシェア事業の方が大きいというものだった。それなのに、タイムシェアの方が時価総額が小さいなんて。

 WYNDのIRサイトには、WYNDとWH両社のプロフォーマ・ベース(分割影響反映後)の2018年EPS予想が記載されている。

 WYND :予想EPS $4.65前後 (PER10.5倍)
   WH :予想EPS $3.05前後 (PER20.3倍)

 利益額の少ないWHの時価総額が大きいからくりは単純で、PERがWYNDの倍あるからだ。これは果たして妥当な評価なのだろうか。

 WHのPERが20倍である理由は容易に想像がつく。おそらく分割に際して、同業他社並みのバリュエーションが付与されたに過ぎない。例えば同じエコノミー価格帯のホテルチェーンであるチョイス・ホテルズ(CHH)の予想PERは22倍。より高級価格帯のマリオット(MAR)に至っては26倍もある。宿泊需要の高まりで、ホテル企業の評価は軒並み高くなっているのだ。
 WYNDのバリュエーションが異様に低く見える秘密は、おそらくここにある。WYND株価が単純に「WYN-WH」の差引計算で出されたに過ぎないものであるとするなら、WYNが二つの主要事業を持っていたことによるコングロマリット・ディスカウントの歪みが全てWYND株価に寄せられていることになる。

 ためしに、タイムシェア同業の予想PERを確認してみよう。
 Hilton Grand Vacations(HGV) 13.35倍
 Marriott Vacations Worldwide(VAC) 17.24倍

 やはりWYNDの10倍強は不当に安いという感覚が強化されるばかりだ。
 効率的市場仮説信者は次のような反論を行うだろう。

「WYN株にコングロマリット・ディスカウントが存在していたとしても、それが分割直前まで放置されていたということはあり得ない。」
 そうだね。私もそう思ったからこそ分割前からWYNを保有していたのだが、バリュエーションは大して補正されず、期待外れな株価推移だった。もともとWYN株にコングロマリット・ディスカウントなんてなかったのかもしれないけど、分割後のWYNDを見ると、私の考えは正しかったのではないかと思う。つまり、市場は間違っていたんじゃないかな。

「万が一市場がWYNのコングロマリット・ディスカウントを補正し忘れたままスピンオフを迎えたとしても、WYNDのバリュエーションが不当な状態のまま5営業日も放置されることなど考えられない。市場は常にお前より賢いことを忘れるな。」
 うるせーな。そう思ってないから私は個別株をやっているのだ。



ウィンダム・ワールドワイドの分析記事はこちらから

ウィンダム・ワールドワイド(WYN) -見過ごされた安定性-
prenom80.blogspot.com/2017/07/wyn.html 

コメント

  1. こんにちは。ユーリ(元カンガルー娘)です。

    ・Airbnbとの競合を想起しました。仮にAirbnb耐性について、WYND < HGV < VAC であれば、足元のバリュエーションも効率的なのかなと思いました。ただ、少し調べた範囲では、WYNDが弱い根拠が見つからなかったので、WYNDのバリュエーションはHGV程度であっていいように見えました。
    ・同業比較でなく単独で見た場合も、年数%の成長ガイダンスなので、PER10なら割安感があり、16程度を超えると保有に気乗りしないです。

    ついでに冗談を。
    ・WYNDは別荘の不動産屋さんと思われている
    ・WYNDは高配当だから売りだ(HGVは無配, VACは1.3%)

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  2. お久しぶりです。ユーリさんのブログ閉鎖後、私もすっかり更新をさぼってしまいました。
    さて、Airbnbの脅威は直接的にはホテル事業の方に影響を及ぼすと思うので、WYNDの低バリュエーションとは無関係な気がします。(私は旅行、ましてやリゾート休暇などあまりしないタイプのため、肌感覚はありません。)
    一方、WHの価格帯はAibnbの供給ボリュームゾーンと重複が多そうなので、WYN時代から気になっていました。実際、WYNが同業に対してディスカウントされていた要因となっていたかもしれません。業績推移は民泊の影響をそれほど感じさせず、脅威論(?)は杞憂である可能性が極めて高そうですが。
    したがって、WHの同業に対するディスカウントもあまり正当性はないように思えますが、いかんせんPER20倍は絶対水準として高い。それに対し、WYNDはユーリさんご指摘の通り絶対評価でも十分な割安さを感じますので、安心して保有できそうです。
    それにしても配当利回り、たしかに高いですね...

    ※追記
    SBI証券口座においてWH株が割り当てられることはなく、スピンオフ直後の59ドルで強制売却されてしまいました。その後、66ドルくらいまで上がり続けるWH株価を見て何とも言えない気持ちになったことをスピンオフの顛末として記しておきます。

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  3. 民泊を利用する層とホテルやWYNDのサービスを利用する層は違う気がします。(ただ、Airbnbにも別荘滞在型の案件もリストされていますので、ある程度はお客さんが流れているかも。)
    いずれにせよ、個別企業を納得できる値段で買えれば良いと思います。

    スピンオフは強制売却になったのですね。コーポレートアクションは注意しないと… 

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