グーグルの不確かなモート

 インターネットブラウザFirefoxを提供するモジラ財団の収益は、少なくとも2014年までその大半がグーグルからもたらされていた。

 アップルとグーグルはスマートフォンOSでしのぎを削るライバルであるが、一方でアップルの貴重な収益源にはグーグルからのフィーが含まれている。その額は年間数十億ドルに上ると推測されている。数十億ドルというのは、アルファベットが自動運転やロボティクスなどの先進事業Other bets部門に投じる年間赤字額を超える。

 グーグルはなぜ多額の金額を支払っているのだろうか。
 形式的な答えはとても簡単で、FirefoxとSafariにグーグル検索を標準仕様として搭載してもらうためだ。知っての通り、グーグルの利益のほぼ全てはアドワーズという検索結果に関連して表示される広告収入から得られている。シェアの高いブラウザに自社エンジンを組み込んでもらうことのメリットは、年間数十億ドルの価値があるということなのだろう。

 それを踏まえた上でもう一度まったく同じ問いかけをしてみたい。グーグルはなぜ多額の金額を支払っているのだろうか。

 グーグルには攻略不能なワイドモートが備わっていると考えられている。なるほど確かに"google"はもはや検索することを意味する動詞にまでなっている。日本でも「ググる」という表現が定着して久しい。誰もが検索と言えばグーグルを連想し、実際に使っている。ワイドモートが存在しないと考えることの方が困難なように思える。

 ところで、一体なぜ我々は検索にグーグルを使っているのだろう。Android OSやChromeブラウザを使用している人間ならばグーグルから逃れることができないのは分かる。しかしそういう制約がない時、グーグルの検索エンジンは無条件に選択されるような質を備えているのだろうか。
 そうでないことは既に答えが出ているように思う。というのも、本当に検索エンジンの質が傑出していて、グーグルエコシステム以外の人間でさえ無条件で同社の検索を使用するのなら、そもそもモジラやアップルに巨費を支払う必要などないのだ。Safariがどのような検索エンジンを標準仕様に設定しようが、その質がお粗末であれば消費者はそっぽを向いて結局グーグルに行きつく。その前に、検索の質が低いことはブラウザの質が低いことにも結び付けられかねず、アップルは金など受け取らなくても自ら進んでグーグルを既定エンジンとするだろう。

 そうなっていないのは、検索の質に実は他社との差がそれほどないことを示唆している。私自身、マイクロソフトのbingを一週間ほど使ってみたことがあるが、ほとんど不便を感じなかった。(ついでに言うと、"プレノン"で検索してもバフェット太郎のブログが表示されないので、検索の質はbingの方が良いくらいかもしれない)

 また、政府の検閲を嫌ってグーグルが中国から撤退した後、百度(Baidu)は何の支障もなくその後釜に座り、以降の株式パフォーマンスはアルファベットを遥かに凌駕している。重要なのは、スイッチングコストの高い企業にみられるような混乱が、同社撤退後に少なくとも表面的には見られなかったことだ。


 グーグル検索が近い将来、検索のシェアを落とすとは私もまったく考えていない。何だかんだ言って、検索結果がGoogle MapsやYoutubeと連動しているのはとても便利だし、それは素早く情報を収集したい人間にとってわずかとは言えない利点だ。私が言いたいのは、グーグル神話は少しばかり誇張されすぎているかもしれないということに尽きる。
 例えばアップルがSafariからグーグルを追い出し、自ら検索エンジンを開発し始めたら… グーグルのものに劣るとはいえ、アップルもMapサービスは既に持っている。iPhoneから革新性が失われて次の収益源がないと絶え間ない批判にさらされ続けたら、アップルが広告収入に目をつける可能性だってあるかもしれない。
 それにほら、やっぱりアマゾンだっていつグーグルの領域を侵犯してくるかわかったものじゃない。今だって、欲しい商品をAmazonのサイトで直接検索して購入する人が増え続けているせいで、グーグル検索から少しずつシェアを奪っているのだから。

 一般に流布するイメージをいったん自分の頭から消去して、改めて企業の強みを考えてみるというのも、グーグルに限らず面白い。先入観は思考を支配してしまうものだから。何か新しい視点があれば、ぜひ教えてもらいたい。

コメント

  1. 数十億円ではなく、数十億ドルでは?

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    1. ご指摘ありがとうございます。他にも誤字があったので修正させていただきました。

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